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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第3章】王都編

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第77話:舞踏会へ

 王城内にある宮殿で開催される舞踏会に、オレたちは潜入することにした。

 目的は国王の養子とて人質に取られた、エリザベスの弟に会うため。


 レイモンド家の屋敷で準備を終えて、いよいよ舞踏会の時間となる。


「では行きましょう、ルーオド殿」


 屋敷の玄関には豪華な馬車が用意されていた。

 レイモンドの当主、エリザベスの父親に促される。

 舞踏会には、この馬車に乗って向かうのだ。


「ところで、そちらのタキシードの着心地は大丈夫ですか?」

「ああ、悪くはない。窮屈きゅうくつな正装は苦手だがな」


 今のオレは舞踏会用の正装を着ている。

 タキシードと呼ばれる燕尾服えんびふく

 白い蝶ネクタイとベストを着込んで、かなり窮屈な感じ。


 ちなみに目元には公爵の用意した舞踏会用の仮面をつけている。この国の貴族では仮面も不自然ではないという。


「良くお似合いですぞ。最初見た時からルーオド殿は武人としてだけではなく、気品も感じられました」


「そうか? 馬子まごにも衣裳……だろう。流れの剣士のオレは、舞踏会での気品など持ち合わせていないからな」


「なるほどです。つまりルーオド殿は生まれ持った品格も、持ち合わせているのかもしれませんな」


 何やらレイモンド公爵は上機嫌であった。

 やたらオレのことを持ち上げて褒めてくる。


 朝も上機嫌であったが、今はそれ以上。

 そうだ。エリザベスが何やら叫んで飛び出していった後から、公爵はオレをとにかく褒めてくるのだ。


 いったいエリザベスと何を話したのであろうか。


「お、お待たせ……しました、お父様!」


 そんな時ある、噂をすれば影が差す。

 エリザベスが玄関にやってきた。


「おお、エリザベス……そのドレス……とても良く似合っているぞ……」

「ありがとうございます、お父様」


 エリザベスはパーティー用のドレスを着ていた。

 大きなシルエットのロングドレス。

 胸元が大胆に空いていて、すそがふんわりと広がったボリュームだ。


「ねぇ、オードル。似あっている? 変じゃない?」


 エリザベスが小声で訊ねてくる。実の父親以外の印象も知りたいのであろう。


「大丈夫だ、エリザベス。お前によく似あっている」


 これはお世辞ではない。

 元々エリザベスは整った容姿をしている。

 こうして猫を被って大人しくしていたら、本当にお姫様のように見える。


 まぁ、実際ところエリザベスは公爵令嬢で、王位継承もある姫殿下。

 王城では本物のお姫様扱いされているのだ。


「ありがとう……褒められて、本当に……本当に嬉しいわ。今まで生きてきて良かった……」


 エリザベスは顔を赤くしながら、両手を顔に当て大げさに喜んでいる。

 いつも変だが今宵や一段と増しておかしい。


「ごほん。そろそろ、舞踏会の開始時間。出発してもいいかな、ご両人?」

「ああ、オレたちは大丈夫だ。さぁ、乗るぞ、エリザベス。手を取れ」


 今宵のオレはエリザベスの婚約者に成りきっている。

 段差のある馬車の入り口へ、彼女を導いてやる。レディーファーストというやつだ。


「ありがとう……こんなに優しくされるなんて、私もう死んでもかも……」

「面白い冗談だな。だったら置いていくぞ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! ちゃんと乗るから……よし、いいわ」


