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【書籍化】尽くしたがりなうちの嫁についてデレてもいいか?  作者: 斧名田マニマニ
9章 リベンジ、初デート!

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嫁を喜ばせるために

 週末にりことのデートを控えた金曜日。

 俺は、昼飯が終わると同時に、澤の前に山のような資料の束を置いた。


「……何これ?」


 学食のテーブルの前に広げられた資料を、澤が胡散臭そうに掴む。


「『神奈川デートマップ』『彼女が喜ぶデートプラン十選』『初デートで嫌われる行動を徹底解説!』『理想のデートで彼女を喜ばせよう』……いや、ほんとなにこれ?」

「実は澤に相談があって――」


 俺は、りこと同居していることを隠しつつ、電気屋デートの一件や、日曜日にそのときのリベンジをしたいと思っていることを澤に打ち明けた。

 澤は電気屋に行ったと聞いた辺りで表情を曇らせ、ハンバーガーのくだりでは頭を抱えてしまった。


「新山、おまえはほんっと女心をなんにもわかってないな……!」

「うっ……。それはそのとおりだと思う……」

「だーかーらー普段からもしもの時に備えて恋愛の勉強をしとけって言ったのに! デートって言ったら、遊園地、水族館、映画館に夜景だろ!」

「うん。俺が集めた資料にも、そういう目的地が多く載ってたよ」

「だろ?」

「ただ、一日で全部を回るのは無理があるし、どこかに絞りたいんだけど一体その中のどれが優勝なんだ? 何とか自分の力でりこを楽しませたいから、目的地や出かけた先での予定も俺に任せてほしいってお願いしてあるんだ。それで、ここ数日、ひたすらデートについて調べてるんだけど、どこに連れていったらりこが一番喜ぶかがわからないんだ。そもそも、遊園地と映画館って雰囲気もやることも全然違うだろ。となると、どっちでもいいってわけじゃないだろうし……。それで澤の意見を聞きたいんだ。澤はどう思う?」

「えっ、えーと、そ、それは……」


 突然、澤の勢いが落ちる。

 俺は若干不安になりながら、さらに問いかけた。


「目的地もそうなんだけど、その場で取るべき行動は載ってる雑誌によって全然違ったりするんだ。積極的にリードしたほうがいいって書いてあったと思えば、ガツガツ行くと引かれるって言葉があったり。手ぐらい繋がなかったら女の子はがっかりするって意見もあったけど、距離感を勘違いするなって注意もされてた。俺はいったいどうやって見極めたらいいんだろ……。資料を漁るほどわけがわかんなくなってきて、迷路に迷い込んだ気分だよ……」

「言われてみればおまえ目の下のクマがすごいな。もしかして、おまえ、全然眠れてないのか……?」


 俺は力なく笑い返すことしかできなかった。


「なあ、新山。そもそもこの話、俺らふたりで相談してても正解に辿り着ける気がしなくない? ただでさえ女心がわからないうえ、りこ姫の好みも把握できてないから」

「たしかに……」

「こういうのは、りこ姫が仲良くしてる同性に尋ねるのが一番だよ」


 澤の言うとおりだ。


「よし。ちょっと麻倉に相談してみるよ」


 りこがクラスで一番親しくしている麻倉なら、相談相手として打ってつけだろう。


「はっ!? 本気で……!? いや、たしかに麻倉だったら俺よりずっと頼りになると思うけど、……陽キャ女子に話しかけるのって怖くない?」


 もちろん怖い。

 遠足の時に関わったとはいえ、それっきり麻倉とは喋っていないし。

 そもそも俺は女子全般に根強い苦手意識を持っている。


「それでも努力するって決めたから。今までのように弱い自分に負けてるわけにはいかないんだ」

「新山……。おまえ変わったな……」

「えっ。ほんとに?」


 変わりたいと望んで頑張っているところだから、つい前のめりになって尋ねてしまった。


「お、おうっ。前はもっと何に対しても消極的だったじゃん? そもそも俺に相談してきたのだって初めてだし。りこ姫のことちゃんと大事にしてるんだな。応援してるから頑張れよ」

「そっか。ありがとう、澤。今の言葉で背中を押してもらえた気がする。俺、麻倉を探しにいってくるよ!」

「返り討ちにあったら慰めてやるから」

「うん、よろしく!」


◇◇◇


 残念ながら昼休み中、麻倉はりこにべったりで、りこに隠れてひそかに近づく隙など微塵もなかった。

 けれど、運よく五限の終わりにチャンスがやってきた。

 その日の当番であるりこが、六限で使う教材を運ぶため教室を出ていったのだ。


 このチャンスを逃すわけにはいかないから、急いで麻倉の席を目指す。

 麻倉は自分の前に現れた俺を見て、意外そうに片眉を上げた。


 まずい。目の前にした麻倉は想像以上に迫力がある。

 一緒に遠足の班を組んだことが幻だったのかと思えるほど緊張してきた。


「なに? なんか用?」


 ぶんぶんと首を縦に振るのだけで精一杯だ。


 って、そんな情けないことは言っていられない。

 勇気を出すんだ……!


