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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【最終章】

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第98話:皇帝との接近

 帝国の一兵卒に変装して、潜入していたオレとロキ。

 目の前に、帝国の君主たる皇帝が急接近してきた。


 他の兵と同じ様に迎えの列に並ぶ。


(皇帝か……)


 皇帝には傭兵時代に顔がわれている。

 気取られないように、視線を合わせないようにした。


(相変わらずの武人だな、この男は)


 二年ぶりに目にした皇帝は、全身に闘気をみなぎらせていた。

 年齢的にはオレより少しだけ歳上なはず。

 だが今だに戦士として、覇王としての威厳も兼ね備えている。


「ん?」


 目の前を通過しようとした時であった。

 皇帝は足を急に止める。


「ほほう……いい目をした兵だな、お前」


 足を止めて声をかけてきたのは、オレに対して。

 間近に顔を近づけてくる。

 もしや正体がバレてしまったのか。


「それに、その雰囲気、どこかで見たことがあるな、名は?」


 どうやら正体はバレていなかったらしい。


「オレの名はルーオドだ」


 それなら問題はない。

 おとことして尋ねられたのなら、自分の名を名乗る。

 もちろんいつもの偽名だ。


「なんだ、貴様! 陛下に向かって無礼な口を!」


「しかも、その態度はなんだ⁉」


 皇帝の周囲の近衛騎士が剣を抜く。

 非礼な態度があったのかもしれない。

 一兵卒に変装しているオレに対して、剣先を向けてくる。


「恐れ多くも陛下! 皇帝陛下様に、この私が申しあげます!」


 そんな時であった。

 隣のロキが咄嗟とっさに動き出す。

 その場に土下座して、皇帝に懇願する。


「このルーオドという男は、私と共に辺境からから出てきたばかりの田舎者。共通語もろくに使えないデクの棒にて、非礼、まことに申し訳ありません! はっはー!」


 ロキは必死に命乞いをする。

 自分たちに学はや教養はない。

 だが帝国のために尽くす覚悟があると。


 もちろん、これはロキの迫真の演技。

 声質や態度を変えた、隠密術の応用だ。


「帝国のために尽くしてくれるだと? 嬉しいことを言ってくれるな。それに我が帝国軍は実力主義。むだな敬語など不要だ。だから気にするな、ルーオドたちよ」


 皇帝は満足気な顔で許してきた。

 ロキの迫真の演技が成功したのだ。


 それにしてもロキの演技は見事の一言。

 皇帝すらあざむいたのだ。


「それにしてもルーオドとやら、お前は一兵卒にしておくには惜しい人材。どうだ、ワシの直属の部隊に入らないか?」


 まさかのスカウト。

 そういえば皇帝は鋭い観察眼をもっていた。


 気配を完璧に消したオレですら、その目にかなってしまったのだ。


 だが、これは好機かもしれない。

 皇帝の側にいたら、この先のゲートを突破できるかもしれないのだ。


「ありがたく、了承する」


「うむ、それなら後に付いてまいれ、ルーオド」


 作戦は上手くいった。

 どうやらオレは皇帝に気に入られたようだ。

 隊列の最後尾に付くことを許された。


「では、遺跡の塔に向かうぞ。お前たち」


 皇帝を先頭にして、オレも塔に向かっていく。

 皇帝の付き添いということで、難所のゲートは素通りだ。


(ロキ、待機していろ)


(了解、アニキ)


 潜入できたのはオレ一人だけ。

 誰にも気がつかれないように、ハンドサインで合図する。

 ロキなら一人でも、ちゃんと動いてくれるであろう。


(さて、まさか、こんな形で潜入できるとはな……)


 皇帝行列の最後尾を付いていきながら、ゲート内を観察する。


 遺跡の塔の周囲には、いくつもの陣幕が建てられていた。

 その中には帝国の学者らしき集団もいる。

 おそらく本国から連れてきたのであろう。


 ロキが言っていたように、帝国の目的は最初から、この遺跡の調査だったのであろう。

 それでなければ普通は戦場に、学者など連れてこない。


(リッチモンドは………今のところはいないな? もしかしたら、塔の中か?)


