297話 にゅーふぇいす!?
やっと!完成!
今回、女性特有の生理現象について記載があります。シレっと読めるとは思いますが、苦手な方がいたらするーっと読み流してくださいませ。
早朝、降り積もった雪が解けきって、柔らかい日差しと、色鮮やかな緑が芽吹き始めている。
街の外でも、街中でも生き生きとした眩しいほどの草花が瑞々しくも日常を彩っていくのを日々見つけるのはとても嬉しいし、楽しい。
まだ朝が寒いことも多いけれど、日中はぽかぽかと暖かい陽気で、工房に商品を買いに来る冒険者も増えてきた。
「さってと……今日は【うどん】でも作ろうかな」
よぉし、と腕まくり。
地下から必要な素材は持ってきたけど、分量を量るのはとっても楽だった。
三つしかないからね、素材。
エプロンをつけて、かなり多めに【うどん】をつくると決めたので、気合を入れないと多分腕が死ぬ。
そんなことを考えながら、私は水と塩を調合釜に投下した。
調合レシピはこんな感じ。
【うどん】分類:食べ物 調合難易度:中
小麦粉+塩+水
※季節・使用する小麦粉によって塩と水の量が異なる。手作り(魔力なし)の場合は注意
夏は塩分濃度13%、冬は10%。加水率は50%とする。
しっかりとしたコシのある弾力をもつ、独特の麺類。パスタとは違う。
寒いとき、暑いとき、いつでも美味しい。
手順
1.水と塩を調合釜に入れ、魔力を注ぎながら弱火で混ぜる。沸騰はさせない。
2.①で作った塩水(魔力入り)を一度取り出して、常温程度に冷ます
3.調合釜へ小麦粉を入れ、魔力を込めて混ぜながら、少量ずつ塩水を足していく
この時、ヘラを使って混ぜる。全体的に、そして均一に混ぜることが大事で、そぼろ状→全体的にしっとりとある程度まとまる様に
4.ここまでまとまったら、魔力を注ぎながら押し練る様にヘラや【押しベラ】を使って一つにまとめていく
※押しベラは、先端が円形になった特殊なヘラ。ヘラとしても使えるようになっているので、調合釜の中で力を込めて練る、という作業に向く
5.まとまったら、押し広げ、畳む、を繰り返す。魔力を注ぎ続け、生地がつややかになったら完成。
6.取り出して、生地を畳み(この時、生地がくっつかないように小麦粉を少し多めにふる)ゆであがった際に、多少うどんが太くなるのでそれを考慮しながら好みの太さに切る
7.調合過程は6で終了になるが、食べる際はたっぷりの熱湯で茹で(15分以内)、ゆであがったうどんは素早く冷水にさらし、麺をこすり合わせるようにして表面のぬめりをとる。
温かいものが食べたい場合は、その後、熱湯などをかけ、温度を上げてから汁へ。
そう、素材自体は少ないんだけど、魔力を結構使うのと、力を使うのであんまり作りたくない。いや、作るけどね。運動不足にもいいし。
力を入れて、しっかり折り畳み、伸ばす、っていうのをしないとうどん独特のコシが生まれない。ちなみに、手打ちっていう、調合釜を使わない方法もあるんだけど、こっちの方がかなり大変。
「久しぶりだから気合入れなきゃ」
氷水を用意したので、作った塩水はそこで冷却。
その間、小麦粉を混ぜながら魔力を全体に馴染ませるように注いでいく。
ある程度、というか塩水より少し多く粉に魔力を注いだら、少しずつ塩水を投入。
使うのは調合用ヘラなんだけど、本当に軽く混ぜ合わせるような感じ。
この後にする『押し混ぜる』みたいな力の入れ方にならないように注意して、慎重かつ手早く両手でヘラを使う。
暫く無心で魔力を加えながら水加減を調整し、やっと押し練る状態に生地を持って行く。
ここからはスピードと力勝負だ。
今まで使っていたヘラを別のものに持ち替える。
次の動きは生地を調合釜の底へ伸ばすように押し、平になったら畳んで、再び押し付けるように伸ばしていく……これの繰り返し。
全身を使ってうどんを捏ね上げ、生地の表面に光沢と艶が出たのをしっかり確認してからやっと生地を取り出した。
「はー…つかれた…とりあえず、打ち粉をしてバッドに入れてから後でまとめて切ろう。もう一回、調合しなきゃ」
人数が増えたので量もいる。
