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命色ノ贄  作者: 卯ノ花 腐(くたし)
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第七話 誰が為の独白 二

 あまりにも突然の告白にあっけに取られて、枯れた音が喉を鳴らした。


「そもそも、この尸高校はそのためにあるといっても過言じゃない。この昨神市は他に比べ死蟲が多い。もちろん表沙汰になっていないのは、うちの教師陣と学校が内々に処理してるからだ。ここみたいな学校は、少ないが各地にある」



「どうして警察や、政府は黙っているんですか?」


「そりゃあ、認めてないからだ。認めてしまったら不味いんだろうよ。その為の俺らだってわけだ。体のいい身代わりみてぇなもんだ」


 そう吐き捨てるように言った伊織は、苦々しげに顔を顰めた。



「もうこんなもんでいいか?」

 警察や政府の話が出てきた辺りから機嫌が悪そうな伊織に、それ以上質問する事をやめた。


「今回の件も俺が片付けておくから、てめぇらはさっさと帰って寝ろ。明日遅刻すんじゃねぇぞ」

 そう言い残し、伊織は夜闇に消えるようにその場を去った。



「俺は入学する前から尸高校のことは知っていたんだ。教師が丕業持ちのことも。だからあの時、八夜の姉さんは心配いらないって答えたんだ。まさか自分達の担任がくるとは思わなかったけどな」

 そう言い、苦笑いを浮かべる阿南。





「それでも......それでも死んだ人はいた」

 今日の出来事を頭の中で反芻していた時、不意に口から出た。それが自分の言葉であることに一瞬気が付かなかった。


「あぁ」

「いや、別に阿南を責めているわけじゃないんだ。ただ俺は日常を......そう、日常を享受したかっただけなんだ」

「もう叶わない、と?」




「わからない。一度に沢山の事が起こりすぎていて。俺は何を選べば正解なんだ。どうすれば日常に戻れる!今日見たことを全部忘れたらいいのか!無かったことにして、また同じといえるのか!わからない......わからないんだ。この選択が、きっとこれからに大きく関わってくる。こんな重要な選択肢が、まさか今日来るなんて知らなかった。知りたくなかった」



 阿南に対して言っているのか、自分に対してなのか。胸にこみ上げてくる恐怖と、重責に耐えられそうにない弱音が、知らず知らずのうちに口から出ていた。

 

 そう、きっと俺は恐れていたんだ。あの蚕が、蚕に殺された人が、それを当たり前のように処理していた阿南が。今、その抱いた恐怖が自身の日常と化そうとしている現実が。


「怖いんだろう、八夜。俺が、今まで見えてこなかったものが、見てこなかったものが、選択が。人が平等に持っているのは、輝かしい未来でもないし、安寧を享受できる日常でもない。苦悩と、後悔にまみれた過去だけだと、俺は思う。確かに、俺は今日かつて人であったモノを殺した。実際には既に死んでいたけれど。それでも、たとえ生きていたとしても、俺は変わらず殺していたと思うよ。それは俺が、俺自身の未来のために正しいと思う行動だったから。正しいと思う行動は常に正しいとは限らない。生きているとそういった自問が付きまとってくる。八夜、お前はどうだ?」




 出会って僅かであったが、阿南の様々な顔を見てきた。楽しそうに笑う顔、決意を定めた顔、困ったような顔、相手を殺した時の顔。今の阿南の顔は、見たくない顔をしていた。その、どれよりも。


 俺は......おれは。


「なぁ八夜、俺と一緒に強くなろう。きっと今日も、もっと強かったらもっとたくさんの人を救えたかもしれない。八夜だって、丕業を使えるようになっていればこんな後悔をしなくて済んだかもしれない」


「それも、正しいと思う行動か」


「あぁ後悔しない事なんてない、生きてる間は。後悔しなかったかどうかなんて、死んだ後にしかわからないさ」


 その問いを聞いて胸にストンと何かが落ちる。息を吐く。


「......とりあえずは乗ってやる」

 こいつが言った事全てを肯定したわけじゃない。俺が全て間違っているとも思っていない。


「おっ!そうこなくっちゃな!よし、親睦を深めるためにカラオケにでもいくか!」

「行かん。帰る」


 けど少しだけ、ほんの少しだけ。

 あの日以来、俺の周りに張り付いていた透明な壁が、薄くなったような気がしたんだ。

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