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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【最終章】

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第97話:帝国軍へ潜入

 旧友リッチモンドがいる場所に、オレたちは到着した。

 盆地に出現した巨大な石の塔だ。


 だが古代遺跡には帝国軍の大軍が駐留。

 皇帝が自ら陣取っていたのだ。


 オレとロキ、エリザベスは姿を隠しながら、帝国軍の陣を観察していく。


「皇帝旗で間違いないないか、ロキ?」


「うん、間違いなくよ、アニキ。アレは皇帝直属の近衛騎士団と、精鋭部隊の連中だね」


 ロキは帝国軍に雇われている身。

 帝国軍の詳しい。

 相手の布陣を説明してくれる。


「でも、アニキ、おかしすぎるよ。こんな大軍がどうやって、こんな所まで進軍しているの?」


「ああ、そうだな。普通に考えたら、あり得ないな」


 帝国軍は軽く一万を越えていている。

 これだけの大軍ともなると集結しただけで、他国にも情報が漏れる。


 それが進軍したとなったらなお更。

 バーモンド領のこんな奥地まで進軍していたのに、王国軍は気が付けずにいる。


 更に情報収集を得意とするロキと部下ですら、察知できずにいたのだ。


「つまり、これも魔女の仕業かもしれないな」


「魔女の? そうかもしれないね、アニキ。あの女は底が知れないからね」


 今までの話と統計していくと、魔女は普通ではない力を有している。


 何らかの力で、帝国軍の招集と移動のことを、隠していたのかもしれない。

 幻術や集団催眠などの一種なのかもしれない。


「皇帝率いる一万の大軍が、古代遺跡を占領している。これが事実だ」


 推測だけは先に進めない。

 オレたちは更に観察を進めていく。


「それにして異様な遺跡よね……あんな巨大な塔、今までどうして見つからなったのかしら?」


 エリザベスが首を傾げるのも無理はない。

 遠目に見える石造りの塔は、明らかに異質。


 バーモンド領の猟師や住民が、今まで気がつかないはずはない。


「この辺の盆地は、“変な雰囲気”があったところだ。もしかしたら、何かのまじないで見つけられないように、なっていたのかもな」


 オレもバーモンド領を通行したことがある。

 だが、この盆地には初めて足を踏み入れる。

 今までは戦士としての直感で、この盆地を避けて通っていたのだ。


 大陸の各地には、魔境と呼ばれる“変な雰囲気”の場所が何か所かある。

 もしかしたら古代文明の何かの力が、残っているのかもしれない。


「ん? あの塔の周りにいるのが、調査団のようだな?」


 明らかに帝国軍とは違う集団が、遺跡の周囲にいる。

 距離があり過ぎるので、顔までは認識できない。


「そうかもね、オードル。それにしても視力が良すぎよ。私には人が点にしか見えないわ」


 エリザベスも視力は悪くない。

 だが距離は離れていすぎて、認識できないのであろう。


 もう少し近づかなければ、リッチモンドの所在は確認できない。


「それにしても、帝国軍は何をしている? 普通の遺跡の調査に、なぜ皇帝自らが来ている?」


「うーん、それはオレッチもわかないなー。瘴気に呑まれていた時も、あの塔の遺跡の情報は入手できなかったし」


 なるほど。

 ロキですら皇帝の目的が分からないのか。

 それならリッチモンドの救出を最優先としよう。


「とりあえず馬車の所に一度戻るぞ」

「了解っ!」


 情報収集は完了した。


 これから行動を起こす前に、皆と情報共有をしておく必要がある。

 一度、マリアたちの所に戻るのであった。


 ◇


 馬車の戻り居残り組に、盆地の情報を伝えておく。

 皆で今後の行動について、意見を出し合っていく。


「まさか皇帝が自らご出陣していたとは……これは何か裏がありますね、団長殿」


「でも、オードル。これってチャンスじゃない。皇帝さえ斬れば、この戦も終わるのよね?」


 ピエールとエリザベスは、それぞれの意見を述べてくる。

 ずエリザベスの危険な作戦は、今のところはスルーしておこう。


「パパ……チモンド先生は大丈夫かな……」


「そうだな、マリア。もう目の前まで迫っている。後は連れて帰るだけだ」


 マリアにとってもリッチモンドは大事な存在。

 心配な顔をしているマリアの頭を、優しく撫でてやる。


「さて、今回の作戦を説明するぞ」



 皆の意見をまとめいく。

