再会
夏休みを直前に控えたある日の学校帰り。
俺は、夏期講座合宿のパンフレットをもらうため、とある塾を訪れた。
りことはすでに相談をしてあって、もし通う場合は二人で行こうということになっている。
ちなみに今日のりこは食料品の買い出しでスーパーに寄っているため、別行動だ。
ここ最近は、毎日りことふたりで帰っていたので、右手が手持ち無沙汰で変な感じがする。
まさか、彼女と手を繋いで帰宅することが当たり前になるなんて、未だに信じられない。
「ほんと人生って何が起こるかわからないな……」
甘えてくれるりこの可愛い表情を思い出し、微笑みながら塾を出たとき――。
「……湊人?」
すれ違いざま、女の子の声に下の名前を呼ばれた。
反射的に顔を上げた俺は、相手の顔を見た瞬間、凍り付いてしまった。
「……た、かみや……」
喉が引き攣って、上手く言葉を紡げない。
俺の手のひらの中には、冷たい汗が滲んでいる。
俺の名を呼んだ相手は、中学校の同級生である高宮凛だった。
ボーイッシュなショートカットだった髪が伸び、雰囲気が女性らしく変わっているが、見間違えようがない。
『――湊人、まさか勘違いしてないよね? ちょっと話したくらいで、意識するなんてありえなさすぎるでしょ』
『そうやってすぐ自分が好かれてるって勘違いする男って、だいぶキツイから』
『私は湊人のこと友達だと思ったことなんて一度もないから』
高宮から与えられた言葉の数々が脳裏を過る。
そう――。高宮は、俺が女子全般を怖がるようになった原因で、今でも時折夢に見ては、魘される相手なのだ。
だから、三年経って顔つきが大人っぽくなろうとも、一瞬で誰だかわかった。
「……っ」
なぜ高宮が俺の名を呼んだのか。
理由が思い当たらないまま、咄嗟に踵を返して立ち去ろうとしたら、信じられないことが起こった。
「待って、湊人……! 私、湊人にずっと謝りたかったの……!」
「……え」
混乱しながら恐る恐る振り返ると、高宮は真っ青な顔で俺を見つめていた。
「中三のときしてしまったこと、ごめんなさい……。あれからずっと後悔してたの」
「……」
俺に向かって深々と頭を下げる高宮を見下ろしたまま混乱する。
道行く人たちが、なんだなんだというように俺たちを振り返っていく。
「……あの、目立っちゃってるし、とりあえず顔あげて」
「うん、ごめん……」
ゆっくりと顔を上げた高宮は、今にも泣きだしそうな顔をしている。
俺の記憶の中にいる高宮は、いつだって気が強くて、こんな弱った表情を見せることなんて一度もなかった。
「湊人の通ってる高校まで何度も謝りに行こうとしたけど、どうしても勇気が出せなくて……。謝って許されることじゃないのはわかってるんだ……。でも、本当にごめんなさい……」
どう受け止めたらいいのかわからない。
なぜ高宮がそこまで後悔していたのだろう……。
たしかにあの時の高宮の言葉は、トラウマになるほど俺の心を抉ったけれど、高宮は本心を伝えたまでだ。
「湊人、このあと時間ある? ちゃんと話しておかなければいけないことがあるの。花江さんっていう女の子のことで」
「えっ」
なんで高宮から、りこの名前が出てくるんだ……!?
正直、高宮と一緒にいるだけで、息苦しさを覚えるが、りこのことが絡んでいるなら逃げ出すわけにはいかない。
「わかった。どこかで話をしよう」
俺は震え出しそうになる足に力を入れて、そう返事をした。
◇◇◇
――同時刻。
(――ふふっ、新鮮なトマトが買えてよかったぁ。今日はこれで湊人くんが好きなミートパイを作ろうっと。……湊人くん、まだ塾にいるかな。……ううっ、湊人くんのことを考えたら、顔が見たくなってきちゃった。さっき学校で別れたばかりなのになあ……。もしかしたら会えるかもしれないし、塾の前の道を通ってみようっと!)
いよいよりこの秘密とふたりの過去が明かされる章に到着しました~。
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