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【書籍化】尽くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?  作者: 斧名田マニマニ
9章 リベンジ、初デート!

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デートなので傍にいたいと甘えてくる嫁

 特別な日のデートにはサプライズがおすすめだと書いてあったので、今日の目的地はまだりこに告げていない。

 行き先に関しては、麻倉が色々と相談に乗ってくれ、その場所なら間違いないとお墨付きをくれたので、多分大丈夫なはずだ……。


 目的地までのルートは、百回以上確認してすべて暗記している。

 りこには、到着するまで行き先は秘密だと伝えた。

 するとりこは、「わあ、すごい! ワクワクしちゃうなあ」と言って、手を叩いて喜んでくれたのだった。

 その振る舞いがめちゃくちゃ愛らしくって、サプライズを採用してよかったと心底思えた。


 ふたりで家の外に出ると、空は青く澄み渡っていた。

 この感じだと梅雨が明けたのかもしれない。


 天候に恵まれて幸先は上々。


 俺はりこを連れて大船駅へ向かい、予定通り到着した電車に乗り込んだ。

 日曜日の車内は、平日に比べて空いているものの空席を探すのは困難だ。

 しかし、運よく隣の駅で目の前の客が下車し、正面の席が一つ空いた。


「りこ、座って」

「私は大丈夫だから、湊人くんどうぞ」

「えっ!? いやいや、りこどうぞ!」


 りこは困り顔で首を横に振る。


 雑誌には、とにかく女の子が疲れないよう気を遣ってあげることが大事だと書いてあったのに、予想外のことが起きて、内心かなり焦った。

 まずい。こういうパターンのときはどう立ち回ったらいいんだ。

 りこは俺の返事を待たずに、席を立ち上がろうとしている。


 こうなったら返事なんてなんだっていい。

 とにかく、りこを疲れさせないことを最優先させないと……!


「俺は立ってたい気分だから、りこは気にせず座ってて!」

「立ってたい気分?」


 りこはパチパチっと瞬きをした後、口元に手を当てて小さく笑った。


「ふふっ。私に席を譲ってくれようとしてるんでしょう?」


 ああ、もう……。

 あっさり意図を見破られてしまった。

 これじゃあますます優しいりこは遠慮してしまうだろう。

 案の定、りこはこんなことを言い出した。


「ねえ湊人くん、目的地まではどのぐらい?」

「えーっと……あと三十分ってところかな」

「そうしたら、半分まで行ったところで席を交代しよう?」

「それじゃあだめだ……」

「え?」


 俺が目の前に立っているせいで、りこは余計に気を遣うのだろう。


「俺、車両の奥のほうで寄りかかってるよ。りこはこのままここに座ってて」


 りこの両肩を遠慮がちな力で掴んで座らせる。

 ポッと赤くなったりこは、「こんなのずるい」と言いながら、俺を上目遣いで見上げてきた。


「降りる駅の前になったら声かけるから」

「……! 湊人くん……!」


 りこが焦ったような声で小さく叫んだが、俺は心を鬼にしてその場を後にした。

 このまま背を向けていれば目が合うこともないし、りこも俺に遠慮せず済むだろう。


 今日のりこ、いつにもましてかわいいから本当はずっと視界に入れてたいんだけど……。


 自分の願望より、りこを最優先させるのが正しいに決まっている。


 そのまま退屈な車内広告を見つめつつ、何日もかけて頭に叩き込んできたデートを成功させるうえでのルールを暗唱していると、次の駅で電車が止まった。


 パラパラ降りていく人と、パラパラ乗ってくる人。

 人の流れが落ち着き、電車の扉が閉まったとき――。


「湊人くん」


 耳に心地いい柔らかい声を聞いて、驚き振り返ると、少しむくれた顔をしたりこが真後ろに立っていた。

 りこがさっきまで座っていた席には、大きな荷物を抱えた女性の姿がある。


「席譲ってあげたの?」

「うん。だって湊人くんと一緒にいたかったから。もうっ、置いていっちゃうなんてひどいよ」

「ご、ごめん……」


 反射的に謝ると、りこはすぐ笑顔になった。


「はい、せっかくのデートだから傍にいようね」

「え? わっ!?」


 りこは手すりに捕まっていないほうの右手に、きゅうっとしがみついてきた。

 な、なななななにこのかわいい生き物……!


「湊人くんと三十分も離れ離れなのは悲しいよぉ」

「そ、そうだったの?」

「私、デートだから浮かれちゃってるみたい。それできっと、いつもより欲張りになっちゃってるんだと思うの。……湊人くんはこうやってくっつかれるの嫌? もしかして、電車に乗ってるときまで一緒にいたがるの迷惑だったかな……。湊人くんが嫌なら悲しいけど我慢します……」

「まさか! 嫌なんてことないよ……!」

「ほんと? 我慢してない?」

「してない! ほんと!」

「そっか……。よかった……」


 俺があわあわしている隣で、ぴたっとくっついたりこはうれしそうに瞳を細めた。


 先週、りこと一緒に手を繋いで電車に乗ったとき以上に距離が近いから、どうしようもなく胸が苦しい。

 もちろん先週もそうだし、春の遠足で満員電車に乗ったときもドキドキしっぱなしだったけれど、今回の幸福度は桁違いだ。


 やばい……。

 幸せ過ぎて何も考えられない……。

 電車の中でこんな密着してていいのかな……!?

 いや、でも腕を組むぐらいなら多分許されるはず……。

 ゆるされ……ゆるされ……だめだ、幸せ過ぎて脳みそがとけてる……!!


 幸福感に酔いしれてしまった俺が、落ち着きを取り戻すまで、三駅分かかった。

感想欄は楽しい気持ちで利用してほしいので、

見る人や私が悲しくなるような書き込みはご遠慮ください( *´꒳`*)੭⁾⁾


書籍版のイラストを掲載しているので、是非下まで見てください~!↓

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