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【書籍化中!】アルケミスト・アカデミー(旧:双色の錬金術師)  作者: ちゅるぎ
イメージする段階。

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57話 採取旅 初日(後)

ちょっと早めに更新できました!

………でも、おかしいのです。野営までいかないのに文字数ばかりが増える…!

これはいったいなんという名の怪奇現象なのでしょう…!!



 休憩地点で休息を取っていたのはケルトスから首都モルダスへ向かう商人の人達が多かった。




周りにいる中年から青年と幅広い年齢の冒険者が5人1組で3つ、私たちと同じくらいの年の5人が1つ、乗合馬車に乗っていたらしい普通の格好をした人たちが15人程度いた。

 馬車の方へ歩きながら馬車から少し離れた場所で携帯食料などを食べている人たちを見ているとリアンが小声で囁く。



「ライム。食事を作って食べている時に近づいてくる人間には気を付けるんだ。手元には必ず武器を置いて置く様に。あの中に知り合いは?そうか、いないなら僕らがいる時でも油断はするな―――…わかったな?」


「そんなに警戒しなくても」


「食事中や睡眠中は襲われる確率が高い。あとは、排泄時などもそうだな。焚き火を離れる場合は必ず2人以上で行動すべきだ。食事中に気を付けるのは飲食物の近くに他者を近づけない事だ……何かしらの薬や有害なものを盛られたら終わりだからな」


「もしかしてそれも旅の常識?ってやつだったりして」



まさかね、と思いながら聞いてみるとリアンは真面目な顔をして頷いた。

 ぎょっとして思わず立ち止まった私に向けられるリアンの何処か呆れたような目に、慌てて足を動かした。



「稀にただの非常識、もしくは厚顔無恥な無礼者や物乞いに似た者が常識を無視した行動を取るがそういった輩も無視するに限る。旅をする人間は自分の面倒は自分で見るのが基本だからな。よほどの窮地でもない限り助けを求めたりすることはない…――――まぁ、売買を持ちかけることはよくあることだが」


「あ、そっか売ってほしいって言ってくる人もいるんだね。その場合ってどうしたらいいの?」


「そういった場合は僕が交渉する。武器を抜いたり脅迫的行動を取った場合、多少手荒な真似をしても問題はないからな。それでもこちらに対して敵意を示すようであれば捕縛し、巡回騎士や検問所などに引き渡す。それができない場合は殺すのもありだ」


「……物騒だね」


「君はお人好しというか他者に対する距離感が随分甘い。旅をするなら絶対に裏切らない者とするか、魔力契約で契約するかしておくべきだろう。念には念を、だな」



はーい、と返事を返したところで馬車が停めてある場所へたどり着いた。


 御者らしき人や商人の人たちがこちらを向いたのが分かる。

リアンは視線が集まったのを確認するように集まって情報交換をしていたらしい彼らに見えるよう、懐から何かを取り出してマントの胸元に着ける。



「それ、なに?」



金で出来たウォード商会の紋章が型どられたソレには綺麗に染められた短い赤と青のリボン。縁が金で刺繍されていてかなり高そうだ。



「ウォード商会の胸章だな。身分を保証するための物でもある。これを着けていればどこの商会に所属しているのか、どのくらいの影響力があるのかなどが分かるようになってるんだ。この紋章部分が銅・鉄・銀・金といった具合で高価になればなるほど商会での地位や貢献度が保証される。リボンの部分――タレ、というんだが、この刺繍も同じだな。金縁は国に認められている商会のみが使用を認められるんだ」


