第64:王都での職探し
マリアが上位学園に合格してから、数日が経つ。
制服合わせも順調に終わり、授業初日の朝となる。
「さて、いくか」
「うん、パパ!」
家で制服に着替えたマリアと、オレは学園行きの乗り合い馬車に乗りこむ。
今日は通学初日ということもあり、父親として同行することにしたのだ。
(馬車の作りと警備は、けっこうしっかりとしているな……)
マリアと馬車に乗りながら、通学路の状況を確認していく。
ルーダの時と同じく上位学園でも、選ばれた階級の子どもしか入学できない。
そのため通学用の馬車にも、かなりのお金と人件費がかけられている。
馬車には警備兵も同行していた。これには思わず感心する。
(それに通学ルートも人通りが多い大通りを選んでいるな。これなら襲撃される可能性も低いな……)
馬車が通っていくルートも、かなり研究された感じであった。この分ならマリアを安心して乗せられそうだ。
「パパ、通学馬車、楽しいね!」
「ああ、そうだな」
次々と同じ制服の生徒が乗ってくる。
今までにないことにマリアは、本当に楽しそうにしていた。
(さて、通学路は大丈夫そうだな……)
その後、通学馬車は上級市街地へと進んでいく。
定員いっぱいの生徒を乗せて、学園の敷地内へと入る。
学園の停留所で下車したオレたちは、事務局へと向かう。
今日は初日ということもあり、マリアは事務局員の案内を受けるのだ。
「じゃあ、パパ。いってくるね!」
「マリア、頑張ってくるんだぞ」
事務員に挨拶をして、マリアの引率を引き渡す。
今日のところオレの役割はここまで。
少し寂しい気がするが、ここから先はマリアが自分で進んでいくのだ。
普通の父親は、ここでお別れとなり帰宅となる。
(さて……上位学園も内部も確認しておくか……)
だがオレは気になったことは徹底的に調べる性格。
気配を完全に消して、マリアの後を追跡していく。
(学園の中も危険がないか、一応調べておかないとな……)
通学路での安全は確認できたが、校舎の中ではどうなるか分からない。
だからオレは隠密術を駆使して、マリアの学園生活を調べることにしたのだ。
(さて、上位学園か……何もなければいいが……)
こうしてオレは数日に渡り、学園でのマリアの周囲について調べていくのであった。
◇
マリアが通学を開始してから、数日が経つ。
(ふう……とりあえず上位学園も大丈夫そうだな……)
ここ数日間、学園でのマリアの近辺を調査してきた。
特に問題になりそうなことは無かった。
教師や各教室にも危険な感じはなく、安心して授業を受けられるそうだった。学園内にも警備兵が常時いて、トラブルに対応している。
またクラスメイトとの交友関係も、今回は大丈夫であった。
平民であるマリアを、差別する貴族の子は誰もいない。
おそらくは特待生と入学したのが、功をそうしたのであろう。
特待生として特別なネクタイをしたマリアのことを、他の子どもたちは尊敬した眼差して見ていたのだ。
これならルーダの時のように、オレが清掃員として近くにいる必要はないであろう。
そろそろ、マリアも父親離れをしないといけない年頃なのだ。
《フェン、しばらくはマリアの警護を頼んだぞ》
《わかったワン! ボクに任せておいて、オードル!》
だが用心を重ねてフェンをマリアの警護役に任命することにした。
白魔狼族のフェンは危険探知の能力に優れている。
万が一、授業中にマリアに危機があったときは、フェンが守ってくれるであろう。
フェンは小型の犬に見えるので、誰かに見つかってもごまかすことが可能。
まさにマリアの護衛に敵役なのだ。
《じゃあ、行ってくるワン!》
《ああ、頼んだぞ、フェン》
今日の授業開始から早速、マリアの警護をフェンに委託する。
何か事件があった時は念話で連絡させて、オレかエリザベスが駆け付ける手はずだ。
「さて、オレは仕事を探しにいかないとな……」
例によって田舎から出てきたオレは、まだ仕事に就いていない。
