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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第2章】学園都市編

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第45話:競技大会の会場へ

 学園の競技大会の当日となる。

 朝から快晴で絶好の運動日和だ。


「そろそろ出発の時間だぞ? お前たち、準備は終わったか?」


 家の玄関でみんなに、集合の声をかける。

 今日の競技大会は、家族の参加競技もある。オードル一家で総出の外出だ。


「待たせたな、オードル!」

「お待たせいたしました、オードル様」


 準備を終えたエリザベスとリリィがやってきた。

 いつもより動きやすい格好を、二人ともチョイスしている。特にエリザベスの方は、素早さに特化した格好だ。


「随分と張り切っているな、エリザベス?」

「家族参加の競技もあるのだろう、オードル? マリアの姉である私も、頑張らないとな!」


 なるほど、そういうことか。得意分野の運動で、好成績を狙っているのであろう。

 それにしても張り切りすぎではないか、エリザベス。王国屈指の騎士のお前が、本気を出したら事件が起きそうだぞ。


 まあ……お祭り気分なので、そっとしておこう。


「オードル様。お昼のお弁当は、こちらに用意しておきました」

「そうか。朝早くからご苦労だったな、リリィ」


 今日の競技大会は午前中から午後まで。結構な長時間のスケジュール。

 だから昼の弁当を、リリィは早起きして作ってくれたのだ。

 二段重ねの弁当が、大きな布に包まれている。

 こうしたリリィの心遣いは、今日も感謝だ。


『ワンワン!』


 続いてフェンが終えてやってきた。

 といっても白魔狼のフェンは、いつも通りの格好。服もなく荷物もない。


 おや? だが今日はいつもと違う感じだな。

 可愛い紅白の布を、首に巻いている。競技会用のオシャレなのであろう。よく似あっている。


 それにしても布は誰が巻いたのだ?


「そちらはわたくしがお付けしました」


 なるほど。リリィがコーディネートしてくれたのか。

 女の子らしい気のきかただ。


「そうか、似合っているぞ、フェン」

『ワン!』


 いつもと違うオシャレを褒められて、フェンは嬉しそうにしていた。

 いつも忘れてしまうが、こいつはメス……女の子のである。

 白魔狼族でもオシャレするのは嬉しいのであろう。

 ふさふさの尻尾を振って、喜んでいた。


『ワンワン!』


 なんだと。違うだと?

 早くリリィの作ったお弁当を食べたいだと?


 まったくお前というヤツ。オシャレっ気よりも、食い気が飛び越えているんだな。

 感心したオレがバカだったよ。


 さて。残るは一人。今日の主役である。


「パパ、おまたせ!」


 そんな時。

 玄関にひときわ明るい声が響き渡る。


「マリア、準備は万端か?」


 やってきたのは今日の主役のマリア。

 いつもの制服とは違い、動きやすい運動着に着替えている。

 白を基調とした半袖短パンだ。


「うん、パパ。このとおりだよ! 似合っているかな?」


 マリアはくるりと回って、運動会の衣装を見せてくる。

 短めの短パンと半袖から伸びた、真っ白で小さな手足が輝いていた。

 まるで神話に出てくる妖精神のような、神々しい姿である。


「ああ、似あっているぞ、マリア。だが半袖半ズボンだと、危なすぎないか? 転んだら大変だぞ」


 マリアの運動着姿は似合っている。

 だが無防備に出ている素肌に、急に不安になってきた。


 何しろ幼い子どもは、筋肉の発達が完全ではない。大人とは違い、頭部と手足のバランスも悪い。

 走ったりして、転んでしまうこともあるのだ。


 怪我をしやすい膝と肘に、防具でもつけた方がいいのではないか?


 そうだ!

 鉄大蛇てつだいじゃの素材で、余ったのがある。あれで防具を作ったら、転んでも怪我はしないであろう。

 オレだったら、あっとう間に裁縫で作れるぞ?


