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第9章ー2

 砲戦車を開発すると言っても、土台から設計、試作を行っては、時間が掛かる。

 フランスは、既成の戦車を砲戦車に改造することで、少しでも時間を短縮することにした。

 中でも、目を付けられたのは、ホチキスH35戦車だったが、他のルノーR35戦車やソミュアS35戦車から改造されたものもあった。


 基本的には、この当時のフランス陸軍の砲戦車は、シュナイダー社製の75ミリ野砲を、オープントップ式の戦闘室に配置したものだった。

 更に、その戦闘室は、後方ががら空きだったため、弾片防御等に問題を抱えていた。

(なお、第二次世界大戦後の戦訓により、後に開発製造される、いわゆる後期型は、戦闘室について、基本的にオープントップを廃止し、上部まで覆った完全密閉式になっている。)

 また、副武装として、12.7ミリM2重機関銃を装備している。

 なお、副武装に、12.7ミリ重機関銃を採用したのは、固定砲塔の弱点を少しでも補うためだった。


 しかし、基本的には、砲塔正面は傾斜50ミリ、車体正面は傾斜していないとはいえ、50ミリ装甲を備えた砲戦車は、ドイツの戦車乗りを苦悩させる存在だった。

 何しろ、砲戦車の主砲は、射距離1000メートルで70ミリの装甲を貫通可能で、この当時のドイツ戦車には、これに耐えられる70ミリ以上の装甲を持った戦車は存在していなかった。

 一方、1940年夏になるまで、500メートル以内に接近すれば、何とか正面装甲が貫通可能になる50ミリ砲42口径搭載の3号戦車は、前線に登場しなかったのである。

 そして、日本から伝えられた戦訓により、全ての砲戦車には無線機が装備され、それによる連携により、固定砲塔の弱点を補うものとされていたため、防御に徹する限りは、歩兵の直協任務から対戦車戦闘任務までこなすことが可能だった。


 だが、その一方、この砲戦車は、固定砲塔ということもあり、先頭に立って攻撃任務を行う事等には、全く向いていないという大きな欠点を抱えていた。

 実際、ダヴー中尉率いる歩兵小隊は、砲戦車部隊との対抗演習で、砲戦車が前進してくるところを返り討ちに何度もしていた。


「全く、無いものねだりをしても仕方ないですがね。これでは、対独戦争が起こっても、攻勢を取れず、我がフランス軍は守勢に徹さざるを得ませんよ」

 スペイン内戦で肩を並べて戦ったことからくる気安さもあり、フリアン軍曹は、無遠慮に、ダヴー中尉にそう言った。

「確かにな」

 ダヴー中尉も、フリアン軍曹の主張に同意せざるを得なかった。

 だが、ダヴー中尉には、フリアン軍曹に見えないものが見えていた。

「我がフランス軍が、攻勢に出るのは、軍の精神的にも、困難極まりない」


 かつての、エラン・ヴィタールの精神は、今のフランス軍には、残っていない、と言っても過言ではない、とダヴー中尉には見えていた。

(第一次)世界大戦の大損害は、フランス軍の兵士が、攻勢に出るのを躊躇う最大の要因になっていた。

 ダヴー中尉の見るところ、父贔屓の心情があるのは、自分自身否定しないが、日本や米国が先頭を切って攻勢の音頭を取ったことから、1918年の最終攻勢を、フランス軍は取れたのではないか、と思われてならないのが現状だった。


 こういった現状から考えれば、対独戦争に突入した場合、フランス軍は守勢に徹するしかなかった。

 それに、とダヴー中尉は、更に考えた。

 守勢に徹していれば、日米両国軍が駆けつけてくるだろう。

 兵力的な優勢を確保した上で攻勢を取った方が、損害は少なくて済む。

 更に考えるなら、それを知っている独軍は、無理でも攻勢を取らざるを得ない。

 そして、それを撃退できれば。


 我がフランス軍は、勝ちを収められる。

 ここに出てくるフランスの砲戦車ですが、史実の一式砲戦車モドキ(つまり、90式野砲が主砲)と考えて下さい。

 少ないですが、マジノ線建設がなされていないこともあり、3000両程が1940年春には、フランス軍に配備される予定です。

 これだけのことをすれば、何とか独軍の対仏侵攻があっても、パリ陥落は無い、と思いたいのですが。

 そんな戦車数では、独軍の前では蟷螂の斧、無理無理とも言われそうですが。


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