最大調合量で作っているけど、いざ食べるってなると朝食で食べきるのは間違いない。
ひぃひぃ言いながら、二度目の調合を終えた所でサフルが私にコップを手渡してくれた。
腕がプルプルしてコップを落とすかと思ったのは内緒だ。
「あ、ありがと……ごめん、サフル。ちょっとお湯を大きな鍋に沸かしておいてくれるかな。スープは作らなきゃ」
けど少し休憩、とソファへ。
片づけてもいいでしょうか、と言われたので、ありがたくお願いした。
少し腕を休ませないと無理だ。
かなり早めに起きたお陰で、いつもより少し早い時間にうどんの準備ができ、スープも完成。
ちょっと物足りないかな、という事でホウジュ貝の貝柱とグリーントスカ、ブロコロに塩コショウをして高級なルブロとショウユを使って仕上げた炒め物、マッシュしたゴロ芋サラダを用意した。
茹で時間が結構あるので、いつもベルたちが起きてくる時間に合わせて先に茹でることに。
サフルにはタイミングを見てそれぞれに声掛けをしてもらって、味が落ちないうちに食べてもらおうって話をした。
奴隷の四人は、今泊まり込みで研修を受けているから、そのうち食べさせてあげようと思う。
ぼこぼこと沸く大鍋に粉を軽く落としたうどんをバラバラと投入。
くっつかないよう、混ぜながら茹でて、氷を浮かべた水をちらっと見る。
ここで洗って、ざるで軽く水を切ったらお湯で温めて、熱く沸かしたスープをかけたら完成だ。
具は、シンプルに刻みリーク。
うどんのスープは、ボア系の肉とキノコを煮て、醤油と酒、塩で味を調えたシンプルなものにした。こっちのほうがおいしいんだよね。
「おはよう、随分と早……なんだそれは」
「おはよー、リアン。もうちょっとで【うどん】ができるから、お箸用意して」
「あ、ああ。茹でているということは麺類か。初めて聞いた名前だ」
「前に、新しい麺料理を作ってあげるって話したでしょ? それだよ。すごく疲れるけど、美味しいんだ。おかわりできるけど、茹で時間が結構かかるから最初から二人前出すね。多いようだったら残してもいいし」
残してもいい、とは言ったけど多分、全部食べきれると思う。
ちゅるんって食べられるからね。麺そのものに弾力があるから、割とお腹いっぱいになるし。
うどんでお腹が膨れなくても、おかずはたっぷり作った。
二種類だけど、こっちもサフルと一緒に味見して美味しかったから、なくなるとは思う。
うどんが茹で上がったかどうかの確認は、数本うどんをとって冷やし、食べることで判断。
その時に数本をルヴとロボスにも分けてあげたんだけど、あっという間に食べてしまった。
気に入ったのはロボスの方で、尻尾をぶんぶん振って名残惜しそうにしてた。
ルヴは焼いただけのホウジュ貝の貝柱を欲しがったので、とりあえず一度だけお代わり。
この後、この二頭は外に行って狩りの練習をするみたいだからね。
もう、教会の裏庭から外へ行って、狩りにいそしむのが日課になってるみたい。
時々お土産として動物を狩ってきていたんだけど、最近、簡単な魔術が使えるようになったみたいなんだよね。ルヴとロボス。
「今日も外に行くの? これ、飲んでからね」
どうぞ、と作った麦茶を差し出せばそれも綺麗に飲み干し裏口へ。
二頭用の通路を作ったのでいつもそこから出入りしているんだよね。
帰ってきたら、自分で足ふきマットで手足を、ときに体を拭いて戻ってくるお利口さんだ。
たまーに一緒にお風呂にも入る。
二頭を見送ってから、次のうどんを投入。
混ぜながら食卓についたリアンが物珍しそうにうどんを観察し、意を決したように箸を手に取った。
箸は最初、私とリアンだけが使えたんだけど、ベルもラクサも今では普通に使えるようになってる。リアンは昔、旅をしている間に覚えて、私はずっと使ってたんだけど……便利そうだからって二人とも覚えたんだよね。ラクサは割とスムーズに、ベルは必死に練習してたっけ。
「……! ライム、これは作るのに時間がかかるのか?」
「時間もかかるし、体力も使うし、魔力も使うけど美味しいよね。うどん」
「いや、本当に美味いなこれは…麺料理といえばパスタだと思っていたが、僕はこちらの方が好みだ。少し気になったんだが、他にも麺料理はあるのか?」
