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第8章ー8

 度重なる独政府の恫喝(更に、それに加担したハンガリー政府の行動等)により、1939年3月には、国家としてのチェコスロバキアは正式に解体された。

 ミュンヘン会談後に遺されていたチェコスロバキア領土のうちの一部、旧スロバキアの約3分の2は、ドイツの保護国、スロバキア共和国として名目上は独立を保ち、旧スロバキアの残り約3分の1は、ハンガリーに併合され、旧チェコは全てドイツ領となった。


 ヒトラーは、これは、チェコスロバキア政府からの要望によるものであり、独政府は、その要望を受け入れたに過ぎない、ミュンヘン会談の結果を、独政府から破ったのではない、と声明を出したが、チェコスロバキア政府と独政府の交渉の経緯からして、独政府の軍事的恫喝の果てに、チェコスロバキア政府が、膝を屈せざるを得なくなったのは、どう見ても明らかだった。

 日米英仏等の各国の政府は、この独政府の行動は、ミュンヘン会談の結果を、明らかに破るものだ、と公式に非難声明を出した。

 だが、さすがに日米英仏各国政府も、独に対する軍事行動は取れなかった。

 特にチェコスロバキア政府と、何らかの軍事的な協定を、日米英仏各国政府が、結んでいた訳ではないからである。


 もっとも、このことが、独のヒトラーの判断を、後の1939年9月時点で、誤らせることになったのは確かだった。

 日米という後ろ盾があっても、英仏は決して動かない弱腰だ、と判断することになるのである。

 スターリンも、この時点では、ヒトラーと似たような判断を下していたらしい。

 万が一に備えての物資の備蓄等は進めるものの、英仏(日米)から宣戦布告という事態は基本的にない、という考えで、1939年9月までソ連政府も動くことになった。


 もっとも、ヒトラーやスターリンが、そう甘い判断を下したのも無理からぬところがあった。

 日本政府内には、何とか東京オリンピックを開催しようという動きが、まだ続いていた。

 1938年のワールドカップには出場できなかったが、1940年の東京オリンピックには、日本サッカー代表を出場させ、二大会連続の金メダルを獲得させたい、という国民の輿望もあった。

 幸か不幸か、中国内戦(への日本の介入)は小康状態となっており、日満両国による占領地域の共産ゲリラ討伐戦のみが行われている、といってもよい状況だった。

 そのため、このままなら、何とか東京オリンピックは開催できるのではないか、という淡い期待が日本の国内外には漂いもしていたのである。


 そのため、日本郵船では、シアトル、豪州航路向けの三池丸級貨客船4隻、欧州航路向けの新田丸級貨客船3隻の建造に加えて、サンフランシスコ航路向けの橿原丸級貨客船2隻等の建造を決断している。

 これらは、予定では、竣工は、東京オリンピック開催までに何とか間に合い、欧米各国からの観光客等を運ぶ予定だった。

 特に橿原丸級貨客船に至っては、1940年当時では太平洋航路で最大級の貨客船となり、「太平洋の女王」として君臨する予定だったのである。

 こういう日本国内の動きからしても、日本に直接、手を出さない限り、戦争にはならない、と独ソ両国は考えた。


 だが、皮肉なことにこういった豪華貨客船は、周知のように観光客を運ぶ前に、日本の軍人や軍需品を大量に運ぶ羽目になるのである。

 不幸中の幸いだったのは、橿原丸級は全てが生き抜き、第二次世界大戦後のサンフランシスコ航路に予定通りに就航できたことだったろうか。

 特に、日本郵船の取締役全員が、第二次世界大戦後、サンフランシスコ航路再開初の出港を、出雲丸が行った際、横浜港の埠頭に駆けつけ、嬉し涙にくれながら見送ったというのは有名な逸話である。

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