 塔の内部にも人の気配がある。

 薄暗くなっているので、ここから中は見えない。


 もしかしたら専門家であるリッチモンドは、今は内部の調査をしているのかもしれない。


(皇帝は中に向かうのか。運がいいな)


 皇帝を先頭にした一行は、塔の内部に進んでいく。

 どうやら調査の進行の様子の確認のようだ。


 塔の入り口から進んでいく。

 リッチモンドの姿はまだない。


 塔の内部はかなり広い。

 構造的に更に奥にも部屋あり、もしかしたらそこにいるのかもしれない。


「遺跡の調査は、順調そうだな。さて、お前たち。この塔の遺跡について、どう思う?」


 内部を視察しながら、皇帝が訊ねてきた。

 意見を答えるのは、オレの前を進む近衛騎士たち。


「私見ですが、これは……古代文明の研究所だと思います、陛下」


「私は……古代文明の天候を調べるものだと思います、陛下」


「私は、ここは古代の見張り櫓だと思います、陛下」


 騎士たちは自分の考えを、順々に述べていく。

 彼らは古代文明の専門家ではない。

 あくまでも自分の推測だけで述べている。


「最後にルーオドとやら、お前はどう思う?」


 最後の順番になって、皇帝から声がかかる。

 鋭い視線で、オレの意見を求めている。


「オレの予想では、これは戦の道具……兵器だ」


「兵器だと⁉ そんな馬鹿な⁉」


「こんな形の塔を、どうやって戦に使うというのだ⁉」


「辺境出身で学が無いのだな、お前は! はっはっは……」


 オレの答えに対して、近衛騎士から一斉に声があがる。

 叱咤しったと憐みの声。

 彼らの予想外の意見であったのであろう。


「ほほう。兵器だと? 面白な。そう思う理由はなんだ、ルーオド?」


 だが皇帝だけは違った。

 真剣な顔で更に訪ねてくる。


「理由は大きく二つある。一つ目はそこの壁画。その文字と壁画は、おそらくこの塔の、兵器としての利用方法を、記しているのであろう」


「ほう、古代文字が読めるのか?」


「いや、読むことはできない。だが経験から、察することは出来る」


 塔の内部には古代文字と壁画あった。

 専門家でないオレは、もちろん古代文字を読むことはできない。


 だが傭兵時代に古代遺跡を探索した経験なら豊富。

 そこらから古代文字の、ある程度の規則性は理解していた。

 今回もこの塔の利用目的を、本能的に察していたのだ。


「“察する”か……それなら二つ目の根拠はなんだ、ルーオド?」


「二つ目の理由は、もっと簡単だ……少し見ていろ」


 オレは塔の壁に向かって歩き出す。

 そこな何の変哲もない内部壁。


 置いてあった調査用のピッケルを手にする。


「ふう……はっ!」


 気合の声と共に、ピッケルで壁を殴りつける。

 もちろん正体がバレないように、闘気は込めていない。


「これが、二つ目の理由。普通に使う建物に、これほど強度は不要だ」


 ピッケルの木製の持ち手が、真っ二つに折れてしまった。

 一方で塔の内部の壁は、傷一つない。


 これは普通ではあり得ない。

 何しろ闘気術を使わずとも、オレは筋力だけ石壁程度なら貫通できる。

 塔は特殊な素材で形成されているのだ。


「オレが古代人なら、これは戦の兵器に使う。使用方法までは知らんがな」


 以上が二つ目の推測。

 どんなに時代が変わっても、戦に使う兵器には共通点が多い。

 オレは傭兵としての経験で、全員への説明を終える。


「な、なるほど……たしかに一理ある……」


「ああ、そうだな。これほどの強度……たしかに戦向きだ……」


 近衛騎士たちはザワザワとしていた。

 どうやらオレの説明が、ようやく理解できたのであろう。


「新参者のルーオド……なかなかの切れ者かもしれないな……」


「ああ。さすがは陛下のお目にかかった者だな……」


「それに先ほどの一撃……」


「ああ、かなりの膂力りょりょくの持ち主だな……」


 帝国軍は実力主義。

 騎士たちの見る目が変わってきた。

 能力が有る相手のことは、たとえ新参者でも認める風潮なのだ。


「一瞬でこいつらの心を掴むとは、ルーオド、人心掌握の才もあるようだな」


 何やら皇帝は嬉しそうにしている。

 相変わらずの鋭い視線だが、満足そうな顔だ。


「そして調査隊の途中結果も、このルーオドと同じ。この塔は“真実の遺跡”ということだ」


 皇帝の口から気になる単語が出てきた。

 “真実の遺跡”……瘴気に呑まれていたロキも、戦いながら口にしていた単語だ。


「この遺跡の解析が進んでいけば、我が帝国は強大な力を手にする。つまり大陸の覇者となることができる」


「「「陛下、万歳!」」」


 近衛騎士たちが、皇帝を称えて叫ぶ。

 真実の遺跡の発見は、彼らには重要な目的だったのであろう。


(なるほど……皇帝の狙いは、これだったのか……)


 頭の中で、今回の情報を整理していく。

 皇帝の目的は大陸の統一。

 そしてこの遺跡の塔は、そのための道具だったのだ。


「騒がしいな? いったい何が起き出んだ?」


 そんな時である。

 学者の風の男が奥から出てきた。

 その声にオレは聞き覚えがある。


(リッチモンド……無事だったのか)


 やってきたのは旧友リッチモンド。


 こうして今回の救出対象者と、オレは顔を合わせるのであった。


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