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海と空のお話  作者: kn
18/33

十八 使いこなせ!……ない……。


吸血鬼の魔力タンクには二種類ある。


一つは、吸血鬼本人の持つ物。

もう一つは、他者から取り入れた物。


二つの魔力を混ぜて利用する事で、吸血鬼の権能を存分に揮えるようになる、らしい。中二病乙。


今はその『自分の魔力』とやらを認識する訓練中だ。

他者の魔力は、自分の中に存在しなかったせいか、簡単に掴む事が出来た。

胸の真ん中に感じる、少し暖かなものが、そうなのだろう。


ベッドで横になり、目を閉じて自分の内に神経を集中する。

む、むむむ、むむむむ……む、すぅ。


「寝るな」

「あいたっ」


ちょっと意識を手放し掛けたところで、空におでこをペシリと叩かれた。ひでぇ。

いや、教えて貰ってる身で眠るのが悪いんだけどさ。


「空ー、全然分かんねーよ」

「そうだろうな……少し手を借りるぞ」


空はお腹の上で組んでいた右手を取った。ちょっと骨張って大きな手は流石男の子、って感じだ。

繋いだ手から、空の魔力がじんわりと伝わって来た。

でもなんか吸血の時とは違って身体の中には入って来ない。表面でさらさらと波を打っている感じだ。


「俺の魔力の進入を阻んでいるのが、お前の魔力だ。分かるか?」

「あ、あー。なんか分かる。けど自分の意思じゃ動かせねーや」

「そうか。まあ、今は自分の魔力が認識出来ればそれでいいさ」


言われて感じ取れるようになれば、何故さっきまで気付かなかったのか分からないくらい、当たり前のように認識が出来るようになった。

あれだな、騙し絵みたいだ。

そんで、空が言っていた『誘蛾灯』の意味が分かった。自分の身体の外へ、魔力が漏れ出ている。


「ぐぬぬ、動かぬぇ……」

「魔力の操作は精神的な疲労が大きいからほどほどにな」


なんとか魔力を引っ込めようと悪戦苦闘する俺に、空は苦笑した。

そう言われても、幽霊が寄って来るとか言われて悠長な事はやってられんのだよ!うおおおお!


──あれ?


なんか、今、漏れた?

あ、いや。魔力は本当に不本意ながら、垂れ流し中なのでそっちではなく。


「ん、今日はもう止めるか?」


勉強机で本を読んでいた空は、唐突に起き上がった俺に少し驚いたようだ。


「や、ちょっと、トイレ」


俺まだ十七だぞ。尿漏れにはちょっと早くねーか?

なんかがタラタラと漏れ出す感覚に冷や汗をかきながら、トイレへ駆け込んだ。

パンツを下ろして便座に座り、よく確認をすると、パンツは真っ赤に染まっていた。

え……と、なんだこれ。無理に魔力を使おうとしたから、身体が壊れ掛けた、とか?


「あー?うぇ。そ、そら……空ぁーー!!」


焦燥感に駆られ、大慌てで空を呼んだ。

少し間があって、空がトイレの前まで少し急ぎ足で来てくれた。


「どうした、紙か?」

「なんか、血が出た!魔力の使い過ぎかも!?」

「なっ!?大じょ──いや、ちょっと待て、何処からだ?」

「ま、股から!」


空は、とても、とても大きく深く、溜息を吐いた。

なんだ。なんなんだ。やっぱり深刻な事態なのか!?

よく考えれば少しお腹が痛いかもしれん。


「今、母さんを呼ぶから」

「陽子さんならなんか分かんのか!?」

「ああ、何も心配はいらない。少し待っていてくれ」


と言って、トイレの前から離れていった。

空が心配はいらないと言ったからには、問題ないんだろうけど。くそう。ちょっと心細い。


---


うおおお、と心の中で叫びながら布団に包まっているのが俺です。

恥ずかしい。ほんと恥ずかしい。何が起きたかって、生理が来た、らしい。

生理って知ってるか?股から血が出るんだぜ!


大騒ぎした挙句、ヘルプに来てくれた陽子さんの一言が『今日はお赤飯ね』だ。

いつの時代だよ!って言いたくなったが、洒落にならなそうだから止めておいた。

症状が軽そうで良かったわねー、なんて言われても、俺にはよく分からん。初めてだしな。

でもこれで死ぬほど痛かったらメゲてたかもしれない。


しかし、生理かぁ。

前に言われてはいたけど、こうなると『子供が産める』って言葉に実感が湧くな……。

なんかこう、なんかこう、複雑な心境だ。


そもそも吸血鬼の子供ってどうなるんだろ。ハーフ吸血鬼ヴァンパイア

空は人間と妖狐のハーフって事になるんだよな。

って事は、空と子供が出来たら……人間と妖狐のクォーターで、吸血鬼のハーフか?

すげーハイブリッドで笑えてくるわ。

あまりにも笑えるから空に話したら、ぷい、とそっぽを向かれた。なんでや。

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