「あ、あのっ! 麻倉と二人だけで話したいことがあるから、少しだけ時間をもらえないかな……!」

「二人だけで? ふうん。じゃあついてきて」


 麻倉に呼ばれて、二人で廊下へ出る。

 そのまま階段を上って、四階と屋上の間にある踊り場へ向かった。


「それで? こっそり呼び出すなんてどうしたの? 聞かれたら困る話があるんでしょ?」


 女子とふたりきりだってだけでも体が強張るのに、麻倉は興味津々という顔で俺の瞳を覗き込んできた。


「黙ってたらわかんないよ。ほらほら早く説明して」


 たじたじしまくる俺をからかうように、麻倉が距離を詰めてくる。

 やばい、やっぱりりこ以外の女子は怖すぎる……!

 俺は悲鳴をあげそうになりながら、慌てて身を引いた。

 と、とにかく目的を伝えなければ!!


「お、おおおれりことのデートをなんとか成功させたくて! そのために麻倉の力を貸してもらえないかな!?」

「りことデート?」

「そう……!」


 俺は澤にしたのと同じ説明を麻倉にも聞かせた。

 澤とは違って、麻倉は話が進むほど面白がるような表情になっていった。


「あはは、そっかそっかそんなことがあったんだー! なんでそのデートを失敗だと思ってるか理解できないけど、まあとりあえずデートでりこを喜ばせたいって気持ちはよくわかったよ」


 麻倉は明るい笑い声を立てると、「青春してんねー」と言って、俺の肩をぽんぽん叩いた。

 若干おっさん臭さを感じる振る舞いだが、さっきまでの態度よりずっと安心できる。


「実はねー、りこがいないところで声をかけてきたから、二股野郎なのかと思って探ってみたわけ。でも、新山くんが誠実な人でよかったよ。これなら安心してりこを任せておけるわ」

「二股!? ありえないよ……!」


 りこのことでいっぱいな俺の心に、他の人が入り込む余地なんて微塵もない。

 そもそも二股をするほど器用じゃないし、りこ以外の女子は相変わらず恐怖の対象でしかないのだから。

 俺が素っ頓狂な声で全否定したら、麻倉はますます機嫌のいい顔つきになった。


「てかでもさー、そんなの計画なんて立てる必要ないじゃん。新山くんはりこを楽しませてあげたいって考えてるんでしょ? だったらその気持ちのまま振舞えばいいだけだよ」

「どうやったら楽しんでくれるか本当にわかんないんだ。そんな気持ちで行動しても空回りするだけじゃないか……?」

「えー? それならそれでいいじゃん。自分のためにがんばってくれてるんだから、たとえ的外れでも愛しく思えちゃうものだよ」


 自分が失敗しまくって、またデートを台無しにする未来しか見えない。

 青ざめて黙り込んでいると、麻倉はやれやれというように溜息を吐いた。


「しょうがないな。一応テンプレ的な模範解答を何パターンか教えておいてあげるよ」

「……! ありがとう、麻倉! 恩に着るよ……!」


 それから麻倉がいくつかの助言を与えてくれた。


「――なるほど。これなら目的も、その場で行動も問題なく計画できそうだ。本当に助かったよ」


 トラウマができて以来、りこ以外の女子と話すのはこれが初めてのことだったから、めちゃくちゃ勇気がいたけれど、やっぱり麻倉に相談してよかった。


「それにしても新山くんったら健気だよね。彼女のためにここまで一生懸命になってくれる彼氏ってレアだよ。りこが知ったら間違いなく感動して泣くわ」

「あっ、りこには黙ってて……!」


 りこは優しいから喜んでくれるとは思うけれど、さすがに泣くっていうのは言い過ぎだろう。


「でも、ほんとに計画なんて練らなくていいんだけどね。ありのままの新山くんで接して、本心をストレートに伝えるのが一番だから。何をやってもだめで困り果てたら、私のこの言葉を思い出しなよ」


 麻倉は素の俺が、デート相手としてどれだけ無能かを知らないから、こんなことを言うのだろう。

 とはいえ頼りになる麻倉の助言だから、俺はその言葉を心の片隅に留めておくことにした。


◇◇◇


 それから数日が経ち――。

 ついに約束の日曜日がやってきた。


「湊人くん、支度してみたんだけど、この格好どうかな?」


 そういって俺の前に現れたりこは、比喩でもなんでもなく完璧に妖精だった。


「……っ」


 膝上丈の白ワンピースは、裾がひらひらしていて、りこが動くたびに柔らかく揺れる。

 清楚な印象を与えるそのワンピースは、まるでりこのために特別に用意されたのではないかと思うほど、よく似合っていた。

 髪の毛は、サイドが編み込みになっていて、小花の髪飾りが付けられている。

 普段と違う髪型が新鮮だし、今日のデートをより特別に思えた。


「やばい……。めちゃくちゃかわいい……」


 気づいたら、言葉が勝手に零れ落ちていた。

 あっと思い、慌てて手を口に当てるけれどもう遅い。

 

 どうしよう。

 今の気持ち悪かったかな……!?


 焦りながらりこに視線を向けると――。

 りこは、小花の髪飾りも白いレースのワンピースも霞んでしまうほどかわいらしい顔で、恥ずかしそうに笑っていたのだった。

感想欄は楽しい気持ちで利用してほしいので、

見る人や私が悲しくなるような書き込みはご遠慮ください( *´꒳`*)੭⁾⁾


書籍版のイラストを掲載しているので、是非下まで見てください~!↓

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