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海と空のお話  作者: kn
33/33

後日談 三 お返しに

四月一日ですが、エイプリルフールネタではありません。


一月は行く、二月は逃げる、三月は去る。

そんな言葉が残るくらい、年明けの時間の流れは早く感じる。

先月に酒に酔ってやらかしてから、あっと言う間の一月だった。


バレンタインデーのお返しがしたいからと言われて、家でそわそわしていると家のチャイムが鳴った。

なんかこう、空が相手でも改めてお礼なんて言われると浮き足立つと言うか、なんと言うか。


『待たせて悪い』

「ううん。鍵は開いてるから、入って来て」

『おー』


私服に着替えた空が、綺麗なガラスケースを片手にリビングへ来た。

ガラスケースの中は透明感のある金色の球体がたくさん入っている……飴玉かな?

ほほう。ベタだけど飴は好きだぞ。


「これがお返しな」

「ありがと」


手に持つとずっしりと重い。

見た目も綺麗で、さながら透明な宝石箱に入った琥珀だ。


「へぇぇ……綺麗なもんだなぁ」


光にかざして見ると、その美しさが際立つ。


「ちょっと一つ、食べてみてくれ」

「え?あぁ、うん」


綺麗だから食べるのも勿体無く感じるんだけどな。

でもまぁ、折角の飴玉を後生大事にされても寂しいだろうし、いいか。


蓋を開けて飴玉を一粒取り出すと、口の中へ入れた。


「お、美味し──!?!?」


美味しい、美味しいんだがこれは、美味し過ぎる……?


「気に入って貰えたみたいで何よりだ」


空がニヤリと口角を上げた。ぐぬぬ、なんかしてやられた感じがする。

どう言う事か、視線だけで説明を求める。


「それ手作りなんだが」

「マジか……でもこれ、なんか」


魔力を供給されている時のような感覚があるんだけど。

だって俺は普通の食べ物じゃ、こんなに美味しく感じたりはしない。


「物に魔力を付与する方法があって、飴に魔力を込めてみたんだ」

「そんな事も出来んのか。ってそれなら魔力が付与された食べ物があれば、魔力の供給は必要ないんじゃ?」

「付与するにも魔力のロスが多いし、抜けるのも早いから効率がな……それに、それだけじゃ足りないだろう」


む。確かに。

この飴玉だけで賄おうとすると結構な数が必要になりそうだ。

空から魔力を貰うの好きだから、良いんだけどさ。

たまに、大変じゃないかなー、なんて思う時があるんだよな。


「そっかぁ、でも凄く美味しいよ、ありがとう」


おや、空が少し驚いた顔をしているぞ。


「──あぁ、なるほど」

「ん?どしたの?」

「海が楽しそうに料理をする理由が分かったよ」

「あぁそう言う事ね」


自分の作ったものを美味しそうに食べて貰えれば嬉しいもんな。

……でも、そんな改めて得心されるほど、嬉しそうな顔をしてたんだろうか。

気恥ずかしくなって自分の頬をもにゅもにゅと揉んでみたが、分からなかった。


少し談笑をした後に夕食を取って俺の部屋に向かう。

空も嬉しそうに凄い量を食べてくれるから、ほんと作り甲斐があるよなー。


部屋に入りドアが閉まると同時に、空に後ろから抱き締められた。

首を捻って顔を上げると、そのままキスをされた。顔が赤く火照っていくのが自分でも分かる。

魔力は相変わらず、ほぼ毎日貰っている。

あまりに時間がない時以外は、吸血ではなく、キスでもなく、他の方法で。

それにも関わらず、未だ恥ずかしくて慣れないんだから大概だよな。


「海」

「ん……ふぇ?」

「もう一つ、渡す物がある」


空が取り出したのは黒い箱だった。

柔らかそうな毛で覆われているその箱は、まるで二枚貝のように真ん中で開いた。


「え?」


その中に入っていたのは、蒲公英みたいに暖かな宝石いしが嵌った指輪。


「結構前に頼んでおいたのが、漸く届いたんだ」

「あ、うん」

「受け取って貰えるか?」

「あ、はい」


えっと、頭が回らなさ過ぎて、大分間抜けな事言ってね……?

空は細かく震え出した俺の左手を取ると、その指輪を薬指にはめた。

あ。やばい。目頭にツンときた。


「もう少しして、籍が入れられるようになったら、結婚してくれ」

「──は、い」


その後の魔力供給がいつもより燃え上がりました……。


---


「ねぇ……空」

「ん?」


お互いの燃え上がった炎が落ち着いた頃、この宝石いしの来歴を聞いた。

なんでも、空が物心がついた頃から毎日ずっと、特別な石に魔力を込めてきた物なんだそうだ。

長年に渡って少しずつ魔力を蓄積した石は、魔石に変わって魔力を帯びるようになる。

陽子さんの一族は、そうして作った魔石を伴侶に贈るのだという。


「これさぁ、私が貰っちゃってもいいのかなぁ……?」


だってさ。

去年の今頃はこんな事になるなんて思ってなかったわけだ。

空は漠然とながら、誰か伴侶になる人を想って、この石を作っていたんじゃないかと思う。

だからこんな貴重な物を俺が貰ってしまっていいんだろうか、と。


「海、一つ言っておくが」

「うん?」

「俺は去年の事件がなくても、これはお前に渡すつもりだったぞ」

「……ん?」


いまいち、どういう事だか分からない。


「つまり、お前が男のままでも俺には関係がなかったというか」

「え」

「まあ、そういう事だ」


それってつまり……びーえるじゃないですかー……。

はぁ、そんな言葉が嬉しく感じるなんてなぁ。

──ま、いいか。

これで一区切りでしょうか。

何かこんなの、なんてリクエストはありますでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] あぃがとです 韓国人ですけど すげたのしです!
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