二人の夜④
悔しいことに、めちゃくちゃ動揺していてもりこの手料理は今日も驚くほど美味しくて……。
たとえ味がいまいちだったとしても、りこが一生懸命作ってくれた手料理だから残すなんて選択肢俺の中には皆無なのだけれど、今日も食卓に載ったものをすべて平らげてしまった。
多分時間差で、俺はものすごい精力と戦うことになるのだろう……。
りこによる謎の攻撃は、信じられないことにそれだけでは終わらなかった。
とりあえず落ち着こう。
そう思って、りこと入れ違いで風呂に向かうと、バスルームの中は『THE 女の子』という感じの甘くておいしそうないい匂いであふれ返っていた。
思わず視線を落としたとき、視界の端に、夕食前リビングで見た箱と同じ模様のシールがはられたガラス瓶を見つけた。
「……そうか。りこが言ってたおニューのバスグッズの匂いか」
それにしても、これはやばすぎる。
りこが今この場にいるような錯覚を起こしそうなほど、たしかな存在感があって、ごくりと唾を呑む。
「だ、だめだ! ここに長くいたらおかしくなる……!」
無心、無心と唱えながら、できるだけ急いでシャワーを浴び、逃げるように風呂を後にする。
ほんと今日、どうなってるんだよ……。
フラフラとよろけながら、リビングに向かう。
扉を開けると、リビングの中にも微かにあのいい匂いが漂っていた。
でもそれよりも……。
「うっ……」
俺が風呂に入っている間に、気を遣ってくれたのだろう。
リビングにはすでにりこの手で、布団が二組敷かれていた。
ぴったりと隙間なく並んで――。
ピンク色のかわいい掛布団の上にちょこんと座っているりこが、俺を見上げて照れくさそうに笑う。
「湊人くん、今日の夜はよろしくお願いします。えへへ……」
「……くっ」
だめだ……っ。
俺が誇る鉄壁の理性でも勝てる気がしない。
だってこんな、ゴリゴリ精神力を削る攻撃を怒涛の勢いで放ってくるんだぞ。
壮絶にかわいいにちょっぴりエロいを混ぜたりしていいわけがない!
童貞なんて瞬殺されるに決まってる!
……ってエロいだの、童貞だの考えたせいで、ますますやばいことになってきた。
「ああ、もう……りこは俺をどうしたいわけ……」
敷かれた布団の上に頽れた俺は、全面降伏するつもりで情けない本音を漏らした。
「湊人くん……!?」
いきなり俺が奇行に出たので、びっくりしたのだろう。
りこが布団の上をすり足で寄ってきた。
甘い花の匂いがふわっと香る。
くらくらしてきた。
ドッドッドッドッとやばいくらい心音が速い。
これ、あれなんじゃないか。
俺の理性が夕飯の食材たちに攻撃されてる音だろ。
可哀そうに。
俺の理性はボロボロだ。
はぁ……。
桃色の苦しみが襲い掛かってきて息苦しい。
頭の中が春。いやもう常夏。違う。それは体のほうだ。
状況に動揺しすぎて、思考の流れも危うくなってきた。
……なんかもう、このままりこに触れてもいいんじゃないの?
って、いいわけあるか!!
もう、わけがわからない。
「湊人くん、今の質問って……」
何でもないと言えば、いつも通りの俺たちに戻れる。
でもさすがにもう無理だった。
りこが何を考えているのか俺は知りたい。
「今日の晩御飯なんだけど」
「うん」
「俺の勘違いだったらごめん。でも……使ってた食材、せ、精力増量の効果があるやつじゃなかった?」
りこの顔が一瞬で真っ赤になる。
恥ずかしそうに伏し目がちになって、唇をきゅっと噛みしめている。
予想外のことを言われた驚きというより、隠していたことを指摘されてしまったという表情に見えた。
「……バレちゃった?」
「……っ」
そんな……。
絶句した俺の顔も多分、ゆでだこのようになっているはずだ。
「な、なんで……?」
「うう……。言わないとだめ……?」
「……言って」
絞り出した声でそう伝える。
相変わらず恥ずかしそうにしているりこは、俺の視線から逃げたまま言った。
「……湊人くんに、ムラムラして欲しかったの……」
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