「……つまり、ギルドカードの商人版ってこと?」


「端的に言うならばそうだ。ほら、あそこに集まっている御者も商人も似たような胸章を胸に着けているだろう?つけていない者で荷物を運ぶのは流れの行商人や違法商だな」



どれどれ、と集まっている人たちの胸元を見ると鉄や銀色の紋章が見えた。

 銀の胸章を着けた商人1人と鉄の紋章を着けた4人がリアンの元へ近づいてくる。

彼らの手に武器はない。




「私どもに何か御用がおありでしょうか?」




長身で品のいい壮年の男性がリアンに一礼をして訪ねてきた。

 口調は柔らかく表情も柔和だ。

その後ろには鉄の胸章を付けた人達がいるけれど皆、20代後半から30代前半といった所だろう。



「食品を扱っている方はどなたでしょうか?可能であれば少し買い取りをさせていただきたいのですが」


「承知いたしました。それでしたら、私の荷馬車へお越しください。今回食料品を運んでいるのは私どもの馬車だけですので」



こちらへ、と促されるまま歩いていくと6台ある馬車の中でも大きく頑丈な造りの2台の元へたどり着いた。

引いている馬も体格がいいし、馬車には赤い旗が付けられている。


 馬車は結構な大きさがあるのでぐるりと円を描く様に停められている。

へぇ、と感心しながら眺めていると商売用の笑顔を浮かべたリアンにグイッと腕を引かれた。

…よそ見するなってことだと思うけど、ちょっとくらい良いじゃないかと思わず唇を尖らせる。



「野菜、果物、肉、魚、調味料など様々なものがありますがどうなさいますか?」


「では野菜と果物から見せていただいてもいいでしょうか」


「では、こちらの馬車へ。こちらでは野菜や果物を運んでいます。他の物もそうですが生鮮食品を多く扱っているので中には劣化防止用の魔道具を使用しているので鮮度は保証いたしますよ」



案内された馬車の荷台には使用人らしき人が2人いて、私たちが近づくと慌てて頭を下げた。

 彼らに何かの指示を出した商人さんは使用人たちが荷台から荷物を下ろして並べ始めたのを確認して私達に向き直る。



「先にご挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか?私はジョラム・ジブレットと申します」


「ほう…イーティスタ商会の創設者殿でしたか。マーラム氏には父や弟が世話になっています。先日も質の良い調味料や麦などを卸していただいたとか。申し遅れました、私はリアン・ウォードです。身分証としてウォード商会の胸章はつけていますが、跡を継いでいる訳ではありません」



名乗ったリアンは略式ではなく正式な礼をしていた。

 礼の仕方はベルにしつこく教え込まれたんだけど、今リアンがしたのは年上の人や立場が上の人、尊敬する人なんかにする為の礼だった筈。

それを受けたジョラムさんは困ったように笑って、リアンに同じ礼を返していた。



「私のような年寄りに丁寧なあいさつは不要でございますよ。商会の代表は退いているただの物好きな老人ですからね」


「―――…そういうことにしておきます。ライム、何か欲しい物はあるか」



にっこりと互いに笑顔を浮かべえていた2人から言い知れぬ圧力みたいなものを感じてまじまじと観察していると突然リアンが振り向いた。


 ちょっと驚いたものの、あまり時間をかけるのも悪いと思って並べられた商品に目を向ける。

 色とりどり、それでいて一目で新鮮なものだとわかる野菜や果物を見て色々考えてみた。


(トランクに入れておけば劣化はしないし、1箱ずつ買えばいいかな)


ちなみにトランクだけど、リアンが持ってくれてる。

魔力認証付きだから開けることはできないけど、トランクを持つくらいはできるからね。



「リーフスとグリーントスカ、カボチャとマトマが欲しいかな。果物はこの柑橘系っぽいのが気になるんだけど」


「この果物は初めて見たな」



どれ、と箱を覗き込んだリアンはじっと艶々した扁球状の小さな果物を見つめる。


 オレンジに似ている色と形だけどそれよりも小ぶりで皮も柔らかそうだ。

私達の様子を見ていたジョラムさんが何処か嬉しそうに目を細めて説明してくれた。



「ああ、こちらは近年出回り始めた柑橘類なのですよ。どうぞ、食べてみてください。皮は手で剥けるほど柔らかく薄い上に、中の果肉は果汁に溢れ甘くさわやかな酸味が癖になります」



