【過去回2】子グマりこ②
過去回の続きです
間があいてしまってすみません……!
子グマの彼女を連れて、ショッピングモールにある広場へ移動した。
等間隔で置かれた丸テーブルは、暇そうにフラペチーノを飲むカップルや、マックを広げる家族連れなどで埋まっている。
中央に置かれた噴水を避けるようにして、そぞろ歩きをする人々の流れは尽きない。
「ここなら映画館の前より人の数が多いし、何よりこの広場の周辺にいる人々は目的もなくぶらついている人が大多数なんだ。暇な人のほうが、チラシに関心を持って受け取ってくれる可能性が高いんじゃないかな?」
『すごい……! 私、そんなことまで全然考えられてなかった……!』
両手を叩いてぴょんぴょん跳ねる子グマがかわいい。
「というわけで、チャレンジしてみよう」
『う、うん。緊張するな……』
「大丈夫。俺もいっしょに配るから」
『えっ』
「俺が声をかけるから、君は隣にいてチラシを差し出してみて。一般人が手伝ったってバレたらまずいかもだから、このことは秘密ね」
『……っ。は、はいっ……』
他者に対して全く物怖じすることのない俺は、少しでも彼女のためになればいいと思いながら、はりきって声をかけて回った。
最初は俺の後ろに隠れるようにしていた子グマは、合間合間に俺が「大丈夫」「ちゃんとできてるよ」と声をかけていたら、少しずつ前に出るようになり、最終的には声を貼って元気よくチラシを配れるまでになった。
――夢中でチラシを配り続けて二時間。
はじめる前には山ほどあるように感じていた紙の束を、すべて配り終えることができた。
俺たちは最初に言葉を交わした映画館の前に戻ってきた。
『あのっ、助けてくれてありがとう……! 本当にうれしかったです……!!』
「いや、俺たいしたことしてないよ」
『そんなことないよ……! ……私、昔から容姿やしゃべり方にコンプレックスがあって……それで人と接するのが苦手なの……。一人だったらあんなふうに知らない人に声をかけて、チラシを差し出すなんて絶対にできてなかった……。でも、あなたが隣にいて勇気をくれたから……怖いって言う気持ちを、またあなたが私の中から消してくれたの……』
またって……?
今日知り合ったばかりなのに、矛盾した言い方だ。
まあ、少し緊張しているようなしゃべり方だから、言い間違いのようなものだろう。
しゃべり方にコンプレックスがあるという言葉と繋がっているのかもしれないし、指摘するのはやめておいた。
「……でも、俺のおかげなんてことはないよ。途中からほとんど君が配ってたし、子供も集まってきて全然離れなくなっちゃっただろ」
元気よくちらしを配る子グマはあっという間に子供たちの人気者となったのだ。
子供たちに囲まれて、あわあわしている姿もかわいらしかった。
そのときのことを思い出して俺が笑顔になると、子グマは俺のことをじーっと見つめてきた。
着ぐるみの中の女の子の顔は相変わらず全く見えないのに、なぜかドキッとなる。
……いや、ドキッてなんだ、俺。
着ぐるみに見惚れる性癖なんてないぞ……ないよな……?
『……やっぱりあなたは何も変わらないね……。……その優しさも笑顔も……ほんとうにすき……』
着ぐるみの中で小さく呟かれた言葉が聞き取れない。
なんて言ったのと尋ねる前に、不意に彼女は両手をぐっと握りしめて、勇気を振り絞るような仕草を見せた。
『あっ、あのっ。私、来週の土曜までここでバイトをさせてもらっているのでっ、そのっ、あのっ』
「うん?」
『……も、もしよかったら……! 来週の土曜、もう一度会ってもらえませんか……!』
「もう一度会う? それは全然いいけれど……。でも、どうして?」
『そ、それは……、残りの一週間、あなたのくれた勇気でちゃんと頑張ってみせるので……、それができたら、そのときはこの着ぐるみを脱いで、あなたに伝えたいことがあるんですっ』
伝えたいこと……?
今はバイト中だし、着ぐるみの中身を晒したらまずいのはわかるけれど……。
こういう流れって普通……こ、告白とか……いやいや、今日初めて会ったばかりなのにそんなわけない……! ……ないよな……?
「それじゃあ私、映画館に戻るね……! ほんとにほんとにありがとう……!」
「あ、う、うん。がんばって」
何を伝えたいのか尋ね返すことはできないまま、彼女はトテトテと走り去っていった。
俺の心の中に、慣れないドキドキを残して――。
完結まで残り3話なので、毎日更新がんばります
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