二十五 暗転
暫く泊まり込んでいた空が、家に帰る事になった。
魔力の制御に関してはもう問題はないし、悪霊についても、自分から近付かなければ大丈夫だ。
個人的には少し寂しさを感じるところだが……まぁお互い高校生だし体面もある。
それに、血を貰うために毎日寄って貰うのには変わらないんだよな。
空を送り出してから十分くらいだろうか、呼び鈴が鳴った。
普段、アポイントなしでうちの家に訪ねてくる人はあまり居ない。
ご近所さんがたまーに回覧板を持ってくるくらいだ。
なので、最有力は空が忘れ物をして取りに戻って来た。
次点が回覧板で……レアなとこで訪問販売かねぇ。
何の気なしに、テレビ付きドアホンを、確認した。
そして、見た瞬間に、総毛立った。
写って居たのは、タキシードに黒マント。
普通ならコスプレをした人に見えるが、問題はそこじゃない。
俺は、こいつを知っている。俺を、こんな風にした、張本人だ。
カメラ越しだ。こちらが見える筈はない。
筈なのに、そいつは俺を見て、口角を歪めた。
すぐさま携帯電話を手に取って、空へと電話をするが、掛からなかった。
いつの間にかに家中の電気は消え、周りは静寂に包まれている。
携帯電話は──圏外だ。
「手間を掛けさせるな、下僕」
ゾッとするほど低く、冷たい声が、背後から聞こえる。
ぎこちなく背後を振り返ると、黒マントの男が部屋の入り口に立っていた。
「なん、で」
今更、俺の前に出て来た?
……いや、ずっと狙われていて、居場所がバレたのか?
「ふん、忌々しい。半妖の小僧にしてやられたか」
「何の話だ」
「答える必要はない。
──しかしこれは、協会、とやらも存外侮れぬ」
取り付く島もねぇし、俺置いてけぼりなんだが。
なんて不親切なやつだ。
「お前の目的はなんだ」
「じきに分かる。帰るぞ。余計な抵抗はするなよ?」
「帰るって、何処に」
「……下僕らが森林公園、と呼ぶ場所よ」
「ホームレス?」
お、おう。すげー勢いで睨まれた!怖っ!
いやだって今の言い方だと、ダンボールハウスかぁって思うだろ。
「下賤の者に別次元、と言っても分かるまい」
そう言うと、黒マントは何やら意識を集中させ始めた。
あ……そうか。今のこの場所も、『別次元』なのか?
とにかく、そんなワケの分からない場所に連れて行かれてたまるか!
手の中の携帯電話を部屋の隅に放り投げると、俺に出来うる限り、最速で魔力を込めて黒マントに打つける。
が、小揺るぎすらしねぇ。鬱陶しそうにこちらを見るだけだ。
「下僕が主人に牙を剥いて良いと思っているのか?」
「俺はてめーの下僕じゃねーよばーか!」
そこらの怪異とレベルが違い過ぎる。これは俺の手に負えない。
庭に続く窓硝子を蹴破り外へと駆け出したが、門の辺りに壁があって敷地の外には出られない。
……半ば想像していたとは言え、逃げられそうにないな……。
「行動は粗野で、言葉遣いは荒い。
躾のなっていない犬には調教の必要がありそうだな」
優雅に歩いていらっしゃった黒マントはそんな事を言い放つ。
余計なお世話だね!てめーに調教されるとか怖気が走るわ!
「下僕。お前は、此れが苦手なんだろう?」
にたりと口角を歪めると、黒マントの両脇に、二匹の悪霊が現れた。
なんとか、無様に尻餅をつく事はなかったが、自然と手足が震え始める。
「……捕らえろ」
黒マントが命じると、悪霊が俺の方へと近付いてくる。
俺が逃げられない事を知ってか、知らずしてか、ゆっくりと、ゆっくりと。
こいつらには、流石に黒マントみたいな力はない。
抵抗をすれば簡単に蹴散らせる……のに。
極度の緊張下では、普段簡単に出来る行動ですらもたついたりする。
ましてや、最近習得した魔力を操る事なんて、出来るわけがなかった。
「ひっ!?やっ」
腕や足を闇雲に動かして抵抗するけど、碌な力が込められない。
冷たいような、熱いような、不快な感触がざらざらと肌の上を這い回った。
「や、いやだ。空。空っ、たす、け──」
えー……連続更新が非常に中途半端なところで止まってしまって申し訳なく思います
物語の雲行きが少し怪しく見えますが、私はハッピーエンド好きです、とだけ!




