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戦鬼と呼ばれた男、王家に暗殺されたら娘を拾い、一緒にスローライフをはじめる(書籍化&コミカライズ作)  作者: ハーーナ殿下
【第2章】学園都市編

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第41話:思いがけぬ事件

 リリィはパン屋の面接に行き、無事に合格していた。

 ここ数日、生き生きとした顔で順調に働いていた。


「では、仕事に行ってまいります、オードル様」

「ああ、気をつけてな、リリィ」


 今日も朝の家の家事を終えてから、パン屋へ出発していく。今朝も希望に満ちた表情である。


『ワン!』


 護衛役の白魔狼フェンも一緒である。

 リリィの隣を元気に駆けていく。


「リリィお姉ちゃん、フェン。がんばってね!」


 玄関先でマリアも元気に見送る。

 リリィの元気な顔に、マリアも嬉しそうだ。


「さて、マリア。オレたちもそろそろ、出発するぞ」

「あっ、そうだね、パパ! 制服に、きがえくるね!」


 平日はマリアも学校がある。

 急いで私服から学園の制服に着替えてくる。


「エリザベスお姉ちゃん、行ってくるね!」

「じゃあ、行ってくぞ」


 準備を終えたオレたちも家を出発する。

 家の一人だけ残るエリザベスに、挨拶していく。


「わ、私も今日こそは、街で職を見つけてくるからな!」


 ここ数日間、エリザベスは就職活動を行っている。

 だが連戦連敗で未だに無職のまま。お嬢様育ちのエリザベスは、剣以外の仕事に向かないのである。


「あまり無理をするなよ、エリザベス」

「これはプライドの問題だ、オードル! 私だけ無職のままでいたくない!」


 おれたち一家は特に金には困っていない。

 だがエリザベスはどうしても職を見つけたいのであろう。


「そうか。じゃあ、行ってくる」


 本人の意思を尊重する。

 オレとマリアは学園に向かうのであった。


 ◇


 いつものように校門でマリアを見送る。

 清掃の仕事も、一気に片付けてしまう。今日も順調である。


 その後は学園の見回りや補修をしていく。

 今日のマリアは午前授業なので、昼過ぎには一緒に帰宅となる。

 下校の時間まで、時間を潰しておく。


「パパ、おまたせ!」


 下校時間となりマリアと合流する。校門前で一緒の帰宅だ。


「そういえば、パパ。欲しいものがあるの」


 授業で必要な教材があるという。

 マリアは買い物のリストを見せてく。繁華街の商店で手に入るものばかりだ。


「そうか。それなら買い物にいこう」


 学園から家の途中に繁華街がある。帰宅のついでに買うのがいいであろう。

 オレとマリアは買い物に行くのであった。


 ◇


 商館が立ち並ぶ、繁華街の中心地にやってきた。


「この文房具なら、この店がいいだろう」


 街で一番大きな商店にやってきた。家を買った同じ系列の店した。

 オレとマリアは店の中に入っていく。


「うわー、すごいね、パパ!」


 店内に入って、マリアが歓声をあげる。

 広大な店内に所せましと並んだ商品に、目を輝かせていた。女の子はこういう買い物が好きなのであろう。

 オレは買い物のサポートをしてやろう。


「あら、マリアさん?」


 そんな時である。

 マリアに声をかけてきた少女がいた。


「あっ、クラウディアちゃん!」


 声をかけてきたのは伯爵令嬢のクラウディア。

 いつもの取り巻きの2人を、もちろん従えている。


「もしかしたら、あなたも買い物にきたの?」

「うん、そうだよ、クラウディアちゃん! 一緒だね!」


 二人はクラスメイト。

 だから同じ用品を買いに来たのであろう。


「でも、マリア。あなた入る店を間違えになっているわよ?」

「えっ? そうなの? でも、クラウディアちゃんたちいるよね?」

「ここは貴族御用達の高級店なのよ? 平民のあなたは、場違いという意味よ」


 何やら今日も伯爵令嬢はマリアに絡んでいる。

 先日の礼拝堂裏のことを、根に持っているのであろう。

 いつにも増して、かなり強気な態度をとっている。皮肉な口撃をマリアにしかけてきた。


「そうなんだ! さすがクラウディアちゃん、ものしりだね!」

「ありがとうですわ……って、そう意味で行ったのではないわ! 皮肉で言ったのよ、わたくしは!」

「えっ? ひにく? お肉の?」

「違いますわ!」


 だがクラウディアの口撃は、マリアに通じていなかった。

 むしろマリアは楽しそうにしている。純粋が故に、嫌味が通じていないのだ。


(やれやれ……さっさと、買い物を済ませて帰るとするか)


