Ride_On! Hi-Elf!
──搭乗して、とキューは言ったが。
……何処に? というのがアドライトの率直な反応だった。
実のところ、この世界における人族や亜人族が搭乗する事で初めて意味を為す武器や兵器の普及率はかなり低い。
俗に言う〝戦車〟こそ存在するものの、キャタピラを駆使して進む近代的な代物ではなく、数頭の馬に牽かせ、前後左右に槍だの盾だの装着した中世的で鈍重な造りの物ばかり。
それこそ素人が素人考えで造った〝海賊船〟の対処にさえ窮する程、魔術や武技ではどうにもならない力に弱かった。
魔王が封印された後、約千年という束の間の平穏がこの世界の人族から牙を抜いてしまったのが主な原因だろう。
ましてや森人は森の中で一生を終える個体も多い種族。
アドライトの様な森の外へ出て他種族と積極的に関わっている個体でさえ、そういった物騒な人工物にはあまり縁がなく、こうして困惑してしまうのも無理からぬ事であったが。
『説明してる時間も惜しいから、もう搭乗させちゃうよ!』
「な、あ……!?」
「アドさんッ!?」
その困惑を解消してやる余裕など魔王を前にある筈もないと分かっていたキューは、アドライトやピアンが驚いているのさえ構わず、二人の足元から出てきた根っこで地面へ引き摺り込み、そのまま【世界樹人】の内部へと運び込んだ。
(何をしてるんだい、ピアン……)
単に巻き込まれてしまっただけなのか、それとも何らかの理由があっての事なのか、何故かピアンまでもがアドライトと共に引き摺り込まれた事実に困惑するリエナを置いて。
一方、【世界樹人】の内部では──。
「ここは……もしかしなくても、さっきの巨人の中……?」
やはりと言うべきか、アドライトと共に内部まで運び込まれていたらしいピアンがキョロキョロと辺りを見回したところ、その場所はまるで飛行機や宇宙連絡船の操縦席が如き様相を呈しており、ピアンの頭が疑問符で埋め尽くされる中。
「正確にはあの子の、キューの内部だろうね……うっ……」
「! アドさん! しっかり……!」
そんな彼女の呟きに補足しようと立ち上がりかけはしたものの、もう数分しか寿命が残されていない影響で立つ事も難しくなっていたアドライトを支えつつ、ピアンは上を向き。
「キューちゃん! それどころじゃないのは分かってる、分かってるけど……! アドさんを、貴女の癒しの力で助け──」
今この巨人の前には恐るべき巨悪が佇んでおり、そんな余裕がないのは重々承知していたが、それでもどうかとアドライトの治療、或いは延命措置をと懇願しようとしたその時。
『──アンタまで巻き込むつもりはなかったんだけどね』
「ッ、ファタリアさん!? 一体どこに……!」
そう言えば少し前、具体的にはアドライトが一時の活躍を見せた辺りから消えていた気がする妖人、ファタリアの声が耳に直接響く様に聞こえてきた事で困惑するピアンに。
『どこにも居ない。 アタシはもう、死んだ様なモンさ』
「「え……?」」
まるで日常会話であるかの様な変わりない声音で『もう死んでいる』などと告げられたからには、言うまでもなく二人は更なる疑問と困惑を抱き、それを口にしようとするも。
『悪いけど、キューの声は内部まで届かない。 魔王が攻勢に移行する前にサクッと結論から言うよ。 アンタらには──』
そんな二人をよそに、ファタリアの物と思われる声が先程のピアンからの懇願に対して〝否〟を突きつけるとともに。
悪いと言う割に申し訳なさを感じぬ声が告げた結論は。
『──アタシやキューと一緒に、死んでもらう事になる』
「え、は……!?」
「何だって……?」
奇しくも、ローアがハピたちに告げたものと似ていた。




