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魔族溺愛症の魔王様は、お嬢様の下僕になりました!  作者: 亜桜蝶々
三章・共生都市国と忍び寄る影
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尋問?

予約投稿に失敗してました…更新遅れてしまって申し訳ございません…!!

「あっぶねぇ……まさか窓から投げられるとは思わなかった……僕じゃなければ死んでいた……」


 空中で複数回にわたって宙返りのように回転した後、芝の生えた地面に手や足をつくことなく軽やかに着地する。なんとなくやらなければ駄目だと思い、直立不動の体勢から両手で空を仰いだ。さながら大歓声を受ける英雄のように笑みを浮かべるのはファンファンロ。


「何馬鹿なこと言ってんだいあんたは」


 それを偶然歩いていた魔王城の廊下から窓越しに見ていたナターシャが、窓を開けつつ同僚に呆れたようにツッコミを入れる。傍に従っていた女の蜥蜴人リザードマンがファンファンロの姿を見て思わずクスリと笑った。服の袖で口元を隠しながらだが。


「あんたって、頭は良いのに頭おかしいよねぇ」


 溜息にも近い呆れた声で、窓台に頬杖をつきながら語りかける。しかし視線は天井の方へと向けられており、頭部の蛇達が焦ったようにせわしなく蠢いているのはアランの怒りを感知したからであった。ファンファンロは頭だけ振り向いて気の抜けたような表情で答える。


「おやナターシャ。こんなナチュラルに喧嘩売られたのは久しぶりだよ。まぁ買わないけど姫さ……お嬢さん見てない?」

「あんたが魔王様怒らせたのかい……珍しく喧嘩を買うそぶりを見せる暇もないなんて、何をしたらそんなに怒るのさ……ひめ……お嬢さんならたぶんマーキュリーのところだけどさ」


 「ん、マーキュリーのところか」と、一人呟く。相も変わらず頭部以外の肌を露出していない恰好で、出歩いているのは花も恥じらう美人。そんな同僚の方へと体の向きも変えつつどう説明するか悩んでいると、同僚はファンファンロが喋る前に質問をしてきた。


「ひ、お嬢さんを探してるってことはあの子絡みの事かい? 泣かしたりでもしたんじゃ無いだろうね」


 ずずいと窓から体を乗り出してファンファンロに質問するナターシャ。前かがみになっているせいで女性らしい体のラインがひどく目立っているため、背後では慌てて秘書が体の後ろに隠していた。夫以外に肌を見せないようにと年中暑苦しい恰好をしている割に、無意識に無防備な体勢を取ることがよくあるナターシャである。彼女が妙な視線にさらされないように秘書達がフォローしている光景は、魔王城でよく見ることが出来るものであった。

 それはともかく妹のような感覚でお嬢さん、もといフェアの事を見ているナターシャからすれば、返答次第によって拳骨で殴ろうかとも思う事態である。ファンファンロは両手をあげて降伏の意のようなものを示した。


「ないないない。無いってば。いくら僕が自分の満足のために人を陥れるような性格だからって、魔王様に危害が及ぶようなこと自分からするわけないじゃないか」

「自分で性格悪いことを理解してるんだから、あんたってのは本当にタチが悪いんだよ。まったくもう……それにしてもなんで怒ってるんだい。はぐらかさないで、ちゃんと答えな」


 ファンファンロは別にはぐらかしているつもりでは無いんだけどなぁ。などと考えながらメガネの縁から裸眼を覗かせて睨んでくるナターシャを見つめ返した。普通ならばメデューサ族の瞳にかかった魔力によって体が徐々に石化していくものなのだが、ファンファンロ程の強力な存在になればわずかに体の動きが鈍くなる程度である。そもそもの生物としての格の差が違うのだ。


「あー……まぁ話すけどさぁ。とりあえず仕事終わったの?」

「ん……これ私の机の上に置いといて……うん。とりあえずそれが終わったら休んで良いよ。ありがとうね」


 ナターシャは後ろの秘書の居る方向に体を向けると、秘書の顎付近に手を添えると犬の顎でも撫でるように軽く撫でた。秘書は軽く目を閉じて気持ちよさそうな反応を見せ、蜥蜴ではなく犬なのではないかと思わせるように尻尾を振った。


「ハイッ! お言葉どおりに力いっぱい休みます!」

「休みなのに力いっぱいでどうすんだい。力も気も抜いて休みな」

「はい! わかりました! それでは失礼いたします!」


 元気よくナターシャに挨拶をして模範的な素晴らしい敬礼を見せると、足早にナターシャのもとから離れて行く。それを見送ったあとすぐに後ろを向き、ファンファンロにマーキュリーの居る最上級看護室に向かいながら説明しろとナターシャは促した。