ジョラムさんが慣れた手つきで箱の中から1つ、橙色の果実を手にしたかと思えばあっさりと手で半分に割った。

皮を剥いて、中の薄皮に包まれた小さな房を差し出されたのでそのまま口に入れる。



「これは……オレンジよりも甘く食べやすい。甘みも強いが嫌な甘さではない上に柑橘系独特の香りが口の中をさっぱりさせてくれますね。手で皮を剥けるとなると調理や皮をナイフで剥く手間もなくなる…モルダスであまり見かけなかったということは生産量が少ないかあまり日持ちがしない、という所でしょうか」


「流石でございますね。これは【ミカン・オラジェ】という比較的新しい果物でございます。偶然できた果実でして元となる木を量産するのにかなり時間を要しました。また、配達に関しても、果皮が薄いため傷つきやすく、傷つけば当然痛みやすくなるのでケルトスの外に出すのは今回が初めてなのですよ」


「そうでしたか。そういった経緯があるからこそ、創設者であるジョラム殿が同行している、と」


「はい、その通りでございます」



ニコニコと笑うジョラムさんに聞きたいことが1つだけあった。

 質問して良いんだろうか、と視線を彷徨わせているとジョラムさんと目が合ってしまう。



「質問等ございましたらどうぞ、なんなりと」


「あ、は、はい!ええと……その、オラジェっていうのは」



私の質問でジョラムさんは何故かとても嬉しそうににっこりと目尻を下げ、口角を上げた。

 リアンも気になっていたらしく咎める様子はなく静かに耳を澄ませている。



「この【ミカン・オラジェ】という名前の由来は、錬金術の母とも名高いオランジェ様が初めて失敗作として捨てられそうになっていたこの果物を食べた際に「みかん!」と高らかに命名されたのがきっかけなのです。恐る恐る食べてみた農家もその美味しさと食べやすさに感動し、量産を決めたとか。オランジェ様はその農家から果実を譲り受けた際、お礼としてお手製の万能薬と当時流行していた伝染病の薬を無償で大量に譲って下さったとか」


「………おばーちゃん」



思わず頭を抱えた私にジョラムさんの驚いたような視線が向けられたのが分かったけど、それに応えられる力は残ってなかった。


 おばーちゃんの所に来ていたお客さんから時々、おばーちゃんの食材や食事に対する熱意の凄さを聞いてはいたけどこうやって生で聞くと脱力感が半端ない。

思わずその場で両手両膝をついて項垂れる。



「申し訳ありません、彼女はオランジェ・シトラール様の孫なのです」


「なんと!それはそれは…!これも何かの縁、どうぞ、この【ミカン・オラジェ】をお持ちになってくださいませ。オランジェ様の血族は皆、亡くなっていると思っていたので……何よりですな、尊い血がこうして受け継がれているとは。その腕輪を見る限り、錬金術を学んでいる最中の様でございますし」



嬉しそうなジョラムさんにあはは、と愛想笑いをしつつ立ち上がる。


 いやーその後は凄かった。

私が魔力認証付きのトランクを持っていると知るや否や、指定した食材や調味料を半値以下の仕入れ価格で売ってくれたのだ。

ついでに、ミカン・オラジェという名の果物はただで1箱貰っちゃったし。


 流石に申し訳なくなったのでおばーちゃんが作った中級ポーションを2つ渡した。

中級ポーションならいっぱいあるし、霊薬とか上級のポーションじゃないからいいかなって思ったんだよね。

 リアンも何も言わなかったし…何故か額を押さえていたけど。



「こ、これは…?」


「色々値引きして貰ったり珍しい物食べさせてもらったので…お礼です。おばーちゃんの話が聞けたのはちょっと嬉しかったですし」


「ジョラムさん、それを調合したのはオランジェ様です。詳細鑑定でもそう出たので――…申し訳ないのですが、ソレの出所については内密にしていただけませんか。恐らくそれが最後の回復薬ですので」


「そのような貴重な物を…!!ライム様とおっしゃいましたか、流石にこれでは頂きすぎるのでこちらをお持ちください。これは我が商会でしか使えないのですが、いつでも原価での取引が可能です。これも何かの縁、我が『イーティスタ商会』をご贔屓にしていただけると幸いです」



