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異世界でレベルを上げられるようになった俺、現実世界で最強になる  作者: 絢乃


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086 月例イベントのお誘い

 ユキは鈴木と佐藤を呼び、スライムに溶かされた服を着替えた。


「こんなこともあろうかと着替えを用意しておいたの! どうかな!?」


 ユキの新たな衣装は、白いドレス風のワンピースだった。

 ショートパンツも少し溶けたらしくて、この機に脱いでいる。

 ワンピースの丈が短いため、太ももの露出は相変わらずだった。

 胸元がはだけている点も以前と変わらない。

 セクシーさを据え置いたまま清楚さが増していた。


「すごく似合っています! さすがユキ先輩!」


 ユキは「ふふん♪」と嬉しそうに笑った。


「この服に合わせるなら、ソックスは白いニーハイのほうがいいかな?」


「いいかもしれません!」


「じゃあ、そうする! ――佐藤、鈴木!」


「「御意」」


 佐藤と鈴木はユキの前で片膝をつき、スーツケースを開けた。

 二人のスーツケースには着替えの衣装がたくさん入っていたはずが、今では丈の異なるソックスで埋め尽くされていた。


「そのスーツケース、どうなっているんですか!?」


 驚いたソウマが尋ねるものの――


「「…………」」


 佐藤と鈴木は答えなかった。

 彼らはプロの護衛として、ユキの言葉以外には反応しないのだ。


「これに決めた!」


 ユキは白のニーハイソックスを選ぶと、直ちにそれを穿いた。


「おお……! これはこれは……!」


 立ったままストッキングを穿いているだけだが、その姿はソウマにとって眼福に他ならなかった。


「これで完成! 冒険者として活動するときはこの服装でいく!」


 ユキはブーツの紐を強く結ぶと、再び敵に斬りかかった。


 ◇


 ソウマたちは日が暮れるまでダンジョンで過ごした。

 途中で佐藤と鈴木が設営したテントで休憩することもあった。


 その間、他の冒険者がやってくることはなかった。

 レベル1のエリアなど、誰も積極的に訪れようとはしない。


「いやー、疲れたねー!」


「ユキ先輩、めっちゃ頑張っていましたね! あんなに剣を振ったら、明日は筋肉痛になるんじゃないですか?」


「だねー、きっと明日はバテバテでダウンしているよ! だから、その前にソウマくんとイチャイチャしないとね!」


「うおおおおおおお!」


 二人は楽しげに話しながら冒険者特区の中央区画から出て行く。


「「お嬢様、お待ちください」」


 そんなとき、背後から佐藤と鈴木が駆け寄ってきた。


「どうかしたの?」


「「こちらを!」」


 ユキが尋ねると、二人はA4サイズの用紙を差し出した。

 片方をユキが受け取り、もう片方をソウマが受け取る。

 用紙には「タイムアタックのお知らせ」と書いてあった。


「冒険者特区では毎月ダンジョンの攻略タイムを競っているようです」


「ダンジョンは『初級』『中級』『上級』の三つがあります」


「タイムアタックの上位に入ると賞金がもらえるようです」


「レコードタイムを更新すると、別途で追加の賞金がもらえるようです」


 佐藤と鈴木が交互に内容を説明する。


(結局、どっちが佐藤でどっちが鈴木か分からないままだ……)


 そう思いつつ、ソウマは用紙に目を落とした。

 内容は佐藤と鈴木の言うとおりだが、用紙には詳細が書いてあった。


 例えば、タイムアタックのルールなど。

 タイムアタックが始まるのは、クエストを受けた瞬間からだ。

 タイムアタックが終わるのは、指定の魔石を受付に納めた瞬間である。

 指定の魔石とは、ダンジョンに存在するボスの魔石のことだ。


 一般的な魔物に比べて、ボスは再出現までの時間が長い。

 その性質上、タイムアタックに参加するには事前の予約が必要だった。

 また、参加できるPTの数も限られていた。


「今回のタイムアタックはあと数日で終了するようです」


「受付嬢によると、明日の『初級』の予約がキャンセルになったらしく、今なら予約できるとのことです」


 ユキは「ふーん」と興味なさそうに用紙を眺める。


「月例だからなのかな? 優勝賞金がしょぼいね」


「そうですか? かなりの大金に思えますが……」


 タイムアタックの賞金は、難易度によって異なる。

 初級は1000万円、中級は5000万円、上級は1億円だ。

 また、レコードタイムを更新した際は、別途で3億円がもらえる。


 月例イベントであることを考えると破格の条件だ。

 それでもユキが微妙に感じるのは、彼女が大富豪だからに他ならない。

 帝栄の大口スポンサーである宮野グループの令嬢は伊達ではなかった。


「まあ、賞金はなんでもいいや! 予約枠が空いているのは初級だけなの?」


「「いえ、上級も空いております。上級は参加者が少ないようで、普段から空いているみたいです」」


 佐藤と鈴木が同時に答える。

 長いセリフなのに、口の動きが完全に揃っていた。


「参加者が少ないってことは、イベントを抜きにしてもクリアが容易じゃないってことね」


 佐藤と鈴木が頷く。


「上級は……レベル17かぁ。レベル17って言われてもさっぱり分からないや。ソウマくん、レベル17の魔物はどうなの?」


「一般的には高レベルとして扱われています。俺も詳しいことは知らないのですが、たぶん大半の冒険者はレベル10~15だと思うので……」


「じゃあ、ソウマくんでも厳しいの? レベル17って」


 ソウマは「まさか」と笑った。


「楽勝ですよ」


「だったら上級に参加しよう! 佐藤と鈴木は私の護衛で、ソウマくんが敵をガンガン倒す! それでレコードタイムも更新しちゃって!」


「わかりました!」


 ソウマは快諾した。

 レベル17程度なら、ユキを守りながら戦うことなど造作もないからだ。

 〈ライトニング〉を連発するだけで安全に攻略できる。


「じゃあ、どこかでご飯を食べて帰ろー! 今日はヘトヘトだから手料理じゃないけど我慢してね! 料理をサボる分、家に着いたらいっぱいイチャイチャするから!」


「やったー!」


 ソウマとユキは幸せそうに冒険者特区を出て行く。

 佐藤と鈴木は静かに気配を消し、受付でタイムアタックの予約を行う。

 そして――


(神代ソウマ……! あいつ、またしても違う女の子と……! しかも、またしてもめちゃくちゃ可愛いじゃねぇか……! あんなのずるいだろ……!)


 たまたま近くを通りがかったナンカンこと南舘ダイスケは、陰から嫉妬の眼差しを送っていた。

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