『父親の職業:無職』このままで上位学園に通うマリアに、恥をかかせてしまう。
前回と同じで王都でも仕事を探さないと。
(だが、あまり目立つ仕事は困るな……)
王都には顔見知りが多く住んでいる。現にここ数日、何人かの知り合いとすれ違っていた。
オレの風貌の変化に、今のところ誰も気が付いていない。
だが、今後はどんなことがあるか予想もできない。
身の安全のために、自由に動ける仕事がいいな。
それに仕事時間や勤務場所も、臨機応変に調整できる業務が好ましい。
さて、どんな仕事を探せばいいものか。悩むな。
「ん? どうしたんじゃ、オードル。そんなところで突っ立って?」
「ああ、ダジルか? これから仕事を探しにいくところだ」
家を出ようとしたところで、大家のダジルと顔を合わせる。せっかくだからダジルにも相談してみよう。
「お前さんが仕事じゃと? 金に困っているのか?」
「いや、生活費は問題ない。父親としての体裁だ」
オレの財布の中は充実している。
王都から持ち出した宝石は、まだかなり残っている。
鉄大蛇の魔核を売った金も、半分以上は手を付けていない。
また、ここ3ヶ月の遺跡調査の時の、炎大虎などの魔獣の魔核も、まだ所持したまま。
王都の商館で売却したら、小城が何個か買える価値にはなる。10年は遊んでいられる資産はあった。
だからルーダの時と同じく、仕事をするのはマリアのため。娘に恥ずかしい想いをさせたくないのだ。
「ふん。そこまで金はあるのに娘の働くとは、あの戦鬼オードルも変わったもんじゃのう」
「そうかもしれないな。ダジル何か心当たりはないか?」
王都でも顔が広いこの男なら、何かいい仕事を知っているかもしれない。
条件を伝えて、一つ相談してみる。
「その条件なら、うってつけの仕事があるぞ! ワシの店を手伝えばいい」
「ダジルの店を……ああ、そうか。それは盲点だったな」
まさに『灯台下暗し』とはこのこと。大家であるダジルの店で働く案があったとはな。
「あと、金髪の子も手伝ってはくれんか?」
「エリザベスのことか? ああ、呼んでくる」
エリザベスも無職で仕事のアテはない。今も家の中にいたので呼んでこよう。
呼んできたエリザベスに、ダジル商店の求人のことを説明する。
「私はいいけど、ダジルの店は何をやっているの? あの感じだと、何屋か不明だけど?」
エリザベスが首をかしげるのも無理はない。店は看板も何も出ていない。
店内にもカウンターと、小さなテーブルと椅子があるだけ。
最初に入ったエリザベスは、なんの店か分からないのだ。
「ダジルの店は依頼人の悩みを解決してくれる。そうだな……一言で説明するなら『何でも屋』だな」
ダジル商店は王都の裏の世界では有名な店。
依頼を受けたダジルは、解決に相応しい仲間に仲介して依頼をする。
顔が広く情報通なダジルにしかできない特殊な商売方法だ。
「ところでオレたちでいいのか、ダジル?」
「オードルの器用さは、このワシもよく知っている。お前さんたちなら、うってつけじゃろう。何だったら店番も頼みたいところじゃ。最近は忙しくて、可愛い孫の顔も見れんからな」
ダジルには産まれたばかりの孫がいた。
祖父として毎日でも顔を見に行きたいのであろう。
だから人手が困っているのであろう。
「分かった。店番はエリザベスに手伝ってもらおう」
こんな強面のオレが店番に立つわけにはいかない。客が驚いて気絶したら大変だからな。
それに比べてエリザベスは、外見が華やかで人当たりもいい。
ダジルのサポートなので何とかなるであろう。
「それは、いい提案じゃのう、オードル! さっそく今日から頼むぞ!」
孫に会える時間ができる、ダジルは喜ぶ。よほど産まれたばかりの孫が可愛いのであろう。今度、マリアたちと見に行きたいものだな。
「オードルと一緒に仕事……楽しくなりそうね、オードル!」
「ああ、そうだな。これで仕事の問題は一気に片付いたな」
オレの仕事は無事に決まった。
こうして王都でのダジル商店で『何でも屋』の仕事に就くのであった。