 いつものエリザベスなら多少の段差なんて、一気に飛んで乗れる。

 だが今日はパーティードレスで絶賛猫被り中。乗り込むだけで時間がかかるのだ。


「それでは参りましょう、ルーオド殿」

「ああ、そうだな。レイモンド公」


 こうしてオレたちは国王が待ちかまえる舞踏会へと、馬車を走らせるのであった。


 ◇


 レイモンド公爵が段取りをしておいてくれたお蔭で、すんなりと王城の敷地内に入場できた。


 馬車は王城の奥にある宮殿前に到着。

 レイモンド公は一足先に降りていく。


 続いてオレとエリザベスも降車する。


「ここが宮殿か。随分と豪華な建物だな」


 初めて目にした宮殿に感心する。

 今まで見たことがない荘厳な建物が目の前にある。

 これが王国の富を集めた宮殿なのだ。


「そういえばオードルはこの宮殿は初めて?」

「そうだな。傭兵には用のない場所だからな」


 小声で話しかけてきたエリザベスに答える。

 傭兵団長時代のオレは、城の内部には入ったことはある。だが宮殿の建物は初めてなのだ。


「それにしても宮殿は、あまり防御力は強くなさそうだな?」

「当たり前よ。ここは内政や外交の場所なのよ」


 宮殿は国王の一族が居住する場所。

 主に政務や外国使節の謁見などに使う。そのため戦闘用の城郭として機能していないという。


「なるほど。だが今宵の警備は厳重そうだな」

「そのようね……」


 宮殿の至る所に騎士団が警護している。

 何しろ今宵は、貴族令嬢が多く集まる舞踏会が開催される。

 要人を守るために、いつも以上に警備が厳重なのであろう。


「さて、二人とも宮殿の中に行くぞ」


 舞踏会は既に始まっているらしい。

 オレたちは公爵を先頭にして、宮殿の中へと入っていくのであった。


 ◇


 宮殿の中にある舞踏会の大広間にたどり着く。


「ほう、こいつは凄いな」


 建物の内部は一言では言えば“豪華絢爛ごうかけんれん”だ。

 かなり値打ちがある芸術品も飾ってあるが、傭兵だったオレには特に興味がない。


 建物と警備の配置だけ軽く見回して終わらせておく。


「それにしても凄い人の数だな、ここは」


 会場内は正装した男女で溢れかえっていた。

 人数は数える気にはならないが、参加者だけで二百人以上はいる。


 ほぼ全員が王国内の貴族の子息と令嬢。あとは付き添いできた親なのであろう。

 従者や一般人の姿はどこにも見えない。


「おお! これはレイモンド王弟殿下! ご無沙汰しております!」

「レイモンド公、舞踏会に参加とは珍しいですな!」


 入場したレイモンド公爵の周りに、多くの貴族は集まってくる。


 身なりや口調から、彼らは王国内の大貴族の当主なのであろう。

 普段は宮殿の華やかな会に参加してこない公爵に、輪を成して挨拶をしている。


「ところでレイモンド公。そちらのお連れの令嬢は、どちら様でございますか?」

「たしかに……レイモンド公爵家には、このような華やかな年頃の嬢様は、いなかったと記憶しておりますな?」


 貴族たちの興味は同行人に移る。

 公爵の連れてきた金髪の美少女に、貴族たちは興味津々なのだ。


「この子は私の娘エリザベスです。一年間の自領での養生を経て、今宵は舞踏会に参加させて頂きました」


 金髪の美少女の正体は、猫を被っているエリザベスのこと。


「エ、エリザベス姫殿下ですと⁉ 失礼いたしました!」

「な、なんと、あの剣姫様が……このように美しくお淑やかに……」

「そ、それに、このような舞踏会にドレス姿で参加するとは……」


 貴族の当主たちは誰もが驚愕していた。


 何しろエリザベスは小さい頃からお転婆者。強い者を見つけては、いきなり真剣で斬りかかるほどの武人性格。

 更に窮屈なパーティードレスを嫌い、宴に参加する時も騎士の服ばかり。


 だから急変したエリザベスの正体に、誰も気づけなかったのだ。


「女性らしくなった……ということは、レイモンド公。もしやエリザベスお嬢様は、どなたか良い相手がいらっしゃらないのですか?」

「それなら是非とも当家の長男と、会って頂けませんか?」

「いやいや、抜け駆けは良くないですな! レイモンド公、是非とも我が家の長男に!」

「それなら我が家の息子にも!」


 貴族たちは一斉にエリザベスの夫候補として、自分の息子を名乗り出してくる。


 何しろ、この王国では舞踏会い未婚の女性が参加する場合、伴侶となる相手を探しにくる意味合いもあるという。


 当主たちは自分の息子の嫁にと、レイモンドにアピールをしてくる。

 レイモンド家は王国でも数少ない公爵家。

 国王の血筋もあり、血縁関係になれたら、自分たちの家は一気に躍進していくのだ。


「はっはっは……皆様方、落ち着きなされ。我が娘エリザベスは相変わらずの男勝り。普通のご子息ではつり合いが取れませんぞ」


 一方でレイモンドは冷静であった。

 上手く当主たちの勢いを流している。

