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【書籍化】尽くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?  作者: 斧名田マニマニ
最終章 嫁の謎が解ける時

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【過去回1】子グマりこ

 ――三年前。


 とある土曜日のこと。

 俺は一週間に一回の楽しみのため、いつもどおり辻堂の映画館に向かった。

 ここのところ夜は冷え込み、秋の訪れを予感させることも増えたというのに、今日は朝から雲一つない晴天で、日陰にいてもじんわりと汗が浮いてきた。

 だから、涼しい映画館の中に入った瞬間、ホッとしたのを覚えている。


「……さてと、今日は何を見ようかな。……ん?」


 展示されているポスターの前に視線を向けた俺は、自分と同年代らしき一団がベテランらしき女性から説明を受けているのを目にした。

 全員、映画館スタッフの制服を着ているが、高校生のアルバイトには到底見えない。


 なんだろうと思ってしばらく眺めていると、彼らが職業体験として課外学習に来ている隣町の中学生たちだということがわかった。


 その時は、内申点を稼ぐためとはいえ大変だなぁなどと思いつつ、その場を後にしたのだけれど、映画を見終わってから、彼らの一人らしき人物と偶然にも関わることとなった。


 俺はちょうど映画館を出たところで、大量のチラシを抱えたまま途方に暮れている子グマと遭遇したのだ。

 正確には、クマの着ぐるみを着ためちゃくちゃ小柄な人物と。


 子グマは着ぐるみのせいで視界が狭くなっているのか、斜め後ろにいる俺の存在にはまったく気づかず、はぁっと重い溜息をついた。


『……困ったなぁ……。配ってって言われたチラシ、全然減らないよぉ……。着ぐるみらしい動きがなってないのかなぁ……。さっきは小さい女の子を怯えさせちゃったし……ううっ……』


 しょんぼりした女の子の声でそう呟き、子グマががっくりと項垂れる。

 そのシュールな絵面と、『着ぐるみらしい動き』という独特な表現がなんだかツボにハマってしまい、気づけば俺はくすっと笑い声を零していた。


 子グマは驚いたように俺を振り返り、挙動不審な、でも可愛らしい声をあげた。


『はっわわわあああ……ど、どうしてっ……』

「……?」


 そんなに驚くことかな?

 もしかしたら、着ぐるみを着ているときは喋っちゃいけないとでも言われているのかもしれない。


「笑ったりしてごめん。もしかして、職業体験に来てる中学生?」

『……! どうしてそれを……?』


 映画を見る前に自分が目撃したことを伝えると、子グマはさっき以上にそわそわしはじめた。


『……もしかして、その時私のこと見ましたか……!?』


 見たとはどういう意味だろう。

 着ぐるみの中身を知られちゃいけないってことかな……。


「後ろから眺めてただけだから、どんな子がいたかまではわかんないな」

『あ! そ、そうなんですね……』


 子グマは、ほっとしているとも、がっかりしているともとれる声を発した。

 表情が見れないからか、この子の思考がいまいち読めない。

 でも、それが嫌という感じは全然しなくて、むしろ興味をそそられた。


 それに、この子グマが悪い子ではないという気がしてならないのだ。

 声の感じからも彼女のおっとりとした性格は感じ取れるし、何よりチラシを配れないことに対してあんな真面目に落ち込んでいたのだから。


 何か俺に手助けできればいいんだけど。


「チラシ配りうまくいかなくて悩んでたの? もし迷惑じゃなかったら、相談乗るよ」

『えっ』

「俺、毎週ここのショッピングモールにくるから、どこら辺に暇な人が集まるとかなんとなくわかるし。よかったらそういう場所を一緒に回ってみない? ――あ、でもそんな勝手なことしたら君が怒られちゃうかな」

『い、いえ……! ショッピングモール内を歩いて回って、できるだけチラシを配ってきてほしいって言われてるので……。……でもあの、迷惑じゃ……』

「俺のことは気にしないで。暇人だし」

『………………ううっ。話せただけでも奇跡なのに、こんなことって……っ……』


 子グマが両手を頬に当てて身悶えている。

 ……なんでだろ。

 子グマの着ぐるみなのにかわいく見えてきた……?


「あの、奇跡って?」

『あっ……! な、なんでもないです……!』

「そう? じゃあさっそくいこっか」

『はいっ』

多分過去回はあと2話分続きます


感想欄は楽しい気持ちで利用してほしいので、

見る人や私が悲しくなるような書き込みはご遠慮ください( *´꒳`*)੭⁾⁾

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