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第4章ー8

 そのように諸外国が動いている頃、日本海兵隊は、少し困った事態になっていた。

「いかんな」

 長谷川清海兵本部長は、多田駿軍令部次長に渋い顔をして、言わざるを得なかった。

「6個師団総動員体制を執りたいところだが、士官も下士官も、微妙に足りない」

「スペインへの派兵が響いていますな」

 多田軍令部次長も、長谷川海兵本部長に同意せざるを得なかった。


 スペイン内戦に介入するために、海兵隊は、土方伯爵を総指揮官にして、数千名単位でスペインに士官、下士官を派遣していた。

 勿論、(第一次)世界大戦の反省から、様々な手法で、士官、下士官を平時でも脈々と養成してきており、戦時で少々の損耗があっても耐え抜ける状況にある、と2人共、事前には判断していた。

 だが、実際にやってみると。


「上海防衛のために、海兵隊を増やしたのも、大きかったですな」

 多田軍令部次長が、ぼやいた。

「あれで、平時海兵4個連隊基幹だったのが、平時6個海兵連隊基幹にと、1.5倍に増えたからな」

 長谷川海兵本部長の渋面も更に深くなった。


 海兵隊の本音としては、平時兵力の増強となり、いざという場合の戦時兵力拡張の基盤ともなる海兵隊増設は、本来的には望むところだった。

 だが、それまで拡張時に海兵4個師団となるところが、海兵6個師団体制を執ることになったのだ。

 士官、下士官養成体制に、大幅な見直しを行わざるを得なかった。

 更に言えば、一応は、日本は平時体制にあるのである。

 平時に軍備拡張のために、大幅な予算が付くわけがなかった。

 海兵本部としては、それでも綱渡りで何とかなるようにしていたのだが、スペイン内戦介入で、綱渡りが破断してしまったという訳だった。


「とりあえず、横須賀と佐世保の2個鎮守府海兵隊に、戦時体制を執らせ、海兵師団にすることにする。次に、呉と舞鶴だな。横須賀と佐世保の2個海兵師団が、上海に到着次第、上海にいる海兵2個連隊を基幹とする部隊を、日本に帰還させて、2個海兵師団に改編しよう。上海の部隊を、海兵師団にするのは、スペインに派遣している士官、下士官が帰還してきてからだ」

 長谷川海兵本部長は、多田軍令部次長に言った。

「やむを得ないでしょうな」

 多田軍令部次長も同意せざるを得なかった。


「それで、スペインに派遣している士官、下士官の帰国見込みは」

 多田軍令部次長が尋ねた。

 それによって、大攻勢に転ずる時期が変わってくる。

 余りに遅れるようだと、それだけ、陸軍に派遣兵力を再検討してもらう等、負担を掛けざるを得ない。


「土方伯爵は、今年のクリスマスには終わらせたいらしい」

「クリスマスまでにですか」

 多田軍令部次長は、土方伯爵の言葉は、本気なのか、冗談なのか、ふと考えざるを得なかった。

 これまで、クリスマスまでに終わった戦争はない(第一次世界大戦末期の1918年には実現したが、その前の1914年のイメージが強く染みついてしまった。)。


「一応、今年のクリスマスまでに終わるという前提で考えると、我が海兵隊の6個師団全てが動員を完結して、中国に赴けるのは、来年の4月初めといったところになるだろうな」

 多田軍令部次長の内心に気づいていないのか、長谷川海兵本部長は、更に言葉を紡いだ。

 多田軍令部次長は、その言葉に肯いた。

 自分の見立てでも、それくらいの時期になるだろう。


「それでは、その前提で、陸軍等と協議し、具体的な作戦計画を立てようと思います」

「そうしてくれ。来年の春まで、しばらく共産中国軍の攻勢に対しては、満州国軍と我が日本は守勢を取らんといかんだろうな」

 多田軍令部次長は、長谷川海兵本部長の前を辞去しようとし、長谷川海兵本部長は、多田軍令部次長に指示を与えた。

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