 この公爵はなかなかしたたかかもしれない。


「それに実はエリザベスには既に婚約者がおりました。そこで今宵は兄王様に顔を見せに来たのです」


 レイモンド公は演技かかった口調だった。

 貴族の当主たちの求婚をやんわり断る。


「な、なんと、エリザベス様に既に婚約者が⁉」

「あの剣姫様を認めさせる強者が、この大陸にいたですと⁉」

「うちの息子など一撃も持たなかったのに⁉」


 まさかの婚約者の存在に当主たちはざわめく。

 何しろエリザベス・レイモンドといえば普通のお姫様ではない。

 強い者しか認めず、常に腕利きの騎士に挑んでいた過去があるのだ。


「おい、フィリップ! フィリップはそこにいるのか!」


 その時ある。

 大声で誰かの名前を連呼する男が、こちらに近づいてくる。


 この優雅な舞踏会には相応しくない大声。だがオレはこの声には聞き覚えがあった。


「陛下、私はこちらでございます」

「おお、フィリップ! ここにいたのか!」

「ご無沙汰しております、兄王陛下」


 やって来たのはレイモンド公の実の兄。王国の君主たる国王だった。


 ひときわ派手なタキシードを着込んでいるが、腹が出すぎていて似合ってはいない。

 先ほど呼んでいたフィリップとは、レイモンド公爵の名前なのであろう。


「たしかにご無沙汰じゃのう……っと、いや、そうではない! いきなり連絡があったから、ワシは驚いたぞ! あの可愛い姪っ子のエリザベスが帰って……いや、療養から戻って来たのか⁉ 本当なのか⁉ どこにいるのじゃ⁉」


 国王が飛んで来たのはエリザベスの顔を見るためであった。

 公爵が言っていたように、姪っ子として本当に可愛がっていたのであろう。


「兄上、こちらに控えているのがエリザベスです」

「このドレスの令嬢が……おお、本当じゃ! すっかり大人っぽくなったので、見間違えたぞ、エリザベス!」


 実の伯父である国王すら、エリザベスのドレス姿には驚いていた。

 顔を見直して、ようやく気が付く。


「元気にしていたか、エリザベスよ! よくぞ戻って……いや、よくぞ元気に回復してくれた……伯父としてワシは嬉しいぞ!」


 エリザベスの両手を握りながら、国王は感動に浸っていた。

 それでもエリザベスが家出したことは口にしないように、言い直しながら気をつけている。


「ご無沙汰しております、国王陛下。そしてご心配おかけいたしました。お陰様で、このように元気に回復して、恥ずかしながら舞踏会しに参りました」


 一方でエリザベスはスカートを軽く持ち上げて、貴族令嬢として礼儀正しく挨拶を返す。

 猫かぶりが徹底しており、後ろから見ているオレも感心する。


「おお、そうだっか……それに『国王陛下』などと他人のように呼ばずに、昔のように『ルイおじ様』と呼んでおくれ!」


「それでは……ルイ伯父様、ご無沙汰しております。変わらずお元気そうで、わたくしも嬉しいです」


「おお、その感じじゃ!」


 国王の姪っ子ので溺愛ぶりは普通ではない。

 何でもレイモンド公から聞いた話によると、国王には子どもに恵まれず実子がいない。

 そのため姪っ子であるエリザベスのことを、一人娘のように可愛がっているのだ。


「ところでフィリップ、この可愛いエリザベスに吉報があると報告があったが? あれは何じゃ?」


「はい、兄王陛下。実はエリザベスに“婚約者”ができました」


 話が本題に進む。

 いよいよオレの出番がきた。

 レイモンド公爵の後ろに控えながら、静かに息を吐き出す。


「おお、それは、めでたいのう……ん? なっ⁉ なっ⁉ なっー! エ、エリザベスに婚約者だと⁉」


「はい、そうでございます。うちの娘も既に十八歳になりました。少し遅いくらいです」


「い、一般的には、そうじゃが……いや、ワシに相談もなく、一体どこの馬の骨の奴が、ワシらの可愛いエリザベスを奪っていくのじゃ⁉」


 報告を受けて、国王の態度は急変する。

 顔を真っ赤にして興奮してしまう。


 何しろ小さい頃から可愛がって姪っ子が結婚してしまう。

 伯父として信じられないのであろう。


「兄上に相談できずに申し訳ありません。ですが、“あの事件以来”エリザベスのことは私に一任されていましたので」


「そ、そうじゃったな、フリップよ……いや、そうだとしても! どこの馬の骨が、エリザベスを⁉」


「はい、その者は今日連れてきております。ルーオド殿、前へ」


 兄弟同士の茶番は終わったようだ。


「ああ、分かった」


 いよいよ出番がやってきたのだ。

 レイモンド公爵の紹介を受けて、オレは前に進みだす。


「兄上、この者がエリザベスの婚約者“ルーオド殿”でございます」

「なに⁉ コイツが⁉」


 こうして約二年前に暗殺を仕掛けてきた黒幕、国王とオレは直接顔を合わせるのであった。



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