 子どもの喧嘩には親のオレは介入しない。

 だが自分の娘が皮肉を言われているのを見るは、気持ちがいいものではない。

 用事を済ませて帰るとするか。


「すまないが、これと、これをくれ」


 オレはマリアの欲しがって品を、会計カウンターにもっていく。


「はい、ありがとうございます……あっ、あなたは先日の魔核の⁉」


 会計をした担当者は、オレのことに気がついた。鉄大蛇の魔核の買い取りの時に、オレを覚えていたのであろう。

 目を丸くして、急に態度をかえる。


「この商品でしたら、店の奥に特別なバージョンがございます。普通はお売りできないのですが、お客様でしたら……」

「そういうことか」


 大きな商店になると特別な品がある。

 普通の客には売らない特注品

 先日の魔核の件で、オレは特別客に登録されていたのであろう。


「それなら良い品の方をくれ。金に糸目を付けぬ」

「はい、かしこましました!」


 オレは成金趣味ではない。

 だが使う道具には、金を惜しまない性格。何しろ傭兵の世界では、道具や武器だけが信頼できる存在。

 だから娘のマリアにも、最高の品を使って欲しかったのだ。


「お待たせしました、オードル様!」


 部下から報告を受けたのであろう。わざわざ先日の商店の当主が出てきた。

 特別な商品を見せてくれる。

 これもVIP待遇なのであろう。手が込んでいる演出だ。


「うむ、良い品だ」


 手に取って確認する。

 特別な品だけあって、いい職人技だ。

 決して派手さはないが、作り込まれている。


「さすがオードル様。この品の良さを分かってくれると、商人冥利につきるというものです」

「そうだな。目利きが大事だからな」


 オレも目利きは鍛えてきた。

 何しろ傭兵は因果な商売。偽物を掴まされることも、しばしばあった。

 だから鑑定眼だけは必至で学んできたのだ。


「ところで、オードル様。また魔核が手に入ったら、ぜひ当商店で換金を。先日の品も、とある顧客様に大喜びされました」

「なるほど、そういうことか。考えておく」


 この当主がここまで贔屓ひいきにする理由が分かった。

 先日の魔核がかなり利益をだしたのであろう。


 何しろあれほどの大きさと質の魔核は、普通の市場には出回らない。

 だから魔獣を狩れるオレのことを、特別な顧客をとしていたのだ。


「さて、買い物は終わったぞ、帰るぞ、マリア」


 まだクラウディアと話をしていたマリアに、声をかける。

 買っておいた商品を見せて、確認してもらう。


「すごい、きれいだね、パパ!」

「そうだな。この街にも一つしかない逸品らしいぞ」


 マリアも気に手に取って入ってくれた。見た目も気に言ってくれて、オレも良かった。


「ちょ、ちょっと、マリアさん⁉ この街に一つしかない品ですって? そこの商人。わたくしにも、アレと同じものをちょうだい! いえ、あれよりも高級なものをちょうだい!」


