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海と空のお話  作者: kn
8/33

八 やっべぇ、忘れてた!

休みの日。

今週も何とか一週間を乗り越えて、ベッドの上でぐったりとしていると、携帯電話にメールが届いた。

今時あまりメール機能を使わないので、少し珍しい。送信者は……姉貴だった。


メールが届く度に通話アプリを使わないなんて、変わり者だよなー、なんて思う。便利なのに。

肝心の内容は、どれどれ──姉貴の結婚式の、日時と場所について確認、ね。


……。


……ん?


……あ!?


やっべえぇぇぇぇ、来週末じゃんか!忘れてた!

父さん母さんは出張先から直接式場に向かうから、メールが届かなかったら最悪すっぽかしもあったぞ。


てか、待て。待て。姉貴には俺が女になったのを言ってねぇ。母さんから伝わってるのかな。

そう疑問に思って『俺の事について、父さん母さんから何か聞いているか?』とメールを返してみた。


『何?結婚式に来られなくなったとか?』


って違え!そうじゃない!

でも結婚式の日時、場所の確認メールの返信でその内容じゃ、話の流れ的に無理はないか。

ああ、もう普通に聞いてやれ。


『いや、結婚式には行くよ。俺が女になった話』

『あんた性転換したの?空君のために?』


……分かり辛いが、この返信なら聞いてないな?

空のためって部分は何を意図しているのか分からんが、今は本題のために放っておこう。


『違う。二人には言ったけど、気を失って目覚めたら女になってた。子供も産めるらしい』

『そんな事あるの?おめでとう』


おめ……?って何でそうなった!?

昔からだけど、ほんと姉貴とのやり取りは疲れるな!!


『なんかあったんだよ。で、そんなんでも結婚式に出て平気か?』

『いーよー。あんたの方に問題がないなら』


服は制服があるから大丈夫だろ。

お義兄さんと、お義兄さんの家族にはなんて言おうかね。……んま、父さんも母さんもいるわけだし、そっちも平気かな。

そもそも、あまり悩むのは俺の柄ではないな、うん!


『平気』

『そ。じゃ、楽しみにしてる』


---


「と言うわけで、買い物に付き合ってよ」

『どんな訳だ。まあ、いいけどな』


詳しい説明もなしに空を誘うと、詳しい理由も聞かずに快諾された。

誘った俺が言うのもなんだけど、付き合い良すぎだろ。

これだけ素直だと将来悪い女に騙されそうだな。


午後一時に駅前のコンビニで待ち合わせ、と約束をして電話を切った。

今が大体午前十時。まだ時間はたっぷりとある。軽くシャワーを浴びて……折角買って貰ったんだし、化粧の練習でもしてみるか。

使う機会なんてない、なんて思っていたら意外と出番が早かったなぁ。

一通りレクチャーは受けたし、化粧の手順を動画に撮って貰ったので大丈夫だろう。


なんて言うのは、甘い考えでした。マジで。

なんだよこれ!手がぷるぷると震えて予期せぬところに化粧が付いたりとか、色が濃過ぎてバランスが悪くなったりとかさぁ!

すぐに取り返しの付かない顔になり、もう練習と開き直って色々と試す。

実験を終えて、一度化粧を落として再びチャレンジ。軽く色を乗っけて指で伸ばし、目立たないよう薄化粧に努めた。


ダメだ。ガチ化粧はまた今度にしよう。今はまともに見られる顔になっただけで充分だ。

まじまじと鏡を見る。ちょっと血色が良くなって、顔に少しだけメリハリが付いた、か?

こうして化粧をしてみると、薄いとは言え、やっぱり少し印象が変わるなぁ。


……ん、やべ。あんだけ余裕があったのに、もう出ないと間に合わなくなる時間だ。

服は陽子さんにコーディネートして貰った組み合わせをそのまま着た。もう考えている時間がないし、そもそも俺に服選びのセンスはない。

肩がけのバッグに財布とキーケースと……ああ、後は化粧ポーチを持てって言われてたっけか。女って面倒くせーな!!


てってこ早足で歩いて駅前へ到着。なんとか待ち合わせの時間よりも早く着く事が出来た。

一方的に呼び出しておいて遅刻するとかは、流石に避けたかったので間に合って良かった。

コンビニの前に空はまだ居なかった。ついでだから飲み物でも買っておくか、と思ってコンビニへと入った。


「ねえ、そこの可愛い彼女〜。今……」


なんて、声が聞こえた。誰かがコンビニの中でナンパをしているようだ。店の中で、とはちょっと節操がない気がするが、まぁ成功を祈ろう。

本のコーナーの前を見ると空が居て、こちらを見ていた。どうやら先に着いていて、本を読んでいたようだ。

空が手に持っている本には……なになに、『美味いご飯の炊き方 〜米と炊飯器で全てが変わる!〜』と書いてある。……そりゃそうだ。

てかお前、ほんっとにブレないな!!


「海……お前結構、凄いな」


そりゃこっちの台詞だが。


「何でだよ?」

「ナンパされてんのに存在しないかのように扱うとか……いや、対処としては良いんだろうけどな」

「ナンパ?」

「ああ、そもそも気付いてないのか。不憫だな」

「……?」


空の言っている事がいまいち分からず、首を傾げざるを得ない。


「あ、そうだ。もしかして待たせたか?」

「いいや、本を開こうとしたら海が見えたんだ」

「そっか、なら良かったよ」


俺は緑茶を買い、空は『美味しいご飯の炊き方』を買っていた。ああ、買うんだそれ……。


「そう言えば、今日は化粧をしてるんだな」

「良く分かるな」


俺が空の立場だったら気付かないと思う。


「まあ、毎日見てるしな」

「そんなもんか?」

「ああ。……似合ってるぞ」

「お、おお。ありがと」


本当に頑張っただけに、ちょっと嬉しいじゃないか。

いつもお読み頂きありがとうごさいます。

読みに来て下さる方がいると、益々頑張らねば、と思うところです。


今日で十一月も終わりですね。

一年が経つのは早いものです。


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