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施設の目的

 無人の自走戦車の砲撃で、私は一度死んだ。よその国の施設の計略だったとはいえ、自分が操作するはずの機械に襲われたことで、私はこの和国防衛施設が信用できなくなってきた。


「私に軍人の仕事をさせたいのなら、この施設のことをキッチリ説明して」

 ボゥイの顔を下から睨みながら要求する。情報閲覧制限とか、知ったことか。


「わかりました。この施設の目的は和国の再生です。和国再建の砦です。

 世界規模の戦争で大気汚染、土壌汚染が深刻なものとなり、さらに放射能、そして生物兵器、化学兵器などの影響により、地上は人間を含めかつての生物が生存できない環境になりました」

 人類化学の結晶、ABC、アトミック、バイオ、ケミカルが地球の環境を変化するまで使って戦争をしてたらしい。



「この施設では、環境の再地球化を行っています。大気と土壌を解析し、改造し、再び人類が生息可能な環境を再現するために、サンプル採取、調査、環境改造のテストを行っています。和国再建のためには、この施設を守らなければならないのです」

「和国の人間の生き残りもいないのに?」

 私は和国国民じゃない。日本人だ。歴史で見れば、日本が改名して和国になったみたいだけど。


「施設のデータバンクには、かつての和国国民の遺伝子票が記録されています。環境の再現が終われば、遺伝子票からかつての和国国民を再生できます。もちろんシズネ様の遺伝子票も残っていますから、未来において、再建した和国の人間として、シズネ様も産まれることになるでしょう」


 未来、復活した人類の世界、そこで私が産まれる。産まれなおす。ずいぶん壮大な計画があるみたい。じゃあ、

「他所の施設、外国の施設?それがなんでウィルス送って邪魔したりするの。協力して再地球化とか、したらいいんじゃないの?」

「それは無理ですね。未だに世界戦争は終わっていませんし、先に土地と国を再建できれば、次の再生した世界で有利に立てます。なので外国の施設からの妨害が多く、また資源も戦闘兵器、防衛設備にまわさなければならないので、再地球化はなかなか進みません」


 なんというか、地球上の人間が絶滅しても、その人間の仲の悪さを機械は忠実に行っている。ただ、他所の国にも施設があるのなら、

「他所の施設にも、私やウキネのような人がいるんじゃないの?その人達と連絡は取れないの?」

 機械同士がプログラムのせいで戦争してても、私達は話し合いができるかもしれない。ボゥイは、

「無理です」

「なんで?」

「憲法に違反しますので」

 ………………また、出た、憲法。

「和国は憲法で外国との戦争を放棄しています。外国への侵略も認めていません。外交も貿易も戦争の火種になる可能性があるため、我が国では外国との交渉のすべてを法律で禁止しています」

 あぁ、ケンカにならないように口を聞かないようにしてるんだ。


 休憩室に戻って、お茶にしよう。施設の目的は解ったけれど、スッキリしない。

 休憩室にはウキネがいて、タブレットでなにか見ている。

 私はウキネの正面の椅子に座ってタッパーを開ける。中にはこの前作ったチーズケーキの残りが入っている。ウキネに、

「食べる?」

「もらおう。シロ、コーヒー」


 私はコーヒーを淹れに移動するシロと側に立つボゥイを見る。

「この施設の機械って、ばかなんじゃないの?」

「機械は指示されたことをするだけだ。機械が馬鹿に見えるなら、それは作った人間が、馬鹿なんだ」

「人間が私達2人しかいないのに、憲法だ法律だって、なんの役にも立たないどころか邪魔にしかなってないのに」

「昔の和国で、憲法こそが和国の精神と、もてはやされて大事にされてた時代の名残だ。人間が居なくなっても、自分たちが作った機械にまで組み込んで守らせるほどに、過去の和国人にとっては大切なことだったらしいな」

「これで、地上の再地球化なんて、いつできるの?」

「ふむ」

 ウキネが右手で左手の内側をなぞって操作する。休憩室の壁に地上の景色が映し出される。


 灰色の大地、濁った灰色の空。どこにも生物がいないように見える。

「昔に比べたら、少し植物が増えたか、あとは昆虫がいるな」

「なんで、他所の国の施設が邪魔をするのよ」

「それはするだろう。自分の国だけ復活させて、他所の国の復活を邪魔すれば、地上を一国支配できるからな。だから、和国もやっているぞ。自国の汚染物質を他所に投棄したり、土壌を改造するナノマシンを分解するナノマシンをばら蒔いたりな」

 お互い様、だった。


「この地上の環境に適応したナメクジやトカゲから見れば、人間の施設は自分たちの生存環境を改造する、旧人類の負の遺産というところか」

「ナメクジとトカゲが、新人類なの?」

「知恵があって道具もつかうぞ」

「じゃあ、話し合えれば仲良くなれるのかな」

「和国は憲法由来の法律で、外国との交渉は禁止だから、無理だな」

 ……はーーーーー、


「この地上の風景も、300年前とさほど代わり映えしないな」

「300年前もこうなんだ。じゃあ、300年も地上の再生は進んでないんじゃない」

「そうなるな」

「……300年前から、この景色を見てるの?」

「私が軍人になってそのぐらいだな」

「ウキネ、300歳、越えてるんだ」

「死んでクローン再生の度に、肉体年齢は16歳になるからな」


 300年かぁ、外の灰色の景色を眺める。ウキネは300年、この景色を見て、この施設で生きてるんだ。チーズケーキを指で摘まんで食べるウキネの横顔を見ても、300歳を越えているようには見えなかった。


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