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第8章ー7

 こういった事態から、独ソに対する警戒心が、日米のみならず、英仏等にも高まった。


 ミュンヘン会談直後は、英仏両国内を始めとする欧州諸国内では、ミュンヘン会談により、欧州に平和がもたらされた、というミュンヘン会談に好意的な世論が大勢を占めていた。

 だが、独がミュンヘン会談の約束を守らない態度を公然と示しだしたこと、更にソ連も同様の態度を示しだしたことから、ミュンヘン会談は失敗だった、むしろ、チェコスロバキアを支援して、独ソの野望を挫くべきだったのでは、という世論が、英仏等の欧州諸国内で、徐々に強まることになったのである。


 こういった世論の背景もあり、ポーランドやオランダ、ベルギー等の政府は、英仏に接近する姿勢を示すようになった。

 特に、ポーランド政府は、従前から、独ソ両国に挟撃されるという地勢的な条件もあり、英仏(日米)に頼る姿勢を示していたのだが、チェコスロバキアの解体は、その姿勢を、より急進させることになった。

 勿論、単純に独ソを敵視していては、ポーランドに対する侵略を呼び込むものだ、とポーランド政府は、ある意味で正しい判断をしており、この当時、独ソ両国と友好不可侵条約を結び続ける等の態度を示している。


 だが、ミュンヘン会談以前の経緯から、ポーランド政府にしてみれば、それは単なるアリバイ作り、としか考えてはいなかった。

 独ソ両国との友好関係を、ポーランド政府としては、維持したかったが、独ソ両国から不当な圧力を受け、自国の存立が侵される事態になったので、最早、独ソ両国との友好関係は維持できなくなった、と国内外の世論に訴え、自国への味方を増やそうと、ポーランド政府は考えていた。


 1939年3月に、ポーランド全土の独立保障を、英仏のみならず、日米までが保障したのは、そのポーランドの外交努力の精華と言えることだった。

 その代償として、ポーランドは、独が用いている暗号、エニグマ暗号解読の成果を、日米英仏に隠密裏に流す等のことをしている。

 勿論、この当時、エニグマ暗号が、ポーランドからの情報提供によって、すぐに日米英仏でもできるようになったわけではない。

 だが、日米英仏にとって、エニグマ暗号解読の発端になったのは確かなことで、これによって、第二次世界大戦中、日米英仏は、独ソ中に対して、情報戦で優位に立つ一因となった。


 こういった日米英仏、及び周辺諸国の対応を見た独ソ両国の反応も、密やかではあるが、それなりに世界大戦への準備を着々と進めるようになった。

 軍備は、徐々に整えられ、物資の備蓄等も、できる限り進められた。


 例えば、ソ連の極東軍管区内では、いざ、世界大戦勃発となった際には、シベリア鉄道をフル稼働させないと、軍の行動が困難になることが分かっていたので、シベリア鉄道切断の危険に備えて、物資の備蓄が進められることになった。

 第二次世界大戦後の調査によると、シベリア鉄道が、イルクーツクで完全に切断されても、最低6か月は戦い抜けるだけの(軍需用のみならず、民需用まで含めた)物資が、第二次世界大戦勃発までに、極東軍管区内に備蓄されるという事態になっている。


 1939年初頭の頃、日米英仏を、独ソ両国政府(具体的には、ヒトラー、スターリン両名)は恐れておらず、第二次世界大戦になるとは、考えていなかったという有力説があるが、実際には、万が一に備えた準備を独ソ両国は着々と整えていた、というのが実態だった。

 こういった独ソ両国の態度を見て、日米英仏等も、第二次世界大戦勃発に備えた準備を、粛々と進めざるを得なかった。


 最早、こうなっては、戦争の危機は高まる一方だった。

 後は、どちらが第一弾を撃つか、だった。

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