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海と空のお話  作者: kn
17/33

十七 一夜が明けて

目を覚ますと、普段とは少し違った景色が広がっていた

ので少し混乱する。

見知らぬ場所にいたわけではなく、俺の部屋なのは間違いないのだが、身体を起こして、ああ、と理解する。


空が家に泊まる時は俺は自分のベッドで、空は床に布団を敷いて眠る。

男子高校生二人がシングルのベッドで並んで寝たりしたら、狭苦しくて仕方がないからな。

昨夜も当然、ベッドと布団に別れて寝ようとしたのだが……映画のゾンビが頭にチラついて眠れなかったのだ。

空が寝息を立て始めたのでこっそりと布団に潜り込んで、あっさりと、いつの間にかに寝ていたらしい。


俺が起きた事に触発されたのか、空が薄っすらと目を開いた。こりゃ寝惚けてるな。


「俺、弁当と朝飯作って来るから、もう少し寝てろよ」

「んー」


空のおでこをさらりと撫でると、そのまま目を閉じて、再び眠りに落ちたみたいだ。

気温が上がるともう暑く感じるくらいの季節で、布団の魔力から逃れるのが楽になった。

冬場だと早朝の寒さに負けて、弁当じゃなくて購買でいいかな、なんて誘惑に駆られるのだ。


キッチンで昨日下拵えをした具材を仕上げるついでに、簡単な朝食を作る。

焦げ目のついた食パンに目玉焼きを乗っけて、サラダと牛乳と……って俺はこれで満腹になるが、空は足りないだろうなぁ。

炭水化物過剰で申し訳ないが、ご飯と納豆でも食べて貰おう。


あー、今日は早弁用の弁当も作らないと空が腹を空かすな。

今は俺も多少飯を提供してるけど、毎日空の胃袋を満足させてる陽子さん。尊敬するぜ。


「おはよう」

「お。おはよ。目ぇ醒めた?」

「ああ」

「もうすぐ出来るから」

「……何から何まで悪い」

「おー?気にすんな」


手をひらひらと振って応える。それに俺の方が世話になってるしな。


「海……それは端に置いて、だな。

これを言うのも酷かもしれないが、今は女なんだって自覚を、もう少し持ってくれ」

「んあ?」


空の意図が良く分からず、自分の姿をよく見直す。

寝間着は白と黒のパンダ柄。ボタンはしっかり上まで止まっていて、特に着崩れていたりもしない。

もちろん、ズボンを履き忘れているなんて事もないし。うーん、おかしなところはなさそうだ。

男の時はこんな寝間着なんて着てなかったし。

あれ。寧ろ、女だって自覚を持って馴染んできてね……?


「いや、見た目ではなくて……」

「???」


空がまたよく分からん事を言い出したぞ。


眉間に皺を寄せて、なんて説明するか悩んでいるようだ。

そういう皺って癖が付くって言うからほどほどにな。


「論より証拠だな……」


と一つ呟くと、言葉を続ける。


「大抵の事では動じないつもりだったのに、昨日で自制心に自信がなくなってな」

「うん?」


昨日ってどの辺りだろうか。ちょっと色々あり過ぎで検討がつかん。

そんな事を考えていると、空がカウンターを回り込んですぐ側まで歩いて来た。


「吸血の時は、もう仕方がないとしても、いつの間にか同衾するとか、あまり不用意に近付かれるとな」


背中と腰に腕を回されて、力強く抱き締められる。


「ん、お?」

「我慢出来ずに襲ってしまうかもしれん」


と、耳元で囁かれた。

お腹の奥にきゅっと掴まれたような感覚が走る。


「え、え」

「詳しい事は後で話すが、暫く泊まるから、気を付けてくれ」


そうして、空の腕の中から解放された。

あ。う。襲うってそう言うことだよな?

やべー。昨日の精神状態なら受け入れてたかもしれん。


俺は壊れかけの赤ベコ人形のように、カクカクと頷いた。


---


朝食を食べながら話したところによると、今の俺は退魔師協会の言う『怪異』を引き寄せやすい、らしい。

空から充分な魔力を得た為、怪異達にとって誘蛾灯や灯台のようなものなのだそうだ。

怪異(幽霊とか)が寄ってくる、と聞いて少し涙目になった。


じゃあ、空はどうなのか、と聞くと普段は魔力を抑えて不用意に刺激しないようにしているという。

俺が力を抑えられるようになるまでは、泊まり込みで守ってくれるという話で、暁さんや陽子さんも承諾済みだ。


そうして今は通学路の途中。二人で並んで歩いている。


「つか、怪異が出たとして、吸血鬼のが強いんだろ?

なんとかなるんじゃないのか?」


何となく守って貰うだけってのは癪だ。

やっぱり男なら自衛の一つも出来ないとな!


「確かに海の持つポテンシャルは高いが……お前、魔力の扱い方、分かるか?」

「何かこう、集中するとドバーン!とかなるんじゃないのか?」


ふっ、と空に鼻で笑われた。イラッとした。


「力が抑えられるという事は、力を自在に操れるって事だ。

自衛するにせよ、まずはそっちからだな」

「マジかー……」

「でも、力が操れるようになったとして、目の前に──そうだな、ゾンビが出たら海は倒せるのか?」

「んあ……た、倒せるし……」


空は優しげな目をして俺の頭に手を置いた。

いや、マジ倒せるし。夜じゃなきゃマジ余裕だし。


ところで、うちに泊まるんじゃなくて俺が空ん家に泊まりに行っちゃダメなんだろうか?

と疑問に思ったのだが、まぁ多分、なんか理由があるんだろうな。

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