お年玉 新年特別短編
まだモルテールン領に貯水池が出来る前のこと。
「父様、お年玉を下さい!!」
「はぁ?」
執務室の中で仕事をしていたカセロールの元に、愛すべき息子が飛び込んできて開口一番のたまった。
何を言っているのか意味が分からなかったカセロールは、仕事の手を止めて思わず何といったか聞き返した。
「とある国の風習では、新年には子供にお年玉と言う名前のお金を配る風習があるのです。実に良い風習だと思うので、我が家でも取り入れるべきです」
「……やはり、詳しく聞いても良く分からん。何で年が明けたら子供に小遣いをやらねばならんのだ?」
「それがお年玉だからです」
目を爛々とさせ、力を込めて切々と語る少年に対し、父親は毎度のことながら溜息をつく。どうしてこうも余計なことには力を入れるのかと。もう少しまともな方向に頑張ってくれるなら、我が息子は誰にも認められる名領主と成れるに違いないとカセロールは思っている。
シイツには親馬鹿と笑われたが。
「ことの是非はとりあえず置いておこう。お前は、お年玉とやらを貰って何がしたいんだ? 良からぬことに使うなら小遣いなどやれんぞ」
「勿論、お菓子の材料を買います!!」
「なら却下だ。そんなものに費やす余分な金など無い」
「そんなものとは父様と言えども聞き捨てなりません。お菓子作りの何が余分なのですか!!」
「冬を越せるか不安がる者も居る中で、お菓子などというぜいたく品は簡単には許可出来ん」
まだまだ貧しいモルテールン領。お菓子作りのような道楽に費やす金があるのなら、薪の一つも買って暖かい冬を過ごさせてやりたいぐらいなのだ。
カセロールの意見は、親としても領主としても当然の意見。
「ならせめて、砂糖を買いたいです!!」
「却下」
「なら、蜂蜜を買います」
「それも却下だ」
「果物なら良いでしょう」
「この時期に買うなど散財の極みだ。却下に決まってる」
「うぅ~」
ことお菓子となるとペイスもしつこい。頑固なところは誰に似たのやら。
いい加減、父親の方も根負けしそうだった。
「……じゃあ、卵なら良いですか?」
「ふむ」
ここにきて、カセロールも考え込んだ。
砂糖や果物のような嗜好品は、特に冬の時期は馬鹿に高い。
それに比べると、卵と言うのはこの時期もそれ以外の時期も値段はさほど変わらない。勿論多少は冬に高くなるものだが、冬になると採れなくなるものに比べるなら、供給は安定しているために値段も相応に落ち着く。
「まあ、卵の一つぐらいなら良かろう」
「やったあ!!」
結局、息子のおねだりに根負けする形で、カセロールは卵を買う分ぐらいの小遣いを渡すことになった。銀貨を一枚。これで卵を幾つか買っても十分お釣りが出る。
「ふふ~ん、るんる~ん」
お年玉をもらったペイスはご機嫌だ。
これでこの冬も、多少はお菓子作りが出来るだろうという見込みが立ったから。
それだけに気付かなかった。
「ペイス~、何だかご機嫌じゃない。ふふふ」
「姉様」
いつの間にか、姉が傍に居たことに。
「ついうっかり聞こえちゃったんだけど、ペイスはお年玉ってのを貰ったらしいじゃない」
「こっそり聞いていた、の間違いでは?」
「細かいことは良いのよ。父様がお年玉を渡したのは、卵の為よね?」
「ええ……」
ニヤニヤとした姉の姿。
ペイスは嫌な予感を覚える。
「父様が、ペイスにだけお年玉をあげるのはずるいわよね。ってことで、ペイスは卵料理を作るのよ。あたしの為に」
「はぁ?」
「ほほほ、お年玉の半分は私のもの。あたしは卵料理が良いってアイデアを出してあげたから、残りはペイスの仕事よね。勿論ペイスも食べていいからね。お~ほっほ」
姉の横暴と言う悲劇。言いたいことだけを言い放って去っていく姉の姿に、ペイスは涙した。
なお、味を占めた姉が居たことで、モルテールン家のお年玉制度はその年限りだったという。




