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愛され人形使い!  作者: 天眼鏡
最終章

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466/499

一瞬、そして最期の──

 ピアンが静かな、されど燃える様な覚悟を決める一方。


 残り一分と少しで強制的に幕を下ろされる事となるとは思えぬ程、魔王と神樹人ドライアドと邪神の戦いは苛烈さを増しており。


『おのれェ……! 素直に操られておれば良いものを……!』


 あらゆる攻撃が有効打になり得るだけでも厄介だというのに、それが三つの方向から飛んでくるのは面倒極まりなく。


『いける……ッ、いけるよアドライト!』

「このままなら、或いは……ッ」


 さしものコアノルと言えど対処に追われている姿を垣間見て、アドライトは勿論キューにさえ希望の色が見え始める。


 或いは、このまま斃せてしまうのでは──と。


 当然ながら、そんな上手くはいかないと理解もしている。


 だが、もうその一縷の望みに賭けるしかないのだ。


 どのみち、あと一分で死んでしまうのだから。


 翻って、コアノルはコアノルで一つの疑問を抱えていた。


(何故じゃ……!? 何故、闇黒死配(ダク=ロウル)が効かぬのじゃ……!!)


 今も己を攻撃し続けている二柱の邪神の抜け殻が、どういう絡繰で超級魔術による支配から逃れているのだろうかと。


 闇黒死配(ダク=ロウル)は対象が生物であろうと非生物であろうと関係なく、肉体・精神・魔力・神力──果ては時間や空間に至るまで全てを支配し、そして思うがままに操る理不尽な魔術。


 たとえ邪神と言えど本来なら通用し、完全に支配するとまではいかずとも〝第三勢力〟くらいに留めておけた筈だが。


 それも全ては、コアノルの体内に居る望子のお陰。


 正確に言えば、望子に力を託した邪神たちのお陰。


 望子の中に残滓として潜む二柱の邪神たちの意思が、さも妨害電波ジャミングか何かの様に闇黒死配(ダク=ロウル)の正常な働きを阻害するとともに、それぞれの抜け殻に微かに残っていたらしい極小の意思に語りかける事で、今の状況を作り出していたのだ。


 ただ只管に、()()()()()()()()()()()()()事によって。


 残すところ一分程度とはいえ、いきなり始まった三対一。


 勇者一行に都合の良い展開なのは言うまでもなかったが。


 往々にして、そういう時にこそ危機は訪れる──。


 ──……()()()()()


『──えっ』


 突如、【世界樹人ユグドライアド】と化したキューの動きが止まった。


 段々と動かなくなるのではなく、急停止したのだ。


「しまっ、腕が……!!」

『ッ、馬鹿──』


 原因は、アドライトの寿命の終わりが間近まで迫って来た事による一時的な両腕の喪失であり、ほんの一瞬の出来事ではあったものの、その一瞬が命取りとなる事は明白だった。


 ファタリアが思わず罵声を吐いてしまうのも無理からぬ事ではあったが、今さら何を言ったところで──もう、遅い。


『──ようやっと見せたな、急拵えがゆえの〝綻び〟を』


 瞬間、コアノルが昏い笑みを浮かべてそう呟くと同時に顕現させた暴食蚯蚓ファジアワームに似た一対の巨大な触手が牙を剥き。


『『──……ッ』』

『おい嘘だろ!? 仮にも邪神の抜け殻を……!!』

「一瞬で、喰ッちまいやがッた……!!」


 三対一が崩れ、二対一となった一瞬を見逃す事なく振るわれたその触手が、二柱の抜け殻を丸呑みにし、咀嚼する。


 今度こそ、欠片も残さず消し去る為に。


 やれ厄介だ、面倒だとコアノルは悪態を吐いていたが。


 逆に言えば、キューも抜け殻たちもその程度の存在としか認識しておらず、あらゆる攻撃が有効打となり得る事への煩わしさこそ確かに感じていたものの、言うなればそれは〝我儘な子供が捏ねる駄々〟程度にしか思っていなかったのだ。


 尤も、かの恐るべき存在は望子以外に捏ねられる駄々など求めていない為、始末する事に変わりはなかった様だが。


 そして、完全に嚥下を終えたコアノルは意識を向け直し。


『邪魔者は消えた。 貴様らも放っておけば勝手に息絶えるのじゃろうが──ここに至るまで受けた屈辱は、筆舌に尽くし難い。 よって妾が手ずから死を与える、光栄に思うが良い』

『「……ッ!!」』


 完全なる消滅まで残り三十秒も残っておらず、どうせ死ぬのなら余計な力を使う必要もないのではという正論など。


 これ程の屈辱を受けた魔王には、もう関係なかった。


『さらばじゃ、先の戦の失せ物よ──』


 もう二度と叛逆など許さぬ様に、吸収し直した邪神の力の全てを真紅と褐色と薄紫、三色の光線として撃ち放ち。


 大樹めいた巨躯を、その存在ごと消し去らんとした。











 ……そう、消し去らんとしたのだ。


 だが、それは叶わなかった。


 何故なら、魔王と同程度の巨躯を誇る【世界樹人ユグドライアド】が。


『──は?』

「え……」


 羽も翼もなしに、魔王より高く浮かび上がったからだ。


『……浮いた? この巨体が……?』

『これ、キューの力じゃないよ!』


 ファタリアとキューが突然の出来事に驚く中にあり。


「「まさか──」」


 ただ二人、その現象に心当たりを持つ者たちが居た。


 生物や物質を軽くし、浮遊感を与える支援魔術。


 リエナとアドライトが同時に思い当たった、その人物は。


「──……【軽量メイク……ライト】……ッ!!」

「「ピアン……!!」」

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