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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【最終章】

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第93話:黒き刃ロキ

 オレたちの前に黒ずくめの男が立ちはだかる。

 オードル傭兵団の“現”団長代理ロキだ。


「久しぶりだな、ロキ」


 距離を置いて挨拶をする。

 二年前に比べて、ロキは雰囲気が少し変わっていた。


 だが目の前に立つ男は、間違いなくかつての部下ロキである。


「やはり、来たか“オードル”……」


 ロキは静かに、オレの名前を口にする。

 眼光は鋭く、オレに対して敵意が込められていた。


「ねぇ、オードル。さっきの連中が、まだ……」


「ああ、そうだな」


 エリザベスは周囲に剣先を向ける。

 いつの間にか隠密衆に、遠巻きに包囲されていたのだ。


 もちろんオレも気が付いていた。

 先ほどの連中よりも、更に腕利きの連中であろう。


 だが今は周囲の物陰に陰に隠れ、すぐに攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 この分なら少しだけ、ロキと話をする時間があるだろう。


「おい、ロキ。そこをどいてくれ。この先の古代遺跡を調査していた者がいたはずだ。そいつ引き取りにきた」


 ロキにこちらの真意を告げる。

 今回のオレたちの目的は、リッチモンドの救出。

 無益な戦いをする意思はないと。


「何故、生きていた、“オードル”? そして生きていたのに何故、王国の尖兵になっている?」


 だがロキは話を聞いてくれない。

 静かな口調で逆に問いかけてくる。


 その口調に怒りや悲しみの感情はない。

 まるで自分の心を殺しているような、とても冷たい口調だ。


(前のロキと、明らかに違うな……)


 対話をしながら、相手の異質さに気が付く。


 以前のロキは斜に構えていたが、口調は軽い感じだった。

 自分のことを“オレっち”と口にしていたし、オレのことを“オードル”と呼び捨てにしたことはない。


 それにロキの雰囲気が別人の様だ。

 この二年間で、何があったのであろうか?


 とにかく今は会話を続けて、相手の情報を引き出していくしかない。


「勘違いするな、ロキ。オレは別に王国に雇われていない。調査隊を助けに来たのも、知り合いがいるからだ。あと別に国王や王国には、オレは恨みなどない」


 二年前、オレは王都で国王の手の者によって、暗殺されかけた。

 周りから見たら、かなりの大事件であろう。


 だがオレには絶好の転機であった。

 お蔭でオレはマリアたちに出会い、今は新しい人生を歩んでいるのだ。


「それよりもロキ。よくオレがここに来ることが分かったな?」


 今度はこちらの疑問をぶつける。

 ロキは明らかに、ここでオレを待ち伏せしていた口調だった。


 これは大きな疑問。

 ピエールたち他の大隊長は、オレが生きていたことを知らなかった。


 だがロキだけは知っていたのだ。

 オレが生きてここに来ることを。


「オードルが生きている、と“あの女”が言っていた。オレも最初は信じていなかった……だが先ほどの斬撃、あんなことが出来るのは“戦鬼”だけだ」


「“あの女”……だと?」


 ロキの口から出た言葉。

 嫌な予感がする言葉だった。


 それに前にもどこかで耳にしたような気がする。

 あれはたしか……。


「そして、遺跡にいる調査隊は渡せない。“真実の遺跡”の力を手に入れるため、もう少し調査が必要だから」


「“真実の遺跡”の力……だと?」


 更に新たなる言葉が出てきた。

 この先にあるのは普通の遺跡ではないのか?


「だから邪魔者は消えろ」


 その言葉と共に、ロキの雰囲気が一変する。

 どす黒い瘴気が、全身から溢れ出してきたのだ。


 あれは一体?


