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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
第四章

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取り持つ小鳥

婆様ばあさま! 何を仰るかと思えば……! 俺はこの者たちと決着けりをつけようと……誇り高き翼人ウイングマンに後退の二字は無いと教えてくれたのは、他でもない貴女で……!」


 一方、小鳥の提案を耳にしたルドは目を見開き、どうやら血縁関係にあるらしく婆様ばあさまと呼びつつ、部下とは違い立ったままの姿勢で主張せんとした。


『この痴れ者が! 自分から不必要な諍いを起こしておいて……なんだいその言い草は! 漸く目上の者を敬える様になって、あたしもあんたの両親も頭領を任せられると判断してその座に就かせたっていうのに……あたしらの目が曇っていたのかねぇ!?』

「い、いやそれは……」


 だが、言い訳がましくのたまうルドを見た小鳥は、バサッと小さな翼を広げて玉の様に小さな瞳を輝かせ、遥かに高い位置にあるルドの顔を見上げながら叱責した事で、彼は極めてバツが悪そうに自分を怒鳴りつけるその小鳥から目を逸らす。


「ねぇ、お説教中のところ申し訳無いのだけど……」


 そんな折、二人の会話に割って入ったハピがそう声をかけると、うん? と小鳥が反応してみせた。


『あぁすまないねぇ、鳥人ハーピィのお嬢さん。 自己紹介もまだだったね? 先々代頭領、スピナ=ガルダだよ。 この戯け者の祖母にあたる翼人ウイングマンさね。 宜しく頼むよ』


 その小さな身体でぺこっと頭を下げる様な動作を見せて、彼女……スピナは甲高い声で名乗りを上げる。


「……私はハピ。 まぁ仲間は後で紹介するとして……先々代頭領の貴女がわざわざ手打ちを求める理由を聞きたいのだけど、話してくれるのよね?」


 するとハピはご丁寧にどうもと礼を返して、ルドと同じく立ったままスピナを見下ろし問いかけた。


 ……腹に据えかねているこの怒りを何処にぶつけるべきかと、脳内で思案しながら。


『そう難しい話ではないよ。 こんな戯けでも翼人ウイングマンの未来を背負う頭領で……何よりあたしの孫だからね。 負う必要の無い怪我はしてほしくないのさ』


 彼女は片方の翼をルドに向け、心なしか慈愛に満ちた表情を浮かべつつハピを一心に見上げている。


「……婆様ばあさま。 貴女の言い方だとまるで……俺がこの者たちに敗北する様ではないですか?」

『……そう、言ったんだ。 ちゃんと聞き取れてるみたいで何よりだよ』


 それに待ったをかけたのは当のルドであり、ギロリと鋭い視線を地面に立つ小鳥に向け、静かな声音で問いかけるも、スピナは何を今更という様に、ひゅいっと一風変わった溜息をついて彼に視線だけを移した。


「っ! そんな筈はない! 現に俺は親父にも一対一サシで勝利したんだ! こんな雌どもに劣る訳が……!」


 そんな祖母の態度が癇に障ったのか、自分の力はとっくに父親をも超越しているのだと主張しつつ、鋭利な爪をビシッと望子たちに向けるやいなや──。


「あぁ? やんのかコラ」

「上等だよ、へいへーい!」

「全く、蛮勇であるなぁ」


 ウルは彼を威圧し、フィンは手をくいっとやって挑発し、ローアはやれやれといった様に溜息をつく。


「み、みんな、だめだよそういうこといっちゃ」


 ……望子だけは、彼女たちを諫めようとあわあわしながらもそう口にしていたのだが。


『……だからあんたは戯け者だと言うんだよ。 これから戦おうって相手の力量を測る事もしない……いや出来ないの間違いかね。 言っておくけれど、あんたはこの娘たちの誰一人にも勝てないよ。 亜人族デミ三人は勿論の事、人族ヒューマンのお嬢ちゃん二人にもね』


 孫の言い草に呆れたスピナは、望子たちに視線を向け一瞬その小さな瞳を光らせたかと思うと、軽く羽繕いをしながらルドを諭してみせる。


「なっ……! あんたの方が余程……戯けた事を言ってるじゃないか! あんな小娘どもにまで俺が……!」


 それを聞いたルドはクワッと目を見開き、高い位置から祖母に指を差して叫ぶと、小娘には違いない望子は自分の事だと思いビクッとし、もう片方の小娘であるローアは心底余裕そうにくははと笑っていた。