「心配しすぎだよ、パパ!」

「そうか。オレの杞憂だったな」


 どうやら心配しすぎだったらしい。

 笑顔のマリアに、逆に諭されてしまった。


 これで全員が集合して、準備も万端。


「よし、それなら競技大会へいくぞ」


 こうして我が家は、マリアの競技大会へ向かうのであった。


 ◇


 ルーダの街の中心部へと向かう。

 街の中でもひと際、巨大な円形状の場所に到着する。


「ここが会場か、オードル?」

「そうだ、エリザベス。間違いない。今日の競技大会は、闘技場の中で行う」


 到着したのはルーダの闘技場である。

 闘技場の中央部は広い天然の芝で、運動にも適している。今日は学園に貸し切りで、競技大会が行わるのだ。


「こっちが入り口だ」


 闘技場の正門から、正面入り口へ案内していく。

 周りには他の学生や保護者の姿も見える。


「オードル様は前にも、ここに来たことがあるのですか?」

「そうだ、リリィ。若い頃に何度かな」


 オレは若い時に、この街に滞在していた。

 傭兵の一人として、街のある貴族に雇われていたのだ。

 だから闘技場の道順は知っている。


 正面入り口から建物の内部に入る。ロビーを進んでいく。


「あっ、パパ、見て! すごい石の人がいるよ!」


 ロビーでマリアが大きな声を上げる。

 中央にあった石像を見つけて、喜んでいるのだ。


「剣とオノをもって、この人、強そうだね、パパ!」

「ああ、そうだな、マリア。かなり手強そうな戦士だな」


 石像は戦士の像だった。

 “ルーダの獅子王”と書かれている。

 獅子のように髪の毛を立てて、たくましいヒゲの強面の戦士。上半身が裸で筋肉隆々の大男である。


 獣の獅子の仮面をつけているので、顔までは分からない。

 石像の石板の説明があった。この闘技場の伝説的な剣闘士を形どっているらしい。


「おい、オードル……」


 そんな時。後ろからエリザベスが小声で話しかけてきた。


「この石像はもしかして……」

「ああ、オレみたいだな」


 そう……石像はオレのものだった。

 街に滞在していた時に、建造の話だけは聞いていた。


 完成はこんな感じになっていたのか。

 今と髭と髪の毛が違いので、まるで別人ように見える。それに獅子の仮面は今見ると、少し恥ずかしいな。


「なんだと⁉ 剣闘士もしていたのか、オードルは?」

「そうだ。頼まれたから、仕方がなくだ。少しだけの期間だ」


 この街に住んでいた時。

 雇い主の貴族が闘技場の賭けで、大きな借金を負ってしまった。

 そのままでいけば雇われていたオレは解雇。給料をもらうことができない。

 だから剣闘士として、数ヶ月間だけ戦っていたのだ。


「仕方がなくとは……しかも名誉のチャンピョンだと?」

「まあ、そうらしいな。一度も負けなかったからな」


 オレは剣闘士時代、全戦全勝であった。

 相手が人であろうが、大人数であろうが全て勝った。

 時には獣や魔獣と、素手で戦わされた時もあった。


 もちろん全てに勝ち進み、こうして生き残っている。

 そして気がつくとルーダの街の名誉チャンピョンとなっていたのだ。


「剣闘士時代か……懐かしいな」


 当時を思い出し、感慨にふける。

 剣闘士仲間は、今はどうしているのだろうか? また機会があれば、剣を交えたい連中ばかりだ。オレは戦うこと自体は嫌いではないのだ。


「まったく大した男だな。まさか闘技場の名誉チャンピョンまで、なっていたとはな」


 エリザベスが苦笑いしているが、大陸では剣闘士は人気のある職である。

 大きな都市での闘技場では、数万人が熱狂する人気職。


 数年間生き残ってチャンピョンになった剣闘士は、貴族として召し抱えられることもあるのだ。


「まあ、昔の話だ。さあ、いくぞ」


 “ルーダの獅子王”の正体がオレであることを、知るものは数少ない。

 だから今はそっとしておく昔話。

 それよりも今はマリアの競技大会の方が、何倍も大事。


 気持ちを入れ替えて、気合を入れていくぞ。


「さあ、ここが闘技場の中央部。今日の会場だ」


 オレたちは闘技場の中央へと進んでいく。

 正面ロビーから進んでいくと、一気に視界が開ける。

 闘技場の中心部。今日の競技大会の開催場所である。


「うわー、人がいっぱいいるね、パパ!」


 会場にはすでに多くの人がいた。学園の生徒と保護者たち。どの家族も気合が入っている。


 また観客席には一般市民の姿も多い。学園の競技大会は、市民にとっても楽しみな行事なのであろう。


「マリア、がんばるね!」

「ああ、楽しみにしているぞ」


 こうして晴天の空の元、マリアの競技大会がスタートするのであった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] オードルさん…命懸けの拳闘士やらされるとか、既に傭兵の職域を逸脱してるよ… その貴族にいいように利用されてたんじゃない?
[気になる点] チャンピョンよりチャンピオンのほうがいいと思います
感想一覧
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