「団長殿! それは危険です!」


 ピエールが叫ぶ。

 細身剣を抜いて、オレに駆け寄ってくる。



「裏切り者め!」


 直後であった。

 突如、オレの背後にロキが出現。


「消えろ!」


 駆けつけたピエールを、漆黒のナイフで斬りつける。


「くっ⁉ ぐふっ!」


 ロキの攻撃は鋭かった。

 ピエールは辛うじて防御する。


 だが攻撃を防ぎきれず、そのまま吹き飛んでしまう。


「ロキ、お前!」


 すかさずオレは振り返り、両手剣でロキを斬りつける。

 一切の手加減はしない。

 本気の最速の斬撃だ。


「なに?」


 だが両手剣は空を切った。

 ロキの姿が目の前から消えたのだ。


「キャー⁉」


 直後、エリザベスの悲鳴があがる。

 ロキがいつの間にか、そちらに移動。

 攻撃を受けて、エリザベスも吹き飛んでしまう。



 オレ以外の仲間が、一気にダウンしてしまったのだ。


「大丈夫か、エリザベス、ピエール?」


 ロキに剣先を向けたまま、倒れた二人に声をかける。


 二人とも上半身を起こして、こちらに大丈夫だと言ってきた。

 立ち上がることは出来ないが、命に別条はないのであろう。


 だが吹き飛ばされたダメージは大きく、しばらくは動けない。


「一撃であの二人を。腕を上げたな、ロキ」


 驚きの攻撃力であった。

 何しろ以前のロキは素早かったが、あれほどの攻撃力はない。


 どちらかといえばナイフで急所を斬りつける戦い方を得意としていた。

 だが今のロキは別人のよう。


 完璧に防御したピエールを、攻撃力だけで強引に吹き飛ばしていた。

それに耐久力に優れたエリザベスを、一撃でダウンさせた。


明らかに体格と攻撃力が、今のロキは比例していない。

何か異様な危険性があるのだ。


「今の“オレ”は昔と違う。新しい力を手に入れた」


「その、どす黒い瘴気が、お前の新しい力だというのか、ロキ?」


「違う! こんなのものではない!」


 ロキの口調が急変した。


「生まれ変わったんだ! お前がオレたちを捨てた後に!」


 先ほどの冷徹な雰囲気から一変。

 激情で狂ったように、激しく言葉を発していた。


 どう見ても普通の状態ではない。

 ロキの中に何か別の人格が存在しているのか?


「もしかするとロキ、誰かに操られているのか?」



「違う! 違う! “オレ”は……“オレっち”自身の意思で、ここにいる! オードル傭兵団を再建するために! そのために更に強い力を手に入れるために!」


 ロキは叫ぶ。

 感情で大きく乱している。

 明らかに普通の状態ではない。


 おそらく何か悪い存在……漆黒の瘴気に飲み込まれているのであろう。


(だが口調だけは、少しだけ戻ってきるな……)


 自分のことを“オレっち”と呼ぶ、独特のロキの口調。

 荒ぶる言葉の中に、昔の本当のロキの姿を感じた


「だから、オレの、邪魔をする者は消す!」


 ロキの口調がまた変わる。

 そして動き出す。


 いや……動き出す前に、既にロキは姿を消す。

 ロキの姿を見失う。


(これか高速移動? いや、そんな生ぬるいものではない⁉)


 両手剣を構えて、周囲を警戒する。

 だが闘気術で強化した視覚でも、ロキの姿が見つけられない。

 そしてロキの動き出しが見えないのだ。


(これは瞬間移動? いや……空間移動なのか? そういえば、リッチモンドが言っていた話に……)


 次の瞬間、ロキの微かな気配を、背後に感じる。

 またもや回り込まれてしまったのだ。


「死ねぇえ、オードル!」


 振り返り迎撃を試みる。

 だがロキの動きは速い。

 漆黒のナイフで、オレの心臓を突き刺してきた。


「やった……これでオレが……最強に……」


 ロキは勝利を確信していた。

 何しろ自分のナイフは、深々と突き刺さっている。

 戦鬼オードルの心臓を貫いたのだ。


「くっ……」


 オレは口から血を吐き出す

 こうして謎の力を使うロキに、オレは窮地に追い込まれてしまうのであった。



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