十九 恋バナは苦手
女の子って纏まって行動するのが好きだ。
俺だってトイレに行く時に連れションした事はあるけど、それにしたってたまにだ。
トイレに行きたい奴が「あ、俺も行くわ」って、付いてく程度。
女子はちょっと違う。
休み時間ごとではないにしろ、一人が行こうとすると仲良しグループの三、四人が付いてく。
新しい交流を作ろうと、たまーに普段はあんま話さない子を連れてったりもする。
……で、連れて来られているのが俺だ。
「高橋ってちょっと良くない?」
「あー、分かる。サッカーちょー上手いよねー」
「そうそう。後、田口ね」
「そうそうそう!二年のツートップだもんね」
と、女子連中は恋バナに花を咲かせているわけで。
女になってから女子からちょこちょこと声を掛けられるようになって、浅くではあるが割と皆と交流がある。
クラスの女子は、少なくとも表向きは好意的に受け止めてくれていて、居心地は良い。
でもこの恋バナ地獄は!正直辛いんだけど……!?
「海ちゃんは?誰か気になる人いないの?」
「え、ええ……私?」
うお……このまま聞き役で頷いているだけ作戦失敗か。
あ、外での一人称は私で通してるし、話し方も気を付けてるぞ。
ただし未だに違和感はばりばりだ。
「ちょっと彩加〜。海は聞くまでもないじゃん」
「そうそう。藤岡君以外誰がいんの!?って感じ」
「登下校一緒、学校でも一緒、ご飯を食べる時もお弁当を作って来て一緒……あはは、どんだけだよ!」
「あ、あー」
一緒にいるのには事情があるとは言え、それは言えないし……。
空、すまん。なんかとんでもない誤解を生んでいるらしいぞ。
「あー!海ちゃん真っ赤!可愛いなぁ」
「そういやー、一年の時から藤岡とは仲良かったもんね。昔から好きだったの?」
「え、と」
「藤岡君ねー。イケメンだし、海がいなきゃ狙ってるんだけどなー」
お、おお。分かってたけど、大人気だな、空。
てか口挟む間もないんですけどっ!?
「で、結局んトコ付き合ってんの?」
「当たり前っしょ!あれで付き合ってなかったらびっくりだわ」
「まだならあたし狙っちゃおうかなー」
「あ、う」
「あは、ちょっと止めときなよー、海に嫌われるよ?」
「あ!ゴメンゴメン、冗談だよ!」
散々空のネタで弄られ、弁明する間を与えられず、休み時間が終わりに近いからと教室に戻ってきた。
ぐったりと机に突っ伏すと、空が小声で話掛けてきた。
「どうした。具合が悪いのか?」
この具合、とは生理の事を指しているんだろうな。
確かにお腹が痛かったり少し怠かったりするけど、そちらは幸いにも、そんなにキツくない。
お前のせいでこんな疲れてんだぞ、と言いたいところだが、空も俺のせいで誤解を受けてんだよなぁ。
「何だその、苛立ちと申し訳なさの混ざった目」
「お前人の心を正確に読むなよ」
---
「ああ、成る程な」
と呑気な感想を述べたのは、弁当を食べ終わって、満足気な空だ。
「もー、女子のマシンガントークには付いてけん」
「それは俺も無理だな。変わってやれないのは申し訳ないが……」
「う。そこ気にされるとこっちが申し訳ねーよ」
結局のところの原因はほとんど俺にあるわけだし。
「……ところで、さぁ……。空って誰かと付き合おうと思った事はないのか?」
「──は?」
空は真顔のまま固まった。
うーん、二人で恋愛の話ってした事なかったもんな。
俺だってこんな話を聞くなんて小っ恥ずかしいわ。
でも、まぁ当たり前だけど空が結構告白されてるのは知ってるんだよ。
なんだかんだでいつも一緒に居たからな。
「……あ、すまん。あまりにも意外な言葉で思考停止していた」
「まぁ、そうだろーな。俺も自分で言っててらしくないと思うわ」
「で。質問の答えだが、ない」
「へぇ。付き合いたくても、付き合えなかっただけじゃなくて?」
今なら、空が普通の女の子と付き合う困難さが分かる。
あの荒唐無稽な話を誰が信じるというのか。
って、それは俺も同じか。吸血鬼とか信じて貰えないだろうし。
「勿論、人に話せない事情もあるが……。
でもそこは、こういう環境に身を置くからこそ、パートナーを作るのは簡単なんだよ」
「え」
「相手を探したいなら退魔師協会の中で相手を見繕える。
退魔師の素質は遺伝が大きく影響するし、無用な混乱も招かないからな。
幼い頃から許嫁がいる事も多い」
──え、と。じゃあ、許嫁がいるから、付き合う気がなかった……って事か?
「空も許嫁がいるんか?聞いた事なかったぞ?」
もしも居たら、あれだ。ええとうんと、リア充爆発しろ。
「いや、いない。うちは本家筋じゃないし。
父さんと母さんが恋愛結婚だからか、俺に任せるとさ」
ほぉ。許嫁はいないのか。そっか。そっかー。
「って、それなら何で誰かと付き合おうと思った事がないんだ?」
「それは──」
空は視線を外して少し考えた後、「秘密だな」と言った。
なんじゃそりゃ。乙女かよ。