◆◇◆◇


 その頃、現世旅行中の閻魔はというと。


「ちゃんと自分の罪を認めろ! そうすれば罰金だけで許してやるから!!」

「嫌だからただの正当防衛だって……そろそろくどいぞ君……」

「あぁもう頑なな奴だな! あの兄弟も許すと言ってるんだ、お前も謝れば問題を起こして哨所の業務を妨害した分の罰金さえ払えば解放すると言ってるんだぞ! というかお前を捕縛している者に対して君とはなんだ君とは!!」


 机に体を乗り出した女性にずっと怒鳴られ続けていた。気弱な者ならその勢いに気圧されそうな程に吠えており、現に店の外に出ると弱気な性格になる天照大御神アマテラスオオミカミがその声に驚いて隣の閻魔に縋り付いている。

 なお顔を見られないように友人のパールヴァティーに貰ったショールをすっぽりと頭に被っているため、微妙に涙目になっているのは女性にも閻魔にも気づかれていない。


「……僕もそうしたいところはヤマヤマなんだけどねぇ……職業柄嘘を付けないもんでねぇ……職業柄というか職業病というか……」

「なんだ、お前は裁判官か弁護士か何かなのか?」

「あってるとも言えるし違うとも言えるし……まぁそれに類似した職業かなぁ……」


 アランやその側近などならばともかく、現世の人々に自分の仕事を正直に伝えたところで信じて貰えないと考えた閻魔はどことなく言葉を濁した。

 女性はそんな閻魔に一度は眉を顰めたものの、不審者を町に入れないように働く哨所の責任者ともなれば相手の言ってることが嘘か真か判断するのもある程度得意である。言葉を濁してはいるが、嘘をついているわけではないと女性は判断して「そうか」と問い詰めることはしなかった。

そうは言っても、閻魔を解放するわけでは無いのだが。


「それならなおの事己の罪を認めるべきだろうが! なぁ、お前。私はさっきから間違ったことでも言っているのだろうか!?」

「いや……うん……発言自体はなんにも間違ってないんだけど、罪を犯したのは僕じゃなくてあいつらだって何度言えば」


 左右に立っている警備員の事など気にもかけず、困ったように頬を掻きながら身じろぎする閻魔。責任者の女性は頭こそ良さそうだが見るからに非力そうな体であり、聴取している者が悪人だった場合に拘束をするためなのか、閻魔達の隣にはマッスルボディなタフガイ警備員二人が陣取っている。

 腰には魔法剣も帯びているためかなりの威圧感があるはずなのだが、アラン曰く知人の中で三本指に入るほどズ太い神経を持つ閻魔には至極どうでもいい存在でしかなかった。なお強い生命の気配にそこそこ敏感で怖がりな天照は内心怖がっているのだが。


「何を言っている! ならばなぜあの兄弟はぐったりとしているんだ! 

「君に半日は根掘り葉掘り聞かれまくったからだろ。騒ぎの事だけならともかく兄の事をどう思うだの誕生日には何をあげただの、挙句の果てには他に好きな“男”は居るかとか一生兄弟二人で過ごすのかとか自分の趣味趣向の為に聞いちゃってまぁ。職権乱用も大概にしとかないと後で自分の首を絞めることになるよほんとに」


 目の前の女性が抗議する間もなく閻魔は早口で説教をする。喋る暇があれば性格的にすぐに反論をしてくるだろうと踏んだからだ。そのおかげか口を開こうと何度も口をもごもごとしていたものの、論破でもされたのか「ぐむぅ……」と唸って女性は口をつぐむ。


「……ま、まぁお前の話は私への忠告だと思って聞いておこう」


 気が強いためかはたまた哨所の責任者という役職ゆえか、案外すんなりと話を聞きつつも返答はどこか上から目線である。その様子を見た警備員の一人が軽く噴き出していたが、女性に一睨みされて押し黙った。


「それにしても……」


 責任者の女性はちらりと閻魔の隣で蠢く何かの布を被った生き物を見る。オシャレなのかかなり良い生地の布を被っているようで、わりと裕福な夫婦……二人組に見えた。というのも女性はおろか哨所の者達は誰も閻魔の横で縮こまって震えている天照の顔を見ていないのである。

 仕事としては確認しなければならないのだろうが、魔力とはまた違う別のモノから悪意も敵意もない善良な者だと感じていた。

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