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第9章ー6

 似たような苦悩を、山本五十六空軍本部長や、岡部直三郎陸軍参謀本部次長(空軍担当)もしていた。


「その報告書に詳細はまとめておいたが、佐渡島や輪島等への電探基地は、今年の8月以降は、問題なく稼働できるようになる予定だ。これによって、ソ連空軍の帝都空襲は、早期警戒が可能になる。立川や厚木等への99式戦闘機配備も並行して進める予定だ。この8月以降なら、陛下の御宸襟を安んずることができる、と確言できる」

 岡部次長は、山本本部長に言っていた。

「よく、ここまで漕ぎつけられたな」

 山本本部長は、素直に感嘆していた。


「とはいえ、それだけだ。後は、穴だらけだ」

「帝都防空を最優先でしたのだから、仕方ない側面もあるがな」

 二人は溜息を吐きあった。


 日本空軍が担う任務は、勿論、多岐に渡るが、大正時代に陸軍傘下で半独立した軍種として、空軍が独立して以来、第一の任務が、制空、防空任務であり、第二の任務が、陸軍の地上支援任務であることは、未だに変わってはいなかった。


 勿論、他の任務を、空軍がこなさないわけではない。

 敵国の工場等を攻撃する戦略爆撃任務や、海軍と協力しての対潜哨戒任務、等々、空軍が求められる任務は、他にも多々ある。

 しかし、その優先順位は、下位に置かれるものだった。

 だからこそ、日本空軍は、独自の戦略爆撃機の開発を見送り、米国製B-17重爆撃機をライセンス生産する99式重爆撃機の採用で、お茶を濁す等の方策を講ぜざるを得なかった。


「少ないとはいえ、今年の9月以降になれば、99式重爆撃機を装備する重爆撃機戦隊の第1号が編制を完結し、実戦投入可能になる。他にも、99式シリーズへの機種改編が、各種航空隊で進む予定だ。それによって、対ソ戦で航空優勢を確保し、勝利を掴むしかないな」

 岡江次長は、山本本部長に言った。


「勝利を掴む、と言うが、実際問題として、日本、及び満州国、韓国、米国が加わって、どこまで進撃が可能だと考える」

「沿海州を始めとする極東ソ連部分を制圧して、イルクーツクまで進むのが、補給の観点からは精一杯だろうな」

 山本本部長の問いかけに、岡江次長は答えた。


「その程度の戦果で、ソ連が白紙でも講和に応じてくれると思うか」

「思えないな」

 二人は、昏い顔をしながら、語り合った。


「やはり、欧州方面からの進撃により、レニングラード、モスクワ等を制圧するしかないか」

「そうすれば、何とか、ソ連も講和に応じてくれるだろう。応じないまでも、我が国単独でも対処可能なほどの国力に低下するだろう」

「しかし、日本の力で、それが可能か」

「米英仏等の助力が無い、とどうにもならないだろうな。更に言うなら、長期戦は必至になる」

「中国内戦介入だけで、苦労しているのに、もっと苦労するしかないのか」

「そういうことになる」

 山本本部長と岡江次長の話の内容は、深刻さを増す一方だった。


「余り考えていても仕方ない。とりあえず、目の前のことを一つ一つ片付けていくしかあるまい」

 岡江次長が、雰囲気を切り替えるために、敢えて乱暴な口調で言った。

「確かにそうだな。陛下の御宸襟を安んじられそうだ、という見込みも立ったしな」

 山本本部長は、そう言った。


「ところで、電探の性能は、本当に当てになるのか」

 山本本部長の脳裏に、懸念が走った。

「英米の協力を受け、民間のラジオ製造等の精密工業の裾野を転用しての、電探開発だ。実用上、問題ないレベルに達している、と報告書に書いてある通りだ」

 岡江次長は、山本本部長の懸念を消すために言った。


「とはいえ、防空監視哨における目視等を併用して、万が一に備えよう」

「やはり、そうなるか」

 岡江次長の答えに、山本本部長はそう答えた。

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