旦那ちゃんと嫁ちゃんのエピソード1.1
はじまりは切ない。
楽しかった結婚式と旅行も終わり、福岡空港へ着き、旦那ちゃんと嫁ちゃんは彼の実家に一泊する。
2人らしい結婚式の思い出を肴に、旦那ちゃんと嫁ちゃんは両親とともに話に花を咲かせる。
その夜、眠れない旦那ちゃんは、ぼんやりと半身を起こす。
(住み慣れた家・・・明日からは・・・いやいや、近いから親とはいつでも会えるだろ・・・まったく)
ふと、感傷的な気持ちが込み上げてくる。
嫁ちゃんは静かに寝息をたてている。
(新しい生活・・・嫁ちゃんとともに・・・か)
旦那ちゃんはくすりと笑い、布団にくるまって、強引に目を閉じた。
40過ぎての新生活。
なんだか、むずがゆくもあり、ちょっぴり寂しい。
(幾度かお邪魔した嫁ちゃんのマンション、今日からここが我が家になるんだ・・・マスオさんか・・・俺)
ふと、旦那ちゃんは思った。
(一般的なお嫁さんって、こんな感情を抱くのかな?だとしたら、貴重な体験・・・か)
ともに生きていく喜び、でもそんな、自虐的な感情も込み上げてくる。
「ただいま」
嫁ちゃんが言った。
「・・・ただいま」
旦那ちゃんも続いて言った。
今日から、ここで生きていく。
分かっていたけど、いざ現実となると不思議な気持ちになる。
少しだけ目の周りが熱くなり、鼻がむず痒くなった。
引っ越しや手続きなど慌ただしく日々が進んでいく。
市役所に転入届を出した日、旦那ちゃんは、そっかそうなんだと思った。
現実が実感となる。
でもそれは瞬間、感傷的になる暇もなく忙しい毎日を2人は過ごした。
ある日の旦那ちゃんの休日、嫁ちゃんはその日は仕事だった。
誰もいない部屋は寂しい。
大きく伸びをする。
さてと何するかな。
きょろきょろと部屋を見渡す。
慣れない部屋の景色。
ここが旦那ちゃんの家。
パチンと自分の両頬を叩く。
「さてと」
洗濯をし、寒空に洗濯物を干す。
部屋でコーヒーを飲む。
「さあてと」
膝を叩いて旦那ちゃんは立ちあがる。
「パチンコでも行くか」
旦那ちゃんは歩きだす。
こうして今がある。