 今回の救出作戦の概要を説明する。


「まずは帝国軍の陣の中に、オレとロキの二人で潜入する。そしてリッチモンドを見つけ出し救出する」


 今回の作戦で一番危険なのは潜入救出部隊。

 隠密術の達人であるオレとロキが最適だ。


「えっ、私は置いてけぼりなの⁉」


「そうだ。エリザベスは目立ちすぎる。何しろ女騎士だからな」


 帝国軍にも女の騎士はいる。

 だが絶対的な数が少ないため、エリザベスはすぐにバレてしまうのだ。


「その代わり別の任務を頼む。ピエールと二人で陽動係だ。リッチモンドたちを救出する時、帝国軍の気を引いてくれ」


 捕らわれているリッチモンド調査隊は多人数。

 素人の彼らを全員、帝国軍に気がつかれず救助するのは不可能。


 だからエリザベスたちの陽動が必要なのだ。

 フェンを経由したフェンの念話を、陽動の合図にしておく。


「陽動ね! 了解したわ! 合図があったら、思いっきり暴れるわ!」


「承知いたしました。団長殿もお気をつけて」


 エリザベスは頑張り過ぎて暴走する時があるが、今回は冷静沈着なピエールも付いている。上手く陽動してくれるであろう。


「リリィたちはまた留守番だ。オレたちの帰るところを用意しておいてくれ」


「かしこました。オードル様もお気をつけて」


 馬車はまた安全なところで待機。

 フェンがいれば今回も大丈夫であろう。


「パパ、美味しいごはんを用意して、待ってるね!」


「ああ、マリア。楽しみしておく」


 バーモンド領での救出作戦は今回が最後になる。

 これが終わったら王都に還れるであろう。

 笑顔で送りだしてくれるマリアの頭を、撫でてやる。


「よし、それでは作戦開始だ!」


 こうしてオレたちは三班に分かれる。

 リッチモンド救出作戦を始動するのであった。


 ◇


 潜入の準備を終えたオレとロキは、帝国軍の陣に接近していく。

 陣の周囲には広範囲で見張りがいた。


「かなり厳重な警備だな」


「そうだね。でも、アニキなら朝飯前っしょ?」


「まぁ、やれなくないレベルだ。さぁ、遅れるなよ」


 オレとロキの隠密のレベルは、普通ではない。


 気配を消しながら、帝国陣に更に近づいていく。

 かなり厳重な警備だが、どんな大軍にも必ず死角は存在する。


 一気に陣に接近。

 そのまま囲んでいる木製の柵を、ひょいと乗り越える。


 陣内に潜入成功。

 よし、これで潜入の第一段階だ。


「ふう……アニキ、さすがだね。それに手早すぎだよ。相変わらず見事な隠密術だね」


「そうか。このくらいはたいしたことはない」


 難なくついてきたロキが、声をかけてくる。


 だが、隠密の達人であるお前に言われても、あまり褒め言葉にならないぞ。


「でもアニキの場合は、その巨体とパワーで、あの隠密術の繊細さだからね。オレッチたち隠密衆から見たら、反則みたいな存在だよ」


「そういうことか。オレは幼い時から、野山の中で生きてきたかなら」


 捨て子であるオレは、小さな時は一人で生きていた。


 野山で雨水をすすりながら、気配を押し殺し狩りの日々。

 野生の獣は手強い。

 あの獣の勘の鋭さに比べたら、帝国兵の警備は緩慢かんまんなのだ。


「それよりも、ちょうどいいカモがきたぞ」


 そんな時である。

 二人の帝国兵が、こちらに近づいてくる。

 会話の内容から、これから小便に向かうのであろう。


「了解っ、アニキ。また装備を頂戴するんだね」


「ああ、そういうことだ」


 潜入工作は傭兵時代に、何度もこなしていた。


 オレたちは気配を消して、帝国兵の後ろに回り込む。

 まだ明るい時間だが問題はない。

 陣の中は無数の陣幕や櫓が建っており、姿を隠すのに苦労はしないのだ。


っ」



 小声で手刀を食らわし、帝国兵を気絶させる。

 闘気を込めているので、しばらくの間は目を覚まさないであろう。


 よし。

 これで二人分の帝国兵の装備が手に入った。


「さぁ、さっさと着替えていくぞ、ロキ」


「あいよ」


 二人で帝国兵に変装する。

 気絶した二人は、馬用のわらの山の中に隠しておく。

 これならしばらくの間は気がつかれないだろう。


「よし、いくぞ、ロキ」


「了解っす。それにしても、団長とこうして帝国兵の変装するのって、なんか久しぶりな、感じ」


「そう言われてみれば、そうだな」


 二年前までオレたちが所属していた王国は、常に帝国軍と戦っていた。

 数年前もロキとこうして帝国の陣に潜入したことを、思い出す。


「だが、遊びにきたわけじゃないぞ、ロキ」


「もちろんさ。でもオレッチも、この二年間で帝国兵のフリはだいぶ上手くなったでしょうアニキ?」