「とっ、頭領! 相手は、スピナ様で……」

「黙れ! ここまで虚仮にされておめおめと引き下がるなど……俺にも翼人ウイングマンとしての誇りというものが──」


 流石にこの物言いはまずいと判断したのか、これまで沈黙を貫いていたアレッタがルドのこれ以上の狼藉を止めようとしたのだが、ルドは彼女の制止を遮る様に叫び放ち、アレッタをギロリと睨みつけた後、再び望子たちを害そうと爪に魔力を集めようとする。


 ……その瞬間、ルドが集めていた風の魔力よりも更に強く洗練された逆回転の風が彼の周りを渦巻いたかと思えば、ルドの魔力は一瞬で掻き消されてしまう。


「っな、あ……!?」

『……いい加減におし。 あんたのそれは単なる馬鹿げた自尊心さね。 あたしをこれ以上怒らせないでおくれ、自分の手で孫を葬るなんてあたしはしたくないんだよ……分かったら、この子たちに謝罪しな』


 先程、彼を怒鳴りつけた時とは全く異なる冷ややかな怒声で語りかけたスピナに、これだけの体格差があってもなお怯えてしまっていたルドは──。


「ぐ、ぅ……わ、分かった、分かったよ……お前たち……あ、あぁいや、貴女方には大変な迷惑をかけてしまい……本当に、すまなかった……」


 反省しているのかしていないのか、お前たちと言おうとした途端スピナから威圧する様な魔力が放たれた事に驚き、即座に言い直してハピたちに謝罪し、それに続いて二人の部下も深く深く頭を下げた。


「まぁ、あたしは別に……お前次第じゃねぇか?」


 それを受けたウルは特に興味も無さげに、先を促す為にハピへと視線を向けてそう告げると、望子を始めとした仲間たちも一様に賛同して頷く。


「……そう、ね。 貴方みたいな木偶の坊に付き従ってくれる人たちもいる様だし……これに懲りたら、他者を見下す様な発言や行動は控えなさいな」


 話を振られたハピは少しの間、思案する様に唸っていたが、彼女は強い蔑みの念を込めつつも、言って聞かせるかの如くそう口にした。


「あ、あぁ……! ありがとう……!」

「うわ」


 するとルドは何故か晴れやかな笑みを浮かべ、会った時と同じくハピの手を握ろうと近寄ったが、嫌悪感を強めた彼女に華麗に躱されよろけてしまっており。


(惚れ直してねぇかあいつ)

(駄目みたいだね)


 ……それを見ていたウルとフィンは、こそこそと身を寄せ合いながら呆れ返ってしまっていた。


『あたしからも謝らせておくれ。 本当にうちの孫がすまない事をしたね。 それで、あんたたちはこれからどうするんだい? この山を越えるのかね?』

「そうそう、ボクたちこの先の海に行きたいの!」


 そうして一段落ついた頃、スピナが改めて望子たちに深く謝罪して彼女たちの今後について尋ねると、フィンが真っ先に代表して意気揚々と答えた事に、望子たちは思わず良い意味で苦笑する。


『成る程ねぇ……それなら早めに進んだ方が良いかもしれないよ。 ここ数年、この山は少し厄介事に見舞われてるからねぇ』

「厄介事? 何かあったのか」


 ひるがえってスピナは、彼女たちとは対照的な真剣な──小鳥ゆえそれでも愛らしいが──表情を浮かべて語るその声までもが沈んでいる事を、心の底から不思議に感じたウルは、気になったものをそのままにしておくのもモヤモヤする為、彼女の話に出て来たその単語を抜粋し、尋ねてみる事にした。


『そうだねぇ……まぁせっかくだから、行きしな話そうかね。 もう少しであたしたちの集落に着く事だし』

「ほーん……じゃ、そうするか? ミコ」

「うん、そうしよっか」


 するとスピナは望子たちに話すべきかどうかを思案している様だったが、パサッと軽く飛び上がり、魔術も行使しているのだろうか羽ばたかぬまま停止飛行ホバリングしつつそう口にすると、ウルが頭目リーダーである望子に問い、もう殆ど警戒はしていなかった望子はこくんと頷く。


 その後、スピナを除くルドたち三人は罪滅ぼしだとばかりに野営の片付けを手伝い、ほんの少しだけ望子たちと打ち解け、彼らの案内の元、山頂にある翼人ウイングマンたちの集落へと歩を進める事となる。

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