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第9章ー3

 そして、ダヴー中尉は、全く知らないことだったが、実は、ダヴー中尉の基本構想は、フランス政府、軍の最上層部の考えと一致していた。


「英米日やポーランド、ベルギー、オランダ等との連携した作戦計画は、何とか立てられそうか」

「最新情勢に合わせて、修正を繰り返さねばならないが、開戦に備えて、何とかなるのではないか」

 フランス陸軍参謀本部では、そのような会話が交わされていた。

 その会話の更に詳しい中身だが。


「我がフランス軍の基本的な作戦計画としては、ベルギーのディール河等を防衛線とし、守勢に徹するのが最善であると考えます」

「前に出過ぎる危険性があるが、大丈夫なのか」

「独とソ連の最初の作戦計画としては、ポーランド侵攻を行わざるを得ません。それによって、独とソ連を地続きにし、補給等で問題が無いようにすると考えられます。そして、ポーランド軍の作戦計画ですが」

 参謀本部で会議に参加している参加者の一人は、ポーランド軍から派遣されている士官に話を振った。


「ポーランド軍の実力では、独ソ両軍に挟撃された場合、国土を守り抜くのは不可能です」

 そのポーランド軍士官の発言は、フランス軍士官の多くに衝撃を与えた。


 もしかすると、独ソ両軍によるフランス侵攻もあり得る。

 フランス革命時以上の、祖国の危機になるのではないか。


「それ故、我がポーランド軍は、発想を転換しました」

 そのポーランド軍士官は、言葉を継いだ。

「一部をもって、カルパチア山脈等を活用しての遊撃戦を展開することで、独ソの補給線を撹乱し、軍の主力は、ポーランドから脱出します。フランス等に対して、その支援をお願いします。脱出後、軍の主力は、フランスに移動して、祖国ポーランドの解放を目指します。フランスにとっても、悪い話ではない、と考えますが」

 フランス軍士官の多くが唸り声をあげた。


 ポーランド軍は、総動員完結時には100万人に達する、とされている。

 その半数、50万人でも、フランス軍の味方として参加すれば、フランス軍の大いなる助けになることは間違いなかった。


「中々、興味深く、祖国フランスの助けになるお話だ」

 ガムラン将軍は、ポーランド軍士官の言葉を歓迎する発言をした。

「それにしても、一時とはいえ、祖国を捨てるような作戦。本当に可能なのでしょうか」

 ガムラン将軍は、言葉を継いだ。

 それは、多くのフランス軍士官の疑問を代弁するものでもあった。


「人、民族さえ、健在ならば、祖国はそこにあります。セルビアは、先の世界大戦の際に、国民の多くが一時とはいえ、祖国の土地を離れたではありませんか。ポーランドも同じことをするだけです」

 ポーランド軍士官の顔色は、平然としているように見えた。

 だが、声が少し震えているのが、会議の参加者の多くには分かった。

 祖国とは重いものだ、会議の参加者の多くが、そう思わざるを得なかった。


「そこまでの覚悟をされるとは、我が国をはじめとする国々は、万が一の際には、ポーランド復興に尽力するでしょう」

 ガムラン将軍は、ポーランド軍を歓迎する発言をした。

「それにしても、独ソの同盟軍に勝つのは大変だ。我が国のみならず、英米等の協力が必要不可欠ですな」

 ガムラン将軍の発言は、会議の参加者の多くが共有する想いでもあった。


 いざという時、我がフランス軍だけでは、祖国フランスを護れない。

 ポーランドを他人事とは思えない。

 かつての、数々の祖国フランスの栄光を想えば、哀しくなる現実だ。

 今のフランスの国力では、守勢に徹して、英米等の来援を待ち、その上で、独ソを打倒するしかない。


 フランス政府、軍の最上層部は、そのように考え、英米日等の諸国と対独ソ戦に備えた連携を強めていた。

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