高校生カップルの正しい過ごし方(休日編)⑥
「……あのさ、りこさえよければ……初デートのリベンジをさせてもらえないかな!?」
「えっ」
「りこは今日のこと楽しかったって言ってくれたけど、やっぱり俺はもっとちゃんとしたところに連れていってあげたくて……。だ、だって初デートって、 たった一度しか経験できないことだから」
次こそりこを楽しませるために全力で頑張りたい。
そんな気持ちを込めて「お願いします!」と言ったら、りこは目を真ん丸にしたまま動かなくなってしまった。
驚かれるのも当然だ。
今までの俺からは想像もつかないような行動だし。
俺自身正直恥ずかしすぎて、この場から逃げ出したい気持ちで一杯だった。
でも、りこに好きになってもらうためには、こうやって勇気を出して真っ当な男になれるよう努力していくしかない。
「初デートのリベンジ……。それじゃあ今度は私一人の思い込みじゃなくて、本当の初デートができるの……?」
「う、うん」
なぜか夢を見ているかのような口調で問いかけてきたりこは、俺の返事を聞くと「わああっ」と呻いて、 握りっぱなしだった俺の手をぎゅむぎゅむしてきた。
謎の行動だが、とにかく底なしに可愛い。
「湊人くん、初デートのリベンジ、是非お願いします……!」
「……! いいの?」
「もちろんだよ!」
ほっとしたのとうれしいのとで、 膝が震えてしまう。
「日付けはいつにしようか? 俺は来週末の日曜がバイトの休みだけど、りこの都合はどうかな?」
「私も大丈夫! スケジュールアプリに予定を入れておくね」
りこはニコニコしながらスマホを取り出すと、画面を優しくタップして日曜日の枠の中にハートのスタンプを追加した。
何気なく画面を見てしまった俺は、今日の日付けのところにも同じハートのスタンプが押されているのに気づいた。
「そのハートって……」
「あ! こ、これはその……」
りこが恥ずかしそうに指先をこすり合わせる。
「生まれて初めてのデートだから……浮かれちゃったの……」
「……!? りこもデートしたことなかったの?」
りこが不思議そうな顔で 「あるわけないよぉ」と言う。
……うわぁ。
そっか。そうだったのか……。
はっきり言ってめちゃくちゃうれしい。
でも初めてのデートだというのならなおさら家電量販店で済ませるわけにはいかない。
初デートのリベンジをお願いして本当によかった。
……俺とのデートの日にハートマークを付けてくれたのは、りこも少しは楽しみにしてくれてるってことかな?
もしそうだったなら……りこの気持ちを裏切らないよう、何がなんでも日曜日のデートは成功させなければならない。
俺が心の中で密かにそんな決意を固めていると、不意にりこが俺の指先をきゅっと握ってきた。
「実はね、 最近ずっと湊人くんをデートに誘いたいって思ってたの」
「え!?」
俺は目を見開いた。
「ど、どうして?」
「私たち付き合ってることにしたでしょう? だから、もう人目を気にしないで一緒にお出掛けできるなあって思って……」
りこの頬が見る見る赤くなっていく。
「湊人くんが渡してくれたシフト表のおかげで、今週と来週の週末はお休みだって知っていたから、勇気を出してみようと思ったんだけど、私ったらいくじなしで……」
俺のシフトを入力したカレンダーアプリを見ながら、今日こそ誘おうと思いながら声を掛けられずにいたのだという。
りこがやたらカレンダーアプリを起動していたのはそういう理由からだったのか。
「りこ、なんでそこまでデートしたいと思ってくれたの?」
りこは何かを悩んでいる様子で数秒間視線を彷徨わせたあと、微かに笑って言った。
「……デートに憧れていたからだよ」
今までもりこは度々、結婚や恋愛に対する想いを口にしていたから、なるほどと納得する。
りこの笑い方が普段と違ってどことなく寂しげだったことが少しの違和感を残したが、まさか俺を好きだからデートしたいと思ったなんて考えは、微塵もよぎらなかった。
とにかく大事なのは、どんな理由であれりこが俺とのデートを望んでくれていたことだ。
その奇跡のような糸を手繰り寄せ、りこの好意ポイントをなんとか稼ぎたい。
日曜日の初デートリベンジは、負けられない戦いになるだろう。
日曜日のデートに気を取られていた俺は、その前にとあるイベントが存在していることにまったく気づいていなかった。
七月七日--、七夕。
離れ離れになってしまった想い人同士が再会する日。
俺は、りこと俺も特別な再会を果たしていたのだと知ることになるのだった。
七章はこれにて終了です。
地味デートでも喜んでくれるりこちゃんと、貢ぎたがるりこちゃんと、夫婦且つ恋人っぽくなっていく二人を書きたくて入れた章でした。
次回の更新は来週頭くらいになりそうです。
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