恭しく回復薬をポーチに仕舞いこんだジョラムさんから紋章が掘られた薄く小さな鉄の板を渡される。

呆然としている私を放置してリアンがさっさと挨拶を済ませ私の腕を引いてその場から離れた。


 馬車が止められた一角から離れた所で私は思いっきりリアンに怒鳴られる。



「この馬鹿者!!以前あれほど軽々しくオランジェ様の作った回復薬を出すなと言っただろう!!」


「うぐっ。で、でもリアンには止められなかったし、作ったのがおばーちゃんだって言わなきゃわからないと思うよ!」


「止める前に君は渡してしまっていただろう!?それに、商人はああいう場で貰ったものは後で必ず価値を確認するんだ。君がオランジェ様の血縁だと知った以上、念の為に詳細鑑定することも十分考えられる。あそこで釘を刺して置かなかったら変に噂が広がって狙われることになりかねなかったんだぞ、そんなことにも気づかないのかっ?!」


「狙われるって……私が?」


「君と君の周辺が、だ。いいか、今後はオランジェ様の薬は他人に渡すな。渡したいと思った場合は僕かベルに相談しろ、絶対にだ。今回の相手はジョラム殿だったからまだいいが、商人にオランジェ様の薬を見せたら確実に囲い込まれるか狙われる。商人として成功したいという想いが強い人間は無数にいるんだ、ジョラム殿は若い頃に何度かオランジェ様に助けられ、恩を感じていると聞く。孫である君が危険な目に合うのを良しとはしないだろうから、ひとまず安心してもいいとは思うが……念の為父には知らせておく。いいな」


「(どうしよう何か、大事になった)は、はーい…」



ブツブツと暫く注意と忠告を兼ねた説教をされたけれど、食事の準備があることも考慮してくれたのかディルがいる竈の辺りに着く頃には普段通りのリアンに戻っていた。


 ディルは私たちが戻ってきたのを見て、竈の傍から立ち上がった。

よく見るとすでに火がつけられている。

薪拾いをしてくるとその場を離れたので私は有難く食事の準備に取り掛かる。



「わ、火も点けてくれたんだ!ありがとう、ディル」


「気にしなくていい。初級魔術は習得しているから火種や水が欲しい時は言ってくれ。魔力だけは人一倍あるし時間が経てば魔力は回復するから。それと、水はこの桶に入れておいた。魔力で出したものだからそのまま飲んでも問題ない」