「あるよ。すごくおいしいのがあるんだけど、作るのに時間かかるから……あんまり作りたくないんだよね」
「そう、なのか。僕に出来る事があるなら言いつけてくれれば何でもするが、どのくらいかかるんだ?」
おばーちゃんお気に入りの麺料理はスープを作るのに丸一日かかる。
具も結構必要だから、チャーシューっていう豚肉をタレで味付けして煮たものを用意しないといけないし、スープを作るのに必要な素材が海に行かないと手に入れられないっていうのもあるし。
そのうちね、と返事をしつつ、まだ眠たそうな顔で起きてきたラクサに挨拶をしてすぐさま完成したばかりのうどんを手渡す。
「おはよー、ラクサ。これ朝ごはんなんだけど、麺が伸びちゃうと美味しくなくなるから、座って食べてね」
「はよッス。うわ、めっちゃうまそうじゃないッスか! これ、なんて食いものなんスか?」
うどんだよ、と答えると恐る恐る、そっとうどんを一口。
咀嚼を数回した所でどんぶりをもってすごい勢いで食べ始めたので、私とリアンの動きが止まる。正直、こういう食べ方をするラクサは珍しい。
「ら、ラクサ?」
「んっっま!!! うんまいッス! このうどんってやつ! お代わりしたいんスけど、あるッスか?!」
「え、あ、えーと……一人前なら何とか」
「リアン、オレっちお代わりするッス!」
「あ、ああ。まぁ、そんなに食べたいなら」
珍しくグイグイ押していくラクサにリアンも戸惑いつつ、頷いた。
ひとまず、今茹でている分を渡して、追加でサフルとベルの分を茹でる。自分の分は一番最後だ。
ベルもこの後起きてきて、丁度のタイミングだったのでサフルと二人で食べてもらったけど、ベルにも好評だった。
私も久しぶりに食べたんだけど、ラクサがずーっとうどんの魅力について熱弁していて、少し怖かった。
次は、次は?!と催促されて、結局夜も作ることに。
結構疲れるんだけど、という話をしたら真顔で「腕とかマッサージするんで作ってください」って標準語で懇願されたら頷くしかないと思う。
了承した途端にニコニコしながら、これで試験もバッチリ合格ッスよー!なんて言っているので、私たちはやっとラクサの試験が近いことを思い出した。
「そういえば、試験もう少しだっけ?」
「三日後ッスね。最後の追い込みってことで色々作ったり、頭に知識詰め込んでるんスけど……で、できれば試験の日の朝食をうどんにしてもらったりは」
「んー、ラクサの分だけ特別に準備しようか? 私達はパスタとかかな」
よっしゃー!と嬉しそうに飛びついてきて、私をひょいッと両手で持ち上げクルクル回る。
凄い喜びようだな、と思ってたらリアンに頭を叩かれていた。
ベルは苦笑しつつも、食器を洗いに。
サフルは庭の手入れへ向かったので、私は地下に素材を取りに向かうことに。
作りたいものがあるんだよね。
そんなことを考えつつ、リアンの横を通ったことで在庫表のことを思い出す。
使いたい素材の数が少ないなら実験する前に、今後の販売予定とかも考えなくちゃいけないし。
「リアンは増やしておきたいものとかある? あと、これがなくなると困る、みたいな素材」
「いや、これといって―――…ああ、素材といえば、ライムに確認しようと思っていたんだ。いつのまにか見慣れない素材が増えているんだが」
心当たりは、とにっこり笑われて『誘拐』された後に採取した素材について報告するのをすっかり忘れていたことに気づく。
リアンが私に見せた素材一覧表にはしっかりと『血豪扇』『水豪扇』『ドクハキ草』と書かれていて、口元が引きつっていくのが分かった。
誘拐騒動が収まってそのまま冬期休暇に入ったから、リアンやベルとはあまり工房で過ごせなかったんだよね。リアンは聖鐘祭の時に帰ってきて、三日くらいは工房にいたんだけど直ぐに迎えに来た弟のアリル君に引きずられて帰って行ったし。
トーネたちは、冬期休暇中住み込みでウォード商会と冒険者ギルドを行き来し、最近は奴隷ギルドで奴隷用の職業訓練を受けているみたい。それと並行して、シシクは大工としてラクサが紹介してくれ、シシクを気に入って技術を教えてくれるという職人さんの元でも修行をしてる。この職人さんに関しては私が『お礼』としてお金を支払ってるけどね。