 ロキは帝国兵の歩き方を、再現してみせる。

 たしかにオレの目から見みてい違和感はない。

 流石は隠密の達人であるロキだ。


「だが遊んでいるなら置いていく。リッチモンドたち調査団に接触しにいくぞ」


「あっ、待ってよ、アニキ」


 ロキといつまで遊んでいる時間はない。

 早くリッチモンドの安否を確認したいのだ。


 帝国兵に扮したオレとロキは、陣幕の中を進んでいく。

 歩きながらも、周囲を観察する。


 それにしても今回の帝国軍は、かなりの大規模だな。

 お蔭で、すれ違う他の兵は、オレたちの変装に誰に気が付いていない。


「あと帝国軍は武のレベルは、相変わらず高いな」


 陣内を歩きながら帝国軍の質を観察していく。

 帝国は大陸でも屈指の軍国。


 前に比べて兵の数は増えて、なおかつ一般兵の質も落ちていないのだ。


「たしかに、ここ二年で急激に力を付けているっすね、アニキ」


「そうか。それもあの皇帝の影響か」


 帝国の君主たる皇帝は、ひと言で説明するなら“覇王”。

 かなり有能な男。


 即位してから積極的に領地の増強をしていた。

 また戦好きとして知られている。

 皇帝自らが最前線で軍を率いて、多くの戦いで勝利を収めてきた武人なのだ。


「たしかに、皇帝は有能だよね、アニキ。王国のルイ国王に比べたら、皇帝は何倍もカリスマ性があるし。だからアニキとオードル傭兵団が王国側に付かなかったら、今ごろは帝国に王国は滅ぼされていたんじゃないかな?」


「そうだな。その可能性は大きいな」


 オレが王国に雇われたのは今から数年前。

 その時、圧倒的な勢いの皇帝の前に、王国軍は窮地に陥っていた。


 だがオレたちオードル傭兵団が王国軍に属したことで、形成は逆転。

 何とか王国は帝国に対抗できるまで、国力を回復できたのだ。


 つまりロキの分析のとおり、オードル傭兵団は王国を救った。

 そして二年前の戦で、オレは王国の英雄と呼ばれるようになったのだ。


「だが、そのお蔭でオレは暗殺されかけたがな」


 オードル傭兵団は、王国内で絶大な人気を誇っていた。

 だが自分よりも人気がある傭兵団の長を、ルイ国王はねたんできた。

 そして二年前のオレへの焼き討ちが起こったのだ。


「ねぇ、アニキ。今更なんだけど、あんなアホ国王なんて放っておいて、アニキも家族と帝国に亡命した方が良くないっすか? ほら、あの皇帝もアニキのことを、昔から気にっていたし」


 ロキの提案は一理ある。

 傭兵を辞めた今は、何も愚王の収める王国を助ける必要はない。

 むしろ国の安定している帝都に、引っ越す方が安心暮らせるのだ。


「だが今はマリアの勉強が大事。まずは王都の上位学園を卒業してもらうのが、最優先だ」


「なるほど、了解。それにしても、アニキもすっかり家庭パパさんになっちゃたよなー。まぁ。オレッチは、そんなアニキも好きっすけど」


「おい、ロキ。そろそろ雑も終わりだ。遺跡の根元が見えてきぞ」


 陣内の最深部へ近づく。

 リッチモンド調査隊のいる場所、塔の根元の部分が見えてきたのだ。


「ん? ゲートがあるぞ」


「あちゃー、これは誤算だったすねー。警備も厳しそうな感じだね、あれは」


 塔の周囲は、高い木製の柵で囲まれていた。

 到達するには木製のゲートを通るしかない。


 だが柵の周りには等間隔で警備兵が立ち、かなり厳重な警備体制だ。


「あれは……一工夫しないと、塔には近づけなさそうっすね、アニキ」


「そうだな。見たところ、あのゲートを通れるのは、一部の上級騎士だけだろうな」


 ゲートには大勢の門番がいた。

 一般の帝国兵は通ることも出来ないのであろう。

 かなり厳重な管理体制が敷かれている。


 下級兵に変装しているオレたちは、正攻法では通れないであろう。


「さて、どうしたものか……ん?」


 策を悩んでいた時である。

 オレは近づいてくる集団に気が付く。


「あれは、もしや……」


 近づいて来たのは物々しい集団。

 先頭を進むのは男の顔に覚えがある。


「あー⁉ アニキ、やばいっす、あれは皇帝っす!」


 ロキの言う通り、こちらに来るのは帝国の君主である皇帝。

 何という間の悪い田移民だ。


「「「陛下、万歳!」」」


 周囲の帝国兵が一斉に整列する。

 オレとロキもそれにならい、皇帝の通り道に整列する。


(まさか、あの皇帝と、こんな形で再会するとはな……)


 こうしてオレたちの目の前に、総大将である皇帝が近づいてくるのであった。


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