三十 終わり
二十九話をお読みでない方は、先にそちらをどうぞ!
協会であの日あった事を説明して、俺の知らない、事件の詳細を教えて貰った。
事の始まりは俺が襲われる、ほんの少し前。怪異による被害者が出た。
現場の状況と痕跡から堕ちた吸血鬼による犯行と断定。協会は特別チームを組んで警戒に当たった。
当時不可解だったのは、該当するような吸血鬼が存在しなかった事。
戸籍ほど厳密ではなくとも、既知の吸血鬼は大体把握している、らしい。
近代、日本の堕ちた吸血鬼は全て討滅され、登録されている中で堕ちてしまった吸血鬼も居なかった。
でも態度から見て俺のような新参ではあるまい。まるで降って湧いたかのようだ。
黒マントは最初の犯行以降、秘密裏に動くようになったようだ。
協会側の警戒も虚しく、吸血鬼は捕まらなかった。
そりゃ、別次元、なんて操るような相手だ。まさに神出鬼没と言っていい。
実際、協会の次元に対する理解は浅く、俺が囚われていた城に着くのは一苦労だったようだ。
実力者を集めて、特殊な機器を使って、漸く小さな穴を開けられるかもしれなかったくらいに。
難儀していた時にフラッと現れたのは『占い師』を名乗る金髪の少女。
次元の壁にあっさりと穴を開けてみせ、そのお陰で俺や、その他の人々を迅速に救出出来たそうだ。
大層な事をやってのけた少女は、いつの間にか姿を眩ませていたようだが。
……この占い師の少女って、姉貴の披露宴に居た、あの人だよな……?
どうやら黒マントが俺に撃ち込んだ『楔』を取り除いたのもこの少女のようだ。
協会の施設では、『楔』を隠蔽する事しか出来なかったらしいからな。
謎に包まれた人物だが、悪い人ではないと思う。本能的にそう思うだけで根拠はないけど。
不明な点は多いものの、事件は取り敢えずの解決を見た。
謎の少女については情報がなく、目下捜索中のようだ。
もちろん、事件解決への貢献者という事で、穏便に。
まぁ恐らく見付からないと思う。見付けた時は、相手から協会に関わった時だろう。
そして、協会支部からの帰り道。
空と手を繋いで、腕にしがみ付き、猫が匂いを付けるように頭を擦り付ける。
デレ度百二十パーセントだ。自分でも馬鹿だろっておもうけど、どうしようもない。
「海」
「ん?」
「いや。これで良かったのかって、少しな」
んー、これで、ね。今の俺の状況の事かな。
空は未だに、俺が女になったのを気に病んでいるみたいだ。
多分もっと別の、普通の生き方があったんじゃないかって考えてるんじゃないかな。
確かに女にならなきゃ、ならなかったなりに、楽しく過ごしていたとは思う。
でもさ。
「空は、俺が不幸せに見えるか?」
「それは、見えない、が」
「そーだろーなぁ」
くすくすと笑う。
「俺は幸せだよ、空。お前のお陰でさ」
「そう、か」
まーた刷り込みがどうこうとか、考えてるんだろうなぁ。
うん、まぁ……そりゃ、身体の奥の奥まで空のモノにされましたけどね?
でも、俺の意思に刷り込みなんて関係ないのにさ。ほんと、優し過ぎるのも難儀だな。
「だから」
「うん?」
「今度はそんな事悩む暇ないくらい。
俺が幸せにしてやるから──覚悟しておけよ?」
と言うわけで完結です。
別の話を書いている最中に行き詰まり、気分転換のつもりだったのに随分と長くなりました(笑)
気が向いたら後日談なんかも書きたいところですねぇ。
ともあれ、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
完結出来たのは見に来て頂いた皆様のお陰だと思っています。
それでは、また。