つまり、忙しかったのだ。色々と。
「えっと……は、話そうとしてたんだけど、機会がなくて?」
「君のことだから、忘れていたんだろう。全く」
はぁ、とため息をつかれて唇がとがっていくのが分かった。私にも言い分があるんだよね。
ただ、今までなら呆れられて終わりだったんだけど、目の前のリアンは私の表情を見て話を聞く姿勢に。
最近というか聖鐘祭を終えた頃くらいから、リアンの行動に余裕が生まれたみたい。
神経質っぽい感じが少し収まって、几帳面だなぁって感じるレベルに下がったっていうか……夜、私が起きてると時々自室から出てきてホットドリンクを飲みながら話すことも増えたし。
「忘れてたのもあるけど、皆バタバタしてたし……リアン達も大変だったっていうのは、少しずつ色々聞いてわかったから『採取してお土産持ってきたよ!』って言いだしにくかったんだよ。いや、良いものをばっちり採取してきたっていう自負はあるけどさ」
「……なるほど。納得はした。そういう事なら、黙っているという判断は正しいかもしれないな。あの状況で君の詳しい事情を話すよう言われていたと思うぞ。ディルあたりは自白効果のある飲み物でも飲ませそうだからな。そうなると【人魂花】のことも話さなくてはいけない状況になっていただろう」
「ディルはそんなことしないと思うけど」
「するぞ、あの変態貴族は」
間違いない、と言い切ったリアンに口元が引きつった。
ディルは、冬期休暇中、凄まじい量の手紙を送ってきて『これは社交界で食ったんだが、美味かった。おすそ分けだ』とか『今何をしてるんだ? 俺は』みたいな感じで詳しい状況を書いて逐一送ってきていた。私も勿論返信してたんだけど、手紙代がかさむのと調合しなくちゃいけないものが沢山あったから頻度を減らして貰ったんだよね。
気を取り直して、改めて地下室の前で使いたいものについて聞いてみることに。
一応、販売できる商品を使いたいって思ってるから、商品管理を担当してくれてるリアンの許可は取っておいた方がいいかなって。
ちなみにベルは基本的に好きに使うタイプで「これ使ったわよ」って事後報告してはリアンに小言を貰っていたりする。
「リアン、私の所にいくつか『長く痛みを抑えられるような薬を作って欲しい』って要望が来てるんだよね。主に、職人さんと仲良くなったおじいちゃんおばあちゃんからなんだけど」
「その話は初めて聞いたんだが……いつの間に仲良くなったんだ?」
「え? 買い物中だけど。農家のおじいちゃんとかおばあちゃんとか結構話しかけると答えてくれて、そのうち顔見知りっていうこともあってか素材のこととかも色々話してくれるんだ。割と悩み事とか収穫についてとか、世間話も多いんだけどね」
この間はオマケだよ、って野菜の種を貰った。
一般的に売られている種ではあったけど、買わなくていい分嬉しいし、そこの農家さんの野菜は甘くておいしいから嬉しかったっけ。代わりに乾燥させたキノコとか渡した。
あ、同じくらいの値段で買える量だから物々交換みたいになってるんだけどね。
そんな話をするとリアンが遠くを見ながら「また僕の知らない知り合いを増やして…手間が」とかなんとかって呟いてた。
「話を戻すけど、そういう話が結構あるから水豪扇を使って、痛いところにピタってくっつけておけば薬効が上手い事効かないかなぁって思ってさ。リアンは使わないから分かんないと思うんだけど、血豪扇の生理用品って、血を吸った後に燃やしやすいようぼろ布に包むんだけど、その時に血の色が少し滲むの」
女特有の生理現象に疎いかと思って、生理用品について説明しなくちゃいけないかなと思ったんだけど、その必要はなかったみたい。
ああ、と納得したように頷いて、真剣な表情を浮かべる。
「なるほどな。男の僕は使ったことがないが、血豪扇を使って考えられた生理用品は女性にとって今やなくてはならないものだと母から聞いている。そういう感じなのか」
「そうだよー。一日で終わるから便利だけどね」
