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デスシャイン

 デスシャインと言えばこの夏休みにレイクシアのダンジョンでアイが手に入れた魔剣。


 レアリティーで言えばウィリアム王子が手にしているエクスカリバーの方がランクは高いけど、その差は1ランクで短剣としては最高クラスの武器だわ。


 アイが練習試合で手にしていた短剣がデスシャインだったら練習剣ぐらい簡単に切断できるのも納得ね。


 ウィリアム王子の顔は沈み込んでいた。


「俺がアイに襲われても返り討ちとまでは言わないが自分の身は自分で守ることが出来るけど、アイビスが襲われたら無事でいられるのか?と考えると心配で心配でいてもたってもいられない」


 ウィリアムがそこまで心配してくれるのは嬉しいけど、その心配をわたしは笑い飛ばす。


「アイはわたしのことをベタ惚れみたいなので、わたしを襲うなんてことは絶対に無いと思いますよ」


「それならいいんだけどな」


 アイに限ってわたし牙を剥くことは絶対に無いと断言できる。


 むしろわたしの無能がバレて愛想を尽かしたウィリアム王子に牙を剥かれる可能性の方が遥かに高いと思う。


 アイの話はそこで終わったんだけどウィリアム王子の話はまだ続くようだ。


 ウィリアム王子は襟を正した。


「2学期と言えば国家対抗戦があるんだけど、俺のパートナーとして出場してくれるよな?」


 わたしは思わず声が裏返った。


「こ、国家対抗戦?」


「国家対抗戦と言っても戦争じゃないぞ」


 ウィリアム王子は驚きで目を見開くわたしの顔を見て話を続ける。


「他国の学園の生徒と戦ってNo.1の学園を決める試合なんだ」


 ウィリアム王子は国家対抗戦の概要を説明してくれるけど、リルティマニアのわたしはそんなことは知っている。


 わたしが驚いていたのはそんな事じゃない。


 『国家対抗戦』と言えば2年生に進級して発生するイベント。


 しかも個別ルートの中の限られたルートだけで登場するイベントの筈だったからだ。


 1年生で発生するイベントじゃない。


 わたしが腑に落ちない表情をしていると、ウィリアム王子は国家対抗戦に1年生が参加することになった経緯を説明する。


「本来は2年生の中から選ばれた生徒が参加する学園対抗のイベントなんだが、リルティアの国境に設置してある魔道塔の結界の消耗が想定以上に激しくて魔力が尽きてしまい、2年生は魔道塔のメンテナンスに全員が動員されてしまって国家対抗戦には1年生が参加することになったんだ」


 なるほど、そういうことだったのね。


 ウィリアム王子によると塔はほぼ新造となり、再建には半年ほど掛かるそう。


 騎士団や魔導士団だけでは手が足りず、結界の魔晶石の設置補助に2年生が2学期丸々動員されることになったそうだ。


「いきなりの参加依頼で申し訳ない。こんな事情もあるので優勝できなくても誰も文句は言わないので気軽に参加して欲しい。参加してくれるかな?」


「わかりました。ぜひ参加させてください」


 わたしは国家対抗戦に選抜メンバーとして参加することとなった。


 *


 ウィリアム王子の部屋を出るとアイが心配そうに見つめてくる。


「どんな話でした?」


 隠しても仕方が無いので部屋の中で起こったことを素直に話した。


「国家対抗戦ていう別の国にある学園の生徒と戦う競技会があるからそれに参加して欲しいと言われたわ」


 それを聞いたアイは明らかに驚いた表情をしていた。


「国家対抗戦て2年生が参加する試合なんじゃないんですか?」


「詳しいわね」


「学園の年間行事カレンダーで見ました」


「本来は2年生が参加するらしいんだけど、今年は2年生は出れないのでわたしたち1年の中から選抜して出ることになったらしいの」


「そうだったんですか」


「アイも参加する?」


 それを聞いたアイは少し考え込む。


「ぜひ参加します……と言いたいところなのですが、アイは参加しません」


「あら? アイなら大喜びで参加すると思ったんだけど?」


「参加枠は2人なのでアイの参加する枠はありませんし、アイが参加したらアイビス様の活躍を堪能出来ませんから観客として見守ることに専念します」


 いつものアイだった。


 *


 『国家対抗戦』


 乙女ゲームの「リルティア王国物語」では存在を知っていたけど、どんな試合なのかはよく知らなかった。


 リルティアで登場するルートは脳筋組のチャールズ王子ルートとブラッドフォードルートで登場するんだけど、ゲームでは試合と言ってもマリエルとのラブラブな描写ばかりで試合の細かいルールとかは全く描かれて無かったのよね。


 試合まではまだ時間が有るのでルールの把握と試合内容を調べて、大会の特訓をしようと思ったの。


 職員室の先生に試合のことを聞いてみた。


「国家対抗戦のルールだと? 先生は参加したことが無いので細かいことは知らないんだけど、参加者には試合の直前にルールや日程を記載した小冊子が配られるようだぞ」


 試合の直前に試合のルールを知っても特訓が間に合わない。


「去年のでいいのでその小冊子を見せて貰えませんか?」


「小冊子は参加者に配られるものなので先生は見たこともないんだよ」


 なんですと!


 それじゃあ試合を想定した練習が出来ないじゃないですか!


 いきなりのぶっつけ本番はキツイわね。


 練習なしじゃラインハルトの小屋の前でやった試合と同じくボコボコにされる未来しか見えない。


 わたしが気落ちしているのを見かねて先生がポツリと言った。


「もしかしたら図書館に国家対抗戦のことが書かれた本が置いてあるかもしれないな」


 放課後、国家対抗戦の本があるのか確認に来ましたよ、図書館へ。


 昼休みと違って図書委員の生徒が居たので、どこにあるのかわからない本を探すという無駄な手間を掛けずに聞いてみたわ。


「国家対抗戦というものが書かれた本がこちらにあると聞いたんですけど、貸して頂けますか?」


「国家対抗戦ですか?」


「ルールとか書かれている本があれば是非とも貸してください」


 図書委員の生徒は蔵書リストみたいなのを調べわたしを案内してくれた。


「あるならばこの棚の中にあるはずです」


 調べてみると小冊子は無かったけど、薄