「至れり尽くせり、だね。なんか芸達者になっててびっくりだよー」


「そうか?まぁ、ライムが嬉しいならいいんだが。俺も薪を集めてくる。飯ができたら教えてくれるか?視える範囲にいるから手を振ってくれれば戻る」



じゃあな、と頭を撫でてから近くの林へ向かうディルに手を振って見送った。

 水と火種の心配しなくていいのはかなり助かるなぁ、なんて思いながらトランクを開けて何を作るか考える。



「色々あるしマトマのスープでも作ろうかな。色々食材も手に入ったし」



先ほど買った食材をトランクから出した簡易の調理台に乗せる。

まぁ、調理台って言っても足が折り畳める持ち運び用のテーブルなんだけどね。

持ち運び用のテーブルや椅子はウォード商会で買った。

 何でも揃うよね、ほんと。



「僕は何をしたらいい?食材を切るくらいなら手伝えるぞ」


「じゃあ鳥の肉はぶつ切り、マタネギやゴロ芋、グリーントスカ、マトマを同じくらいの一口大に切ってくれる?」



 勿論、リアンも手伝ってくれたので割と下処理は楽だった。

中くらいの大きさの鍋にちょっと高めのオリーブオイルとニンニクを入れて香りづけして鶏肉、マタネギを炒め、あらかた火が通ったら他の野菜を一気に投入。

軽く塩コショウをして混ぜるのはリアンに任せた。

リアンには火が通ったら教えて欲しいって言ってあるからさっさとメインに取り掛かる。


 追加で取り出した鶏肉を一口大に切ってお酒と香草を揉みこみ、ちょこっと放置。

これまた買ったばかりのリーフスをディルが用意してくれたらしい水で綺麗に洗い、食べやすいように千切りにした。

新鮮なマトマは薄くスライスし使いやすいように並べる。

 次に持ってきた鉄串を洗って、薄くラードを塗ってからお酒と香草に浸けていた鶏肉を刺していく。

3羽分の鶏肉だけど、多分なくなるのは一瞬だ。

なんせ5人もいるし、結構歩いたから疲れてる上に腹ペコだもんね。



「ライム、火が通ったが次はどうするんだ」


「ありがとー。ええと、じゃあお水を少し足して……魔法の粉を入れまーす」


「魔法の粉…?」


「うん。鳥の骨と野菜くずとかを長時間煮込んで作るスープを再現できる“コンソメ”っていう粉ね。おばーちゃんが考えたんだ。作るのは簡単だからこれも大量に持ってるよ」


「……詳しいことは聞かないが、コンソメについても話さない方が良いだろうな」


「え、これも秘密なんだ。なんかどんどん秘密が増えて何も話せなくなりそうなんだけども」


「僕としては君が何故今まで無事に生きてきたのか聞いてみたくなる」



そんな会話をしつつ適量コンソメを投入し、塩コショウ、少量の香草を追加して味を確かめる。

 リアンにも味見をしてもらって「美味い」との評価を貰えたのでパンを切って、鍋を竈から下ろし、代わりに鶏肉を刺した串を焼いていく。

徐々に焼けていくお肉から美味しそうな匂いがするけど我慢だ。


 ポーチから黒い特製のソースが入った瓶を出して、何度か串をその中に漬けては焼く、を繰り返す。

すると香ばしい香りが漂い始めて、うっかりお腹が鳴りそうになるけどぐっと我慢だ。


 全ての串に刺さった肉が焼きあがった所でベル達を呼び戻す為大きく手を振る。

これで来なければリアンに迎えに行って貰えばいいか、と考えつつ切ったパンを軽くあぶって温める。

温めたパンの片方に特製のマヨネーズソースを塗って、千切りのリーフス、スライスしたマトマ、焼いたお肉を乗っけて最後に漬け焼きに使用したソースをたらりと垂らしパンでサンドすれば完成だ。


 リアンには木製のカップにスープを注いでもらっている。

大きめの木皿に1人3つ、サンドイッチを置いて、その横には余った肉の串焼きを2本置いた所で夜に使うには十分な薪になりそうな枝なんかを抱えたベル達が戻ってきた。



「おかえり。ごはん出来たから温かいうちに食べて。お代わりはスープ位しかないけど」



はい、と一番近くにいたベルにお皿を渡せば、リアンが薪を受け取った代わりにスープの入ったカップを渡す。

 立ち尽くすミントとディルにも同じようにお皿とカップを渡して、薪をトランクにまとめて入れた所で私とリアンもそれぞれの食事を持って竈を囲う様に座った。



「ら、ライム…これって、今回だけ、ですよね?流石に」


「今回だけって……サンドイッチの事?あー、実は時間がない時はサンドイッチとかになるかなぁって思うんだけど、嫌ならもうちょっと別の考えるね。あ、一応飽きない様にパスタとお米は用意してきてるよ。それと緊急事態用にオーツバーとか簡易スープもあるけど、食べられない物とか苦手なのがあったら教えてね。できるだけ対処するから」


「いえ、そうではなくて…!あの、こんな豪華な食事をとっていいんでしょうか?私、護衛ですよね?」



ミントはいったい何を言っているんだろうと思わず首を傾げてベルやリアン、ディルに視線を向けたんだけどディルはミントと同じように驚いていた。



「―――…ライムが食事を作るという契約ですし、気にせずに食べてくださいませ。護衛料が安いのも食事の料金を含めて算定してありますもの」


「うんうん。それに食材も調味料もリアンのお蔭で凄く安く買えてるし、全然気にしなくていいよ」



じゃあ、いただきまーす!


