二十四 恩人
身体を揺らされる感覚で、目を覚ました。
空が気を失った俺を運んでくれていたみたいだ。
……よくよく状況を確認すると、これはお姫様抱っこってやつか。
夜も更けて人気のない住宅街だけどこれはちょっと恥ずかしい!
「空」
「ん、目が覚めたか」
「うん」
恥ずかしいが、さっきの恐怖がまだ残っていたから、首にしがみ付いて深呼吸をする。
最近嗅ぎ慣れた空の匂いで、少し心が落ち着いた。
「ごめん空。それと、ありがとう」
「いや……俺の方」
「ちょっと待った」
「うん?」
空が謝ろうとしているのが分かったから、止めた。
「俺が自分でした事だから。空は悪くない」
「しかし、海が心に負った傷の深さを知っていたのに、軽く見たのは俺だ」
「それはまた別の話……って、空は覚えてるのか?」
俺はすっかりと忘れていた。
子供の頃に見たホラー映画がトラウマにだったんじゃなくて、実際に悪霊に襲われていたなんて。
そして、空が父さん達が気付くまで身を呈して庇ってくれていたんだ。
「ああ。とは言え、幼かったからうろ覚えだ」
「そっか。昔から空には守って貰ってばかりだな……俺はお前に何も出来てないのに」
俺が空に出来る事なんてあるのかなぁ……。
退魔師として空と肩を並べる作戦は最初で失敗だし。
はぁ。
「自分では分からないと思うが、十分して貰っているぞ」
「え?」
空の言っている事が理解出来なくて、首を傾げた。
「昔、退魔師を目指す様になって、周りから浮いていただろう」
あぁ、おかしな言動は多かったな。
そうか。幼い頃に大きな隠し事があれば、行動に出るって事か。
……まぁそれ以外も変わった部分はあるけどな!
「逆に海は、自然と人を惹きつけて、人望がある。
そんなお前と近しい俺は、多少浮きこそすれ孤立せずに済んだ」
確かに空は周りとは上手く馴染めない時があった。
だから、半ば無理矢理仲間に引っ張り込んで一緒に遊んだりはしていた。
「そんな時もあったかもしれないけど、それくらいの事で……」
「それくらいとは言うが、俺にとっては大事な事だ」
そう言われると、何も言い返せない。
何が大事だったか、なんて、そんなん人それぞれだ。
「それでな、『何を言われても気にすんな。俺は空の良いところを、いっぱい知ってるから!』
なんてにこにこしながら言うんだ。海は何の気なしに言ったんだろうが、どれほど救われたか」
「お、おう」
すげー偉そうだな俺!ドヤ顔でそんな事言ったのか!
……でもそれで空の心が晴れたなら、良かった。昔の俺にグッジョブと言ってやりたい。
「だから何も出来てないなんて気にするな。
俺は、海が隣で笑っていてくれたら、それで良い」
「おま……」
う。うおお、顔が熱い!お前それ殺し文句だからな!
俺は口元を押さえて、表情が変わらないようにする。
気を抜くと口角が吊り上がりそうだ!
「えー、あー。えっとまぁ、善処する……」
今の台詞って半ば……いや、そんなわけないか!
俺達はまだ高校生だし、流石にそれは考え過ぎだろ。
その、つ、付き合い、始めたのだって、先日の事だ。
あ、まだ疚しい事は一切ないからな!ちょっとスキンシップがあるくらいだ!
少し見上げると、空の顔がある。
でもまぁ、空と一緒だったら、それは楽しそうだよな。
──うん、待て待て。冷静になれ俺。
「空、もう自分で歩ける」
お姫様抱っこから解放されると、どちらからともなく指を絡めた。
俗に言う恋人繋ぎだが、客観的に見ればお姫様抱っこより恥ずかしくないだろ。
そんな気にするような人気ないけど。
「なぁ。空って進路どうすんの?」
「進路か……海は?」
おおう。質門返しが飛んで来た。
「俺は適当な大学に行くつもりだったんだけどさー。
ここんとこ、そんな場合じゃないのかなって」
退魔師としての仕事……と呼ぶのかはさて置き。
協会に入れば困ってる人がいたら、手を差し伸べる事が出来るんじゃないか?
別に自分に力があるからとか、優れているからとか、そんなんじゃなくてさ。
助けて貰ったから、同じように少しでも力になれたらなって思うんだ。
と、そんな話を空にする。
「そう、か……」
空は表情を曇らせた。
多分、俺のトラウマを心配してるんだろうなぁ。こいつ優しいからな。
確かに本当は悪霊と対峙するなんてゴメンだし、泣きそうになるよ。
でもさ……何もしなきゃいつまで経ったって、そのままだろ。
「と、話がズレたけど、空はどうすんだよ」
「大学に行っても良いとは言われているが……俺も進学はしなくて良いかもしれないな」
「ふぅん。そう言えば協会って学歴関係あんの?」
「実働部隊はあまり関係ない。運営に回るならそれなりに勉強をする必要があるな」
家に帰り着くまで、協会の事を根掘り葉掘り聞いた。
なにせ、俺も入るかもしれないしな!
明日で書き溜め分が終わります。
一週間に1,2回は更新したいと思っているので
ゆっくりとお待ち頂ければ嬉しいです!