普通なら一週間程度出血があるんだけど、自分の意志でどうこうできるものではないから冒険中はかなり困っていたと聞いている。
だって、魔物とかモンスターって血の匂いに反応するのが多いんだもん。
昔は、そういう時、奴隷を連れていってわざと流血させることでターゲットになる確率を減らしていたりしたみたいだけど、出血だけじゃなくて体が重く感じたりとか、疲れやすかったり、人によっては痛くて動けなかったりっていうのもあるから苦労してたみたい。
「女性は大変だとは思っていたが、君も無理はしないように。僕やラクサからこういうことに関してあれこれ言うことを不快に思う女性も多いだろうから、今まで聞かなかったが……そういう時は無理して食事を作ったりはしなくていいからな。店番も問題なく僕とラクサ、サフルの三人で対応できる」
「今のところ大丈夫だよ。私とベルでキツい時は話をして代わりに動いたりしてたし。私は気にならないけど、ベルは貴族だからこういう話をリアン達にはしないかもね―――…って、また話がそれた。えーと、そういう状態をみてきたから、水豪扇に薬を染み込ませて、患部に貼り付けたらじんわり薬が滲んでゆっくり、長い間痛みを減らすことができるんじゃないかなって思ったんだよね」
「貼り付ける、というのはどうするつもりなんだ」
「布で押さえるっていうのも考えたんだけど、いい案が出てこなくって。しっかりくっつくけど、剥がれにくい……粘着系の素材に心当たりあったりしない? 反対側にしみないように、防水布を使えばいいかなぁとは思ってるんだけど」
私の案を聞いて、リアンも『作れる』と考えてくれたらしい。
ベルの意見も聞きながら、試作してみようってことになった。
で、地下に降りて素材と共に作業台へ向かったのはいいんだけど、応接用のソファに知らない人が座っていて、その前で困った顔をしているベルと目が合う。
ギョッとする私の横で、素早く鞭を構えるリアンをみてベルが慌てて近づいてきた。
「落ち着いて頂戴。この子は安全よ、私の客だもの……えーと、二人の客にもなるのかしら? まぁ、いいわ。とりあえず、紹介だけさせてもらえないかしら。あまり時間は取らせないから」
珍しく困ったような、でも困り果てた、みたいな表情のベルに私たちは顔を見合わせ、とりあえず素材を作業台においてから応接ソファの、お客さんの前へ。
ベルはお客さんの横に移動したので、私はベルの前に座る。
お茶は、という間もなくベルはすぐに口を開いた。
「この子はアーレイ・セドラ・ポメロ。今年、騎士科に入学が決定した『貴族騎士』よ」
そういって掌を向けた相手は、キラキラの金髪と紫の瞳を持っていた。
にっこり、と笑って軽く会釈されたのでつられて返す。
目が笑ってないというか笑顔が固定されている所を見ると、間違いなく貴族なんだろう。
「それで、その…」
「ここからは自分の口から伝えさせてください。リアン・ウォードさん、ライム・シトラールさん、この工房にはまだ空き部屋がありますよね? 僕をここに置いていただけませんか」
にこっと美しい笑顔を浮かべ、目の前の少年が笑う。
多分、美少年というならこういうタイプをいうんだろうなーっていう、儚げで何処か気品が漂う初めて遭遇する人種だった。
リアンも私も何を言われたのか一瞬理解するのが遅れ、それでもって、やっと言われた言葉を理解した時には心の声がそのまま口からこぼれていた。
「え。ヤですけど」
ここまで読んでくれてありがとうございます!
やっとはじまりましたー!!!新しい章!(章で良いのかな)
=食材=
【グリーントスカ】
長さ20センチ程の細長い野菜。現代でいうズッキーニ。
濃い緑色で火を通してもシャクシャクとした歯触りを保つ。
皮ごと食べられる上に、油と相性が良い。
生でも食べられるがスライスして水に晒し軽く灰汁を抜く。
【リーク】
円筒状の野菜。土に埋まった部分は白く火にあたる部分は緑色に。
どちらも食用可能で、火を通すとねっとりとした触感と独特の香味、そして歯触りがある。
臭み消しなどにも利用される万能野菜。
現代で言うネギ。




