後日談 三 お返しに
四月一日ですが、エイプリルフールネタではありません。
一月は行く、二月は逃げる、三月は去る。
そんな言葉が残るくらい、年明けの時間の流れは早く感じる。
先月に酒に酔ってやらかしてから、あっと言う間の一月だった。
バレンタインデーのお返しがしたいからと言われて、家でそわそわしていると家のチャイムが鳴った。
なんかこう、空が相手でも改めてお礼なんて言われると浮き足立つと言うか、なんと言うか。
『待たせて悪い』
「ううん。鍵は開いてるから、入って来て」
『おー』
私服に着替えた空が、綺麗なガラスケースを片手にリビングへ来た。
ガラスケースの中は透明感のある金色の球体がたくさん入っている……飴玉かな?
ほほう。ベタだけど飴は好きだぞ。
「これがお返しな」
「ありがと」
手に持つとずっしりと重い。
見た目も綺麗で、さながら透明な宝石箱に入った琥珀だ。
「へぇぇ……綺麗なもんだなぁ」
光にかざして見ると、その美しさが際立つ。
「ちょっと一つ、食べてみてくれ」
「え?あぁ、うん」
綺麗だから食べるのも勿体無く感じるんだけどな。
でもまぁ、折角の飴玉を後生大事にされても寂しいだろうし、いいか。
蓋を開けて飴玉を一粒取り出すと、口の中へ入れた。
「お、美味し──!?!?」
美味しい、美味しいんだがこれは、美味し過ぎる……?
「気に入って貰えたみたいで何よりだ」
空がニヤリと口角を上げた。ぐぬぬ、なんかしてやられた感じがする。
どう言う事か、視線だけで説明を求める。
「それ手作りなんだが」
「マジか……でもこれ、なんか」
魔力を供給されている時のような感覚があるんだけど。
だって俺は普通の食べ物じゃ、こんなに美味しく感じたりはしない。
「物に魔力を付与する方法があって、飴に魔力を込めてみたんだ」
「そんな事も出来んのか。ってそれなら魔力が付与された食べ物があれば、魔力の供給は必要ないんじゃ?」
「付与するにも魔力のロスが多いし、抜けるのも早いから効率がな……それに、それだけじゃ足りないだろう」
む。確かに。
この飴玉だけで賄おうとすると結構な数が必要になりそうだ。
空から魔力を貰うの好きだから、良いんだけどさ。
たまに、大変じゃないかなー、なんて思う時があるんだよな。
「そっかぁ、でも凄く美味しいよ、ありがとう」
おや、空が少し驚いた顔をしているぞ。
「──あぁ、なるほど」
「ん?どしたの?」
「海が楽しそうに料理をする理由が分かったよ」
「あぁそう言う事ね」
自分の作ったものを美味しそうに食べて貰えれば嬉しいもんな。
……でも、そんな改めて得心されるほど、嬉しそうな顔をしてたんだろうか。
気恥ずかしくなって自分の頬をもにゅもにゅと揉んでみたが、分からなかった。
少し談笑をした後に夕食を取って俺の部屋に向かう。
空も嬉しそうに凄い量を食べてくれるから、ほんと作り甲斐があるよなー。
部屋に入りドアが閉まると同時に、空に後ろから抱き締められた。
首を捻って顔を上げると、そのままキスをされた。顔が赤く火照っていくのが自分でも分かる。
魔力は相変わらず、ほぼ毎日貰っている。
あまりに時間がない時以外は、吸血ではなく、キスでもなく、他の方法で。
それにも関わらず、未だ恥ずかしくて慣れないんだから大概だよな。
「海」
「ん……ふぇ?」
「もう一つ、渡す物がある」
空が取り出したのは黒い箱だった。
柔らかそうな毛で覆われているその箱は、まるで二枚貝のように真ん中で開いた。
「え?」
その中に入っていたのは、蒲公英みたいに暖かな宝石が嵌った指輪。
「結構前に頼んでおいたのが、漸く届いたんだ」
「あ、うん」
「受け取って貰えるか?」
「あ、はい」
えっと、頭が回らなさ過ぎて、大分間抜けな事言ってね……?
空は細かく震え出した俺の左手を取ると、その指輪を薬指にはめた。
あ。やばい。目頭にツンときた。
「もう少しして、籍が入れられるようになったら、結婚してくれ」
「──は、い」
その後の魔力供給がいつもより燃え上がりました……。
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「ねぇ……空」
「ん?」
お互いの燃え上がった炎が落ち着いた頃、この宝石の来歴を聞いた。
なんでも、空が物心がついた頃から毎日ずっと、特別な石に魔力を込めてきた物なんだそうだ。
長年に渡って少しずつ魔力を蓄積した石は、魔石に変わって魔力を帯びるようになる。
陽子さんの一族は、そうして作った魔石を伴侶に贈るのだという。
「これさぁ、私が貰っちゃってもいいのかなぁ……?」
だってさ。
去年の今頃はこんな事になるなんて思ってなかったわけだ。
空は漠然とながら、誰か伴侶になる人を想って、この石を作っていたんじゃないかと思う。
だからこんな貴重な物を俺が貰ってしまっていいんだろうか、と。
「海、一つ言っておくが」
「うん?」
「俺は去年の事件がなくても、これはお前に渡すつもりだったぞ」
「……ん?」
いまいち、どういう事だか分からない。
「つまり、お前が男のままでも俺には関係がなかったというか」
「え」
「まあ、そういう事だ」
それってつまり……びーえるじゃないですかー……。
はぁ、そんな言葉が嬉しく感じるなんてなぁ。
──ま、いいか。
これで一区切りでしょうか。
何かこんなの、なんてリクエストはありますでしょうか。




