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第9章ー5

 前述のように、海兵隊の欧州派遣問題について、陸軍本体は、海兵隊6個師団を差し出す代わりに、米陸軍が来援するのなら、問題はない、という態度を示していたが、海軍本体は、基本的に賛成だが、全面的な賛成はできなかった。

 それこそ、先の世界大戦の際に、海兵隊を派遣した後、航空隊を、艦隊を、と追加派兵を求められた悪夢を思い出さざるを得なかったからである。

 それに、単に海兵隊のみを派遣するとしても、素直に肯くことはできなかった。


「日本から欧州に、海兵隊を派遣するとした場合、当然、派遣兵団の護衛艦隊を出さない、といけないと考えますが」

「それは、当然だな」

 堀悌吉海相は、吉田善吾軍令部長と会話していた。

 ちなみに、連合艦隊司令長官は、嶋田繁太郎が就任している。

 堀海相による海軍三顕職の総入れ替えだった。

 堀海相としては、世界大戦に備えて、海軍兵学校の同期生で、三顕職を固めることで、海軍内の統制を図ろうとしていた。


「護衛艦隊を出すだけで、済みますかね」

「済まないだろうな」

 吉田軍令部長の問いかけに、堀海相は、率直に答えた。

「恐らく、海軍航空隊が、海兵隊の支援のために求められるだろう。海兵隊からも、周囲からもな」

「先の世界大戦の損耗の経験と、中国内戦介入の為に、航空母艦と航空隊の分離は完了しており、搭乗員の数も、三直制がこの秋には整う予定ではありますが」

 吉田軍令部長は、苦渋に満ちた言葉を発した。


 ちなみに、この航空母艦と航空隊を分離することは、海軍の一部から強い反対があった。

 やはり、母艦乗組員と航空隊の隊員との間に、溝が生じるのでは、という主張があったのだ。

 しかし、補充等の問題から、航空母艦と航空隊の分離は、断行された。


 そして、蒼龍級空母3隻、「蒼龍」、「飛龍」。「雲龍」が、この秋には勢揃いする予定で、日本は、空母7隻を保有する空母大国になり、母艦航空隊の規模も、質量共に世界トップを争えるレベルになる予定ではあった。

 零式艦上戦闘機の配備が、空軍優先になったことから、遅れ気味になったのは痛かったが、99式艦爆「彗星」や99式艦攻「天山」は、予定通りの配備が進んでいる。

 だが、その結果として。


 背に腹は代えられないとはいえ、もしもの際に、世界大戦勃発の際に、折角の空母群が、欧州への航空機輸送にフル活躍し、陸揚げされて、陸上航空隊として、海兵隊の支援に当たる、という可能性は、海軍軍令部長として、断腸の思いがすることだった。

 もっとも、米国でさえ、その可能性が指摘されており、スワンソン海軍長官が、その可能性を検討するようにリーヒ海軍作戦部長に、指示を下した、という情報が、米国から伝わっていては、日本も検討しないという訳には行かなかった。


 しかも、三直制により、航空隊を陸揚げすること自体に問題は少ない。

 米英仏という味方もいる以上、日本海軍航空隊の負担が耐えられない、という可能性も低かった。

 だが、空母を送り出すという事は。


「欧州に空母を送り出すことになると、それなりの護衛艦隊も付けねばならん。海南島や厦門等に、ソ連海軍の潜水艦が活用可能な補給施設ができつつあり、通商護衛任務に多数の艦艇が必要な状況なのに」

 堀海相は、苦渋に満ちた表情で言った。

「海軍軍令部としては、両方の任務を行うことは、不可能とは申しませんが、困難だと申し上げます。これは、嶋田連合艦隊司令部司令長官も、同意見です」

「分かった」

 吉田軍令部長の言葉に、堀海相は、そう答えざるを得なかった。


 厄介だ。

 まずは、ある程度、日本本土の海上交通線の安全を確保した上で、海兵隊と共に、空母部隊を欧州に派遣せざるを得ない。

 堀海相は、苦悩の果てにそう考えた。 

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