二人の夜①
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雷が苦手で、一人で眠れないりこ。
寝ぼけながら俺のベッドに潜り込んだり、俺を自分の寝室に引き留めたり。
そんな事故を二度ほど経験した後、俺たちは話し合ってこういうルールを作った。
――雷雨の夜は、リビングに布団を並べて二人で寝る。
りこが不安なら、りこの恐怖を少しでも拭えるなら。
そう思って勢いのまま一緒に寝ることを提案すると、りこは喜んでそうして欲しいと言ってきた。
よっぽど雷が怖かったのだろう。
そんなふうに喜ばれてしまったので、後には引けなかった。
でも、大丈夫。
りこと暮らしはじめて、俺は少しずつ自分の理性がどれだけ強靭なのかを知ってきた。
今回も奴は俺とりこの信頼を裏切らないでいてくれるだろう。
据え膳食わぬは男の恥なんていう古の思考はもう流行らないのだ。
俺は安全で頼りになる男として、少しでもりこにとって価値ある存在になりたい。
そんなふうに俺が覚悟を固めたというのに、それからずっと鎌倉の空の上は平和そのものだった。
雨が降っても、雷が鳴り響くことはない。
春の嵐が訪れる季節はいつの間にか通り過ぎて、季節は初夏に向かっているのだろう。
なんて油断していたので、その日の朝、テレビの天気予報を聞いた瞬間、俺はブーッとお茶を拭いてしまった。
「わあ! 大変、湊人くん……! 拭くからじっとしててね」
りこはきれいな布巾を持って駆け寄ってくると、俺の粗相のあとを丁寧な手つきで拭いてくれた。
「ご、ごめん」
「――うん。制服はほとんど濡れなかったみたい。勢いがバッチリだったからだね!」
真面目な顔で感心されて恥ずかしさが増す。
「それより、りこ。大変。天気予報がほら!」
「え?」
俺が指さしたテレビの画面をりこが振り返る。
神奈川県東部の夜の予報。
雷を伴う強い雨――。
「……! か、雷……。わあ……えっと」
「あれ? りこ、なんかうれしそうじゃないか?」
「えっ!? ち、違うよ!? 喜んでなんかないよ!?」
「雷怖いんだよね?」
「うん……。でも一瞬、雷が怖いこと忘れちゃって……」
「……?」
「あ、あのっ……前に湊人くんが言ってくれたこと……本当にお願いしてもいいのかな……」
一緒に寝ることを言ってるのはわかる。
でも、俺もりこも直接的な言葉を使うのが照れくさくて、濁しながらでしか会話ができなかった。
「うん……。あれだよね。わかってる。前も言ったとおり、りこさえよければ俺は全然問題ないから……」
「それじゃあ、よろしくお願いします……っ」
「こちらこそ……!」
ぎこちなく頭を下げ合う。
当然この日、学校ではまったく授業に集中できなかった。
「なあ、湊人。おまえ今日いつも以上にぼーっとしてない?」
「……え。なに?」
上の空だった俺が慌てて聞き返すと、澤はやれやれというように肩を竦めた。
「授業とっくに終わってるぞ」
「お、おう」
机の上に出ていた教科書を片付ける俺を見下ろして、澤がわざとらしいため息を吐く。
「最近の湊人、ぼんやりしてること多いよな」
「そうか?」
「それって花江さんのことを考えるので頭がいっぱいだから?」
突然りこの名前を出されて、ぎょっとした。
「な、なに? 花江さんって……突然、何言ってんだよ」
「そんな露骨に動揺して誤魔化せてるつもり? 俺はお前に隠し事されて悲しいよ。親友だと思ってたのにさあ」
隠し事。
そう言われて、俺はますます慌てた。
……澤、一体どこまで知ってるんだ……。
「まあ、わからなくないよ。あんなかわいい子に好かれて悪い気がする男なんているわけないし」
……は?
「ま、待って。なんだって? 好かれて……?」
「だーかーらー、しらばっくれるのやめろって」
「いや、ほんとうにわかんないんだって」
俺が真顔でそう言うと、にやにや笑っていた澤もさすがに笑いを引っ込めた。
俺は改めて聞き直す。
「誰が誰を好きだって……?」
「だから、りこ姫がおまえのことを」
「はぁああ……っ!?」
クラスでは騒がず、目立たず。
そう生きてきた俺でもさすがに叫ばずにはいられなかった。
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