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エピローグー2

 似たようなことを岸総司も考えていた。

 今年の1月半ばに南京、上海方面に赴いてからの、半年に及ぶ治安維持任務を交代で終えて、帰国したばかりだった。

 義兄になる土方勇にしても、海軍兵学校を繰り上げ卒業になり、海兵隊士官としての訓練を受け、来年の1月には中国への派遣が内定している。


 この調子で中国内戦に介入するだけでも、日本にとって負担は重いのに、第二次世界大戦が、もうすぐ起こりそうで、日本も参戦せざるを得ない、と考えられる状況とあっては。

 自分も、どこかで近々、戦死していてもおかしくない。


 母の忠子が、自分に言ったことがある。

「あなたには、千恵子以外にも異母兄弟がいるのではないか、と思う」

 と。


 村山幸恵は、実は、自分や篠田千恵子の異母姉ではないだろうか。

 だからこそ、林侯爵は、今回の件を画策した。

 それとなく真実をお互いに知らせるために。


 お節介にも程がある、と思わなくもないが、自分も勇も、近々、どこかで戦死する可能性は高い。

 皆が存命の内に、真実を陰ながら知るべき、と林侯爵は考えたのだろう。

 総司は、めでたい席に参列した身でありながら、そんなことを考えていた。


 土方勇志は、新婦の篠田千恵子と岸総司、村山幸恵を、見比べながら想った。

 この場に、アラン・ダヴーがいないのを、どう想うべきだろう。

 こうして見比べると、どこがどうとは言えないが、4人が血を分けた姉弟だと思えてならない。


 幸恵が参列すると聞いた時、篠田りつの表情が陰ったのを思い出した。

 女の勘で、幸恵が、千恵子の異母姉ではないか、と察したのだろう。

 だが、証拠もなしに、事を荒立てることはできない。

 篠田りつは、幸恵が参列することを承諾し、幸恵はこの場に参列していた。


 幸恵は、それなりに頭が回る。

 実母の大女将と同様に、真実を察しても沈黙を保つだろう。

 岸忠子や篠田りつは、幸恵達が口を開かない限り、攻撃を控えるだろう。

 勇志は思った。

 近々起こる戦争で、幸恵が、陰ながら勇や総司の菩提を弔うことがなければよいが。


 土方勇と篠田千恵子は、結婚式の会場で、お互いに想いを巡らせていた。

 岸総司と村山幸恵の二人が、結婚式に参列するというのは、予想外だった。

 総司を結婚式に招くことは決めていたが、篠田家が並ぶ中で、総司が孤立するのは明らかだったので、祖父の土方勇志が、林侯爵を代父として参列させ、その横に総司を座らせることにしたのだ。

 そうしたところ、幸恵も呼べ、と林侯爵が言い出し、幸恵も参列することになった。

 確かに二人の仲を取り持ったのは、総司と幸恵なので、おかしくはないが、と二人は考える内に、どちらからともなく察した。

 幸恵は、千恵子の異母姉の可能性がある、と。


 岸忠子や篠田りつのことを考えれば、幸恵が千恵子の異母姉なのは、公表できない。

 だからこそ、こういった方法を取って、分かる人には分かるように仕向けたのだろう。

 それに、少なくとも来年の1月には中国に勇は行かねばならないし、総司もまた中国に行くだろう。

 皆が生きている間に、と林侯爵は考えたのだろう。

 土方勇と篠田千恵子は想いを巡らせた。


 林忠崇侯爵は、結婚式会場で思った。

 自分でもお節介すぎるとは想う。

 だが、分かる人には分からせたかった。

 余りにも、村山幸恵が気の毒に思えてならなかった。


 もうすぐ、世界大戦が、また起こるだろう。

 土方勇や岸総司、それにアラン・ダヴーらは戦場に赴くだろう。

 そして、万が一のことが。

 アラン・ダヴーにまで、自分の手は伸びなかったが、それ以外の3人は、お互いの関係を察するだろう。

 真実を全く知らないまま、死ぬより、残酷かもしれないが真実を知って死ぬべきだろう。

 林侯爵は、ひたすら想いを巡らせ続けた。

 これで、第8部を完結させます。


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