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第8章ー3

「つまり、我が日本としては、このミュンヘンにおいて、独ソの要求を丸呑みするという選択肢しかない、ということか。国粋主義者、愛国者の方々から、売国奴、非国民、と私は罵倒されそうだな」

 米内光政首相が言うと、吉田茂外相は皮肉な言葉で、更に返した。

「自分は、愛国者だと言う人程、非国民、売国奴に他ならない、という言葉も、どこかの国の格言にあった気がしますな。いや、自分が真の愛国者だ、というのは、祖国を外国に売るスパイの常套句、だったかもしれませんが」

 そのやり取りが終わった後、米内首相と吉田外相は、苦笑いをしあった。


 厄介なものだ、現状の国民世論に反した方向に、国民世論を誘導せねばならない。

 本音としては、平和を維持したい、だが、独ソの要求を受け入れての平和では、ユーラシア大陸から完全に日本は追い出されかねない。

 それは、明らかに日本の国益に反する。

 米内首相も、吉田外相もそう考えていた。


 それにお互いに口には出さないが、日本の軍事力の現状もあった。

 吉田外相はともかく、米内首相は、歴戦の軍人である。

 更に、陸海(空海兵)軍内の知己も多い。

 陸相の梅津美治郎陸相や、海相の堀悌吉海相は、自らが海兵隊の現役軍人だった第一次世界大戦時に、共に肩を並べて戦った戦友である。

 空軍のトップ、山本五十六空軍本部長も同様だった。

 海兵隊に至っては、自らがトップの海兵本部長まで務めた古巣だった。


 そう言った自らの知己の軍人の面々から、共産中国だけならともかく、対ソ戦に日本が突入するのは、早くても、1939年の後半以降にするように、という忠告を、米内首相は受けていた。

 

「1939年後半になれば、97式戦車の47ミリ長砲身型を搭載した型(いわゆる、99式戦車、97式戦車改)の量産体制が整う等、対ソ戦に突入しても、質的優位をもって戦えるし、米国の軍拡もある程度は整うだろう。だから、それまでは、対ソ戦を避けるべきだ」

 梅津陸相は、そう米内首相に言っていた。


「高雄型巡洋戦艦の一番艦、「高雄」は、1939年の後半にならないと竣工しない。蒼龍型航空母艦も、3隻が揃うとなると同様の頃になる。ソ連潜水艦の脅威に対処するために、朝潮型駆逐艦の量産を進めているが、それにも時間が掛かる。1939年後半まで、対ソ戦は避けるべきだ」

 堀海相の意見も、似たり寄ったりだった。


「ソ連空軍による、日本本土へのゲリラ的な空襲を阻止するのは、現時点どころか、少なくともこの先、5年は不可能だ。だが、99式戦闘機を量産し、本土の電探網を築くことにより、少なくとも帝都は完全に防空可能になるが、それは、1939年の後半の話だ。それまでは、陛下の身を考える限り、対ソ戦には自分は反対させてもらう」

 山本空軍本部長も、そういう現状だった。


 海兵隊内の意見も、陸海空と同様で、現時点での対ソ戦不可能論であり、米内首相自身も、海兵隊の現状をよく知るだけに、同意せざるを得なかった。


 こういった日本の軍関係者の主張や、日本の国内世論から、この(ミュンヘン)会談で、独ソをあやし、日米英仏の世論に対して、世界平和がもたらされたという幻想を与えて、次に独ソが(今回の件で味を占めて)新たな要求を出してきた時点で叩きのめす。

 米内首相と吉田外相は、そう考えていた。


 この考えには、米のルーズベルト大統領も賛成していた。

 ルーズベルト大統領も、米国内世論の誘導に苦慮しているという現状があったからである。

 米英仏日の4か国連合により、独ソの野望を挫こう、というのがルーズベルト大統領の考えだったが、日本は賛成しているものの、英仏の態度は微妙で、このミュンヘン会談で結束を固めようと考えていた。 

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