【過去回3】好きだから許せない
子グマの着ぐるみを着た女の子と出会った翌日。
夏期講習のために塾へ向かった俺は、椅子に座るなり隣の席の高宮凛に声をかけた。
週末に起きた出来事について相談をするなら、もっとも仲のいい女友達である高宮以外ありえないと考えたのだ。
「――てことがあったんだけど……。同じ女子の意見を聞かせてくれないか? こんなことで頼れる友達って高宮しかいなくって――」
「……なにそれ」
被せ気味に冷ややかな声が返ってくる。
照れてあらぬ方向を向いていた俺が反射的に振り返ると、高宮は見たことのないほど冷たい眼差しで俺を睨みつけていた。
「そんなの相談じゃなくない? 私に『そんなふうに伝えたいことなんて一つしかないじゃん。絶対その子、告白するつもりだよ!』って言わせたかったんでしょ? ばっかみたい。だいたいその浮かれた態度どうなってんの?」
「……っ」
浮かれていると指摘され、一瞬で顔が熱くなる。
否定はできなかった。
万が一でも、俺を好きな子が現れたのだとしたら――。
そう想像するだけで、どうしても気持ちが浮ついてしまうのだ。
しかも、俺はあの子グマの女の子に対して好感を抱いてしまったので、尚更そわそわした。
「――湊人、まさか勘違いしてないよね? ちょっと話したくらいで、意識するなんてありえなさすぎるでしょ。しかも相手の子の顔も知らないんでしょ? いいも悪いもわかるわけないじゃん。なのに錯覚するなんていかにも恋愛脳って感じだし、バカっぽい」
図星過ぎて何も言い返せない。
あの短時間の間に子グマの女の子の人となりに触れたような気がしたけれど、女の子側からするとその発想自体が気持ち悪いものなのかもしれなかった。
「湊人がそんなヤツだったなんて、ほんとがっかり。そうやってすぐ自分が好かれてるって勘違いする男って、だいぶキツイから」
「……」
「この感じじゃ、相手の子の前でもそういう態度取ったんじゃないの? その子は単純に改めてお礼を言おうとしただけだと思うんだけど。なのになんか勘違いされてるって気づいて内心焦ったんじゃないかな。今頃、余計なこと言ったって後悔してるかもね」
……言われてみれば、あの子は最後逃げるように去っていった。
あれは高宮の言うとおり、俺の態度が気持ち悪かったからなのかも……。
簡単に浮かれてしまった自分、根拠もなく好かれていると思い込んだこと、それを真っ向から指摘された恥ずかしさ、そのすべてに対する後悔が惨めさとともに押し寄せてくる。
そして最後の決め手になったのが、高宮から告げられた一言。
「あと言っておくけど、私は湊人のこと友達だと思ったことなんて一度もないから」
そう言った高宮の声は震えていて、泣き出す一歩手前のような表情をしていた。
こんな顔をさせるほど拒絶されていたなんて。
高宮から言われた言葉は、時間が経つほど重みを増していった。
今まで誰からも指摘されたことがなかったから、青天の霹靂をくらったみたいにショックだった。
しかも自分が密かに自信を持っていた、コミュニケーションという部分に置いて、一番親しいと思っていた女友達から全否定されたのだ。
それから毎晩はベッドに入ると高宮の言葉を思い出し、死にたい気持ちになった。
高宮とは当然まったく関わらなくなったし、自分が気持ち悪い態度で不快にさせるかもと思ったら、高宮だけでなく女子全般に声をかけることもできなくなった。
あの子グマの女の子と約束した週末は迫っているけれど、あの子とももうまともに話せそうにない。
とはいえ、約束をすっぽかすわけにもいかなかった。
もしかしたら、あの子は俺が現れないほうがホッとするかもしれないが……。
散々悩んだ後、俺は週末の約束を断るため、重たい足を引きずって映画館に向かった。
嫌なところで終わってしまっているので、
1時間半後ぐらいに続きを投稿します……!
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