嫁の優しさと気遣い
大変お待たせいたしました、更新再開します……!
まだ仕事がバタバタしてるので、9月は週1~週2の更新になる予定です。
また本編のあとに重大な発表があります……!
りこと俺が恋人同士だと宣言した翌日から三日間、鎌倉市には静かな雨が降り続け、関東地方は例年より遅い梅雨入りを果たした。
じめじめしている梅雨を苦手な人は多いと思う。
俺ももちろんそう感じてきた。
ところが今年の梅雨はなぜだかいつもの梅雨とは違う。
不快感を覚える回数は圧倒的に少なく、不思議と過ごしやすいのだ。
その事実に気づいたのは、梅雨入りから一週間も経った夜のことだった。
バイト帰り、じめじめと降る雨から逃げるように帰宅した俺は、りこの開けてくれた玄関に入った瞬間、周囲の気配がふわっと軽くなるのを感じた。
「ん?」
なんだろう?
纏わりつくような重さが消えた?
「湊人くん? どうしたの?」
「……! ううん、なんでもない」
自分の感じた違和感の正体がわからなかったので、慌てて首を横に振る。
りこは少し不思議そうに小首を傾げてから、廊下を行く俺のあとをパタパタついてきた。
今日もおいしそうな料理の香りが漂うリビングに入った俺は、ダイニングテーブルの上に置きっぱなしにされたスマホに目を止めた。
多分、俺を出迎える直前までりこが触っていたのだろう。
スマホの画面はまだ点灯したまま、そこにはカレンダーアプリが表示されている。
あれっ。
りこ、またカレンダーを見てたのか。
なぜか最近のりこは暇さえあれば、スマホのカレンダーアプリを確認している。
もちろん覗き込んでいるわけじゃない。
でも、たまたまりこのスマホが視界に入ると、画面には必ずカレンダーが表示されているのだ。
何か大事な予定でもあるのかな。
そんなことを考えながらりこを見ると、窓際に立った彼女はカーテンをめくって外の様子を確認していた。
「さっき天気予報で言ってたんだけど、明日もこのまま雨みたい」
そう言って、俺のほうを笑顔で振り返る。
「じゃあ明日の体育は、男女とも体育館集合かな」
「それならうれしいな」
「うれしい?」
「うん。だって、男女合同になるのって雨の時ぐらいだから。久しぶりに体育の授業を受ける湊人くんが見られるんだもん」
「ええっ……!?」
りこがとんでもないこと口にするから、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「俺なんてスポーツで活躍するタイプでもないし、見る価値ないよ!?」
「そんなことないよお。湊人くんのことは、何をしている時だっていつまでも見てられるよ?」
「……!?」
照れくさそうにりこが目を伏せる。
俺はその発言をどう受け取ればいいんだ!?
まごついて返事に詰まっていると、りこは少し眉を下げてから、さりげなく話題を変えてくれた。
「雨なのはいいけど、風がやんじゃったのは困ったな……」
再び窓の外に視線を向けて、溜息交じりにりこが呟く。
「風が止むと何か問題あるの?」
「うん……」
しょんぼりしたりこは、窓を閉めて俺の傍へやってきた。
「あのね、もし問題なかったら、リビングにひとつ電化製品を増やしてもいいかな?」
遠慮がちにりこが尋ねてくる。
「もちろん! てか、俺に確認なんて取らなくていいよ。ここはりこの家でもあるんだから」
「……! ……うん。そうだね。湊人くんと私、二人の家なんだよね。ふふっ」
ほおをポッと赤らめたりこが、うれしそうに目を細める。
なぜりこが赤くなったのかわからないまま、その表情に見惚れる。
「湊人くん?」
「あっ、ごめん! ぼーっとしてた! あの、りこが増やしたい電化製品って?」
「えっとね、サーキュレーターが欲しくて」
「サーキュレーターって、あの扇風機みたいなやつ?」
「そう! でも扇風機と違って、真っ直ぐ風を発生させてくれるから、部屋の空気を循環しやすいの。風があるときは窓を開けるだけでも部屋の湿度を下げられるけれど、今みたいに風が止んじゃうと難しくって……。そんなときにサーキュレーターがあるといいなあって前から思ってたんだ」
その話を聞いて、俺は「あっ」と声を上げた。
今年の梅雨はいつもより過ごしやすいと感じていたこと。
今日、玄関に入ったときに覚えた感覚の正体ーー。
「もしかして、りこ……リビング以外でも湿気対策してくれてる? たとえば玄関とか……。その、今日帰ってきたときに思ったんだ。この家の中は空気が軽く感じるって言うか、心地良いなって……」
俺が問いかけると、りこはこくりと頷いた。
「ふふ、実はね」
楽しそうに手招きするりこを追って、再び玄関に向かう。
「ここに秘密グッズを隠してるのです」
ちょっと得意げな顔をして、下駄箱の陰からりこがプラスティックケースを引っ張り出す。
その中には丸めた新聞紙と、竹炭が入っていた。
「新聞紙や竹炭には湿気を吸収してくれる効果があるんだ。だから、このセットを家の中でも湿気がたまりやすい場所に設置してみたの。ここ以外だと、シンクの下とか、クローゼットの中とか……」
「……! まったく気づかなかった……!」
たしかによくよく思い出せばリビングや玄関だけじゃない。
キッチンや脱衣所にいるときも、例年の梅雨時のようなジメジメとした不快感を覚えなかった。
それに眠るときの寝苦しさとも今年は無縁だ。
「このセットがあるから、布団も湿気で重くならないの?」
「あ、お布団の下には除湿マットっていうのを敷いているの」
どうやら俺の知らない間に、りこは色んな方法で過ごしやすい環境を整えてくれていたようだ。
「りこ、ごめん。気づくのが遅くて。それと、ありがとう。今年の梅雨は全然違うわけだ」
「ほんと? よかったぁ。梅雨の間、少しでも湊人くんが気分よく過ごせるといいなって思ったの」
「……っ」
りこの健気すぎる気遣いに、俺が感動したのは言うまでもない。
「梅雨って苦手だったけど、りこのおかげで好きになれそうだよ」
本気でそう思ったのに、言葉にしたらやたらと大げさに響いて恥ずかしくなる。
でも、りこが花のような笑顔を見せてくれたから後悔はしていない。
「あ、てかリビングの梅雨対策のためにサーキュレーターが必要なら、俺が買うよ」
扇風機と同じぐらいの金額なら高くても二万ぐらいだろう。
それなら俺のバイト代でもなんとかなる。
ところがりこは承諾してくれなかった。
「お金のことは心配しないで。私が買うから、ね?」
「いや、でもそういうわけには……」
「こういう時のためにちゃんと用意してあるの」
りこは少し胸を張ると、心臓の辺りをトンと叩いてみせた。
うっ、かわいいな……!
ってそうじゃなくて……。
「用意って?」
「ちょっと待っててね!」
廊下をパタパタと走っていくりこを見守っていると、彼女は自室の中に消えていった。
待つこと一、二分。
俺のところへ戻ってきたりこの手には、なぜか通帳が握られている。
「お待たせ! 湊人くん、これ見て」
「……?」
戸惑いつつ差し出された通帳を受け取る。
りこに促されてページをめくった俺は、印刷された数字を見た瞬間、突拍子もない声を上げてしまった。
「なっ、なにこの大金……!?」
そこには俺が見たこともないような桁の金額が並んでいたのだ。
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