 このままじゃ誰も食べなさそうなので、私が一番に食べることにした。

結構大きいパンだから具が挟んである分厚みを増してちょっと食べにくい。


 それでも大きく口を開けてがぶりと齧りつけば、柔らかいパンとシャクシャクしたリーフス、酸味がある瑞々しいマトマ、程よい弾力と噛めば噛むほど油がじゅわりと溢れ出す鶏肉。

ショーユを使った甘辛い特製のタレとマヨネーズは相性抜群だった。


 空腹だったのもあってか一口、二口と食べ進めるとリアン、ベルが私と同じようにパンに齧りつく。

数口咀嚼して、2人とも黙々と食べ進めてるんだけど満足そうな顔をしてるので口には合ったんだと思う。



「い、いただきます…!」



私達の様子を見てミントとディルもパンに齧りつき、凄い勢いで食べ始めた。

 リアンやベルは綺麗に、上品に食べるんだけど……スピードは速い。

ディルといえば昔と同じように大きく口を開けてバクッと結構な大きさがあるパンの3分の1くらいを食べて、あっという間に2つ目に取り掛かっている。



「お、美味しいですぅ…!ライム、これっ、これ、本っ当に美味しいです!こんな美味しいもの、お店でもなかなか食べられないですよ!?いいんですか、こんな美味しい物食べさせていただいて…ッ」


「えへ、えへへ。いやぁ、そう言ってもらえると晩御飯作るのも気合入るよ!どんどん食べてね、食べ切れなかったら私のポーチに仕舞っておくことも出来るけど、夕食は夕食でちゃんと渡すから」


「―――…幸せすぎます……!ライム、護衛がいるなら是非!是非私を誘ってくださいね!お友達としても、護衛としても一緒に旅に出られるのは嬉しいですから」



キラキラと目を輝かせてからパクパクと他の皆に劣らないスピードで食べ進めるミントに驚きつつ、作った物を喜んで食べてもらえるのはやっぱり嬉しい。



(嬉しいけど、なんだろう……餌付け感が、いつにも増して凄いっていうか)


「ライム。スープのお代わりを貰ってもいいか?」


「うん、いいよ。私が一番スープ鍋に近いからカップ頂戴。ええと、他にお代わりする人は…」


「私にも下さいませ」

「わ、私も欲しいです!」

「…貰ってもいいか?」


「はーい」



皆よく食べるなぁ、なんて感心しつつスープをカップに注いでは渡すこと四回。

綺麗に鍋のスープが片付いた。



(結構な量が入るんだけどな、あのカップに)



良く食べるなーなんて感心しつつ、二つ目のパンに齧りつく。



「ディル、まだ食べられそうなら私のパン一個食べてくれる?」


「……いい、のか?」


「うん。スープも串も食べたし、なにより料理作ってると結構お腹いっぱいになるんだよねー」



ほい、っと肉串一本しか残っていない木皿にパンを移せばディルは嬉しそうに食べ始めた。


 感心しながら食べ終わった食器を回収して水が入った桶に使い終わった食器を入れてポーチから食器洗うための布と拭く為の布を取り出したところで後ろから声が降ってきた。



「ライム、洗い物なら僕がする。少し休んだらどうだ」


「やってくれるなら任せるけど、体力の温存とかいうのはいいの?食器の数も少ないし片付けくらいできるよ」


「初日だから体力の配分を把握するためにそういう手段を取っているだけだから、問題はない。それに食事の後片付け程度じゃ疲れないさ――…座る前に茶葉を出してくれ。君も飲むだろ」


「やった!でもお茶菓子はなしでいいよね?お腹いっぱいだし」


「だな。それと菓子を付けるなら夕食後の方が助かる」



洗い物の数も少なかったのであっさり片付いた。


 その後は竈にディルが淹れてくれたお水をヤカンで沸かし、お茶を飲んだ。

飲んだことのない味のお茶だったから聞いてみるとウォード商会で扱い始めたハーブティーらしい。

しみじみとお茶を味わっている私とは反対にミントとディルは早々に飲み終わって冒険者たちが集まっている方へ情報収集に行ってしまった。

 その後ろ姿を呆然と眺めているとベルが苦笑しながら教えてくれた。



「情報収集は護衛の仕事の一つなのよ。それを知ってるってことは本当に“護衛”経験があるってこと―――…まぁ、普通の召喚師は知らないでしょうけど。召喚師は雇う立場になることが多いし、殆どが国に仕えてるから一般的な護衛経験がある人間は少ない筈なのよねぇ。ああ、それと召喚師が槍を使うのも珍しいわよ。ふつーは杖で後衛や支援担当だから。肉弾戦は召喚獣や雇った冒険者がするから」