 マリアの商品に気がつき、クラウディアが叫ぶ。貴族令嬢としてのプライドに触ったのであろう。商館の当主に詰め寄っていく。


「申し訳ございません、お客様。あの品は当店の特別なお客様にしか、売れない物です」

「特別なお客ですって⁉ わ、わたくしはバーモンド伯爵の令嬢ですのよ⁉」

「申し訳ございません、お客様。我々、商人は貴族の名よりも、ご縁の繋がりを大事にするのです」


 クラウディアのヒステリックにも、当主は冷静に対応する。

 こうした貴族連中の我がままにも慣れているのであろう。


 あと、今回は伯爵レベルのバーモンド家よりも、魔核を持ち込んでくれるオレを天秤にかけたのであろう。大したタヌキ当主である。


わたくしが、この平民の子よりも下ですって⁉ 不愉快ですわ! 帰らせていただきますわ!」


 クラウディアの堪忍袋の緒が切れる。

 一人でスタスタと店を出ていく。目にうっすらと悔し涙が浮かんでいた。

 そのまま裏路地の方に駆けだす。


「クラウディア様⁉」

「そちらは危険な通りですわ!」


 取り巻きの二人も慌てて追いかける。

 だがクラウディアは聞く耳を持たず、ドンドン奥に進んでいく。


「クラウディアちゃん? どこに行くの?」


 続いてマリアも追いかけていく。

 放っておけばいいものを。仕方がないので、オレもマリアの後を追う。


 クラウディアはかなり先の方まで行ってしまう。迷路のような裏路地へと迷い込んでしまった。


(この先はマズイな……)


 クラウディアが迷い込んだ先は、少し治安のよくない区画。まだ幼い少女が一人で歩いていい場所ではない。


「キャー⁉」


 不安的中してしまった。

 路地の奥から少女の悲鳴が聞こえてきた。


「パパ、今の声は?」

「ああ、そうだな……くそっ。マリアを掴まっていろ」


 悲鳴はクラウディアのものであった。

 オレはマリアを抱きかかえて、路地裏に駆けていく。闘気術で五感を鋭敏にして、声の元を探り当てる。


 いた。あそこか!


「クラウディアちゃん!」


 伯爵令嬢の姿を発見して、腕の中の叫ぶ。


(あれは……誘拐か?)


 クラウディアは数人の男に、抱きかかえられていた。

 意識がないところから推測するに、気絶さられたのであろう。命は大丈夫そうである。


(くそっ、逃げ込まれたか?)


 相手は中々の手際の良さであった。

 事前の逃走経路があったのであろう。オレが動き出す前に、更に路地の奥へと消え去っていく。


(あれは営利目的の誘拐か?)


 先ほどの手際は街のゴロツキの動きではなかった。

 明らかに訓練を積んで来た盗賊のもの。

 しかもリーダー格の男は闘気術で身体能力を強化していた。


(ということは、この街の盗賊ギルドの連中か?)


 大きな街には“盗賊ギルド”と呼ばれる集団があった。

 奴らは闇の仕事なら何でもする。誘拐もお手のものであろう。

 個人的な恨みではなく、仕事として誘拐を計画的に行っているのだ。


(あの娘……クラウディアも、金さえ払えば助かるだろうな……)


 盗賊ギルドの連中は、意外とビジネスライクである。

 親が金さえ払えば、子どもには指一本触れないであろう。

 だから逆に安心ともいえよう。


 他人であるオレは、このまま傍観するのがベストな選択であろう。


「パパ……」


 そんな時である。

 左腕の中のマリアが、口を開く。オレをジッと見つめてきた。


「クラウディアちゃんは、マリアのだいじな、お友だちなの……」


 クラウディアは入学当時から口撃してきた。

 だがマリアにとっては、そんなモノは関係なかったのであろう。


 誘拐されてしまったクラスメイトのことを、本気で心配していた。


「そうだったな、マリア」


 昔のオレだったら誘拐を、傍観していたであろう。


 だが幼い少女にとって監禁されることは、人生のトラウマになりかねない。

 マリアのクラスメイト……友達に、そんな思いはさせたくなかった。


「オレに任せておけ」

「ほんとう⁉ ありがとう、パパ!」


 この近くにリリィの働いているパン屋がある。

 そこにいるフェンに預けていけば、マリアは心配ないであろう。


(やれやれ……さて、助けに行くとするか……)


 こうしてマリアのクラスメイト、クラウディアを助けるために盗賊を追跡するのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] また再び罪無き…いや罪ありまくりな盗賊がオードルさんの超暴力の犠牲に…(残念でも無ければ当然) [気になる点] 今回歩街中だから殺すのはちょっとマズいのか? いや、戦争ばかりやっている中…
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