「――…あの冒険者たちを後に回すのも正しい判断だな。商人に雇われている護衛は基本ランクの高い冒険者が多い。冒険者や騎士には独自の情報網がある。逆に言えば情報に疎い人間や評判のよくない者は使わない方がいい」



ぼーっと二人の話を聞きながら二人の様子を眺める。

 話しかけられた護衛の人達はディルの高そうな身なりと召喚科の腕輪を見て目を見開き、シスターであるミントをみて二度目の驚きと戸惑っているみたいだった。



「……流石に、ちょっとかわいそうですわね。召喚師とシスターが護衛で話を聞かれるとは思ってもみなかったでしょうに」


「確かに、まぁそこは同情できるな。僕らも遠目から見て錬金術師だとわかるだろうし」


「え!私達ってすぐに錬金術師ってわかるの?!すごいっ、え、どのへん!?やっぱり器用そうな顔してるとか、頭良さそうにみえるとかかなっ!?」



「ライム、貴女…」



ベルが額に手を当てて上を向き、リアンには可哀想なものを見るような目を向けられる。

え、何その反応。酷くない?



「君は本当に周囲に目を向けた方が良い。僕らのような恰好をした人は錬金術師しかいない。それに、先ほど挙げた条件が判断基準なら間違いなく、君は錬金術師には見えないだろうな」


「……ねぇ、なんか今不器用で頭悪そうな顔してるって言われたような気がするんだけど」


「少なくとも不器用というよりは平和ボケしていて騙しやすそうで警戒心の欠片もなさそうだっていうなら納得できるわね」



なんか、最近ベルとリアンからの扱いが酷いんだけど!


 失敬な!と憤慨してみた所で懇切丁寧に一から十まで駄目な所を説明されかけたので、ポーチから乾燥果物を取り出して二人の口に突っ込んだ。

 情報収集から戻ってきたミントとディルが不思議そうに首を傾げてたけど、無言で出ている道具をトランクやポーチに片付けて歩き始める。



(ふーんだ!私だってちゃんと錬金術師っぽい顔してるはずだもんね!)



 一瞬、ミントやディルに同じ質問をしてみようとも思ったけど……立ち直れなくなったら嫌だから止めておいた。





 ここまで読んでくださってありがとうございました!

続きもできるだけ早くかければなーとは思っていますが、どうだろうか。

後半は仕事がアレなのでなかなか難しいやもしれません……


=食材=

【リーフス】

瑞々しい歯触りが特徴の葉物野菜。

黄緑の葉が折り重なって一つの球状になっている。

現代でいうレタス。


【グリーントスカ】

長さ20センチ程の細長い野菜。

濃い緑色で火を通してもシャクシャクとした歯触りを保つ。

皮ごと食べられる上に、油と相性が良い。

生でも食べられるがスライスして水に晒し軽く灰汁を抜く。


【カボチャ】

文字通りカボチャ。

固い黒~緑の皮が特徴だが皮もしっかり火を通すことで食べられる。

果肉は橙色~黄色で低温で保存すると甘みが増す上に長期保存が可能。


【ミカン・オラジェ】

薄い皮を手で剥いて食べることができる柑橘類。

十センチ程度の扁球形の実で濃い橙~黄色。

甘い果汁と爽やかな香り。

 名前の由来はライムの祖母であるオランジェが初めて食べた時に「みかん!」と叫んだかららしい。


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― 新着の感想 ―
「みかん」を見つけたのに、こたつの導入はしなかったんだね、オランジュ祖母ちゃん。 まあ、あれがあると冬はこたつから出れなくなるしね。 温かな錬金釜の付近で、調合したり研究したりしながら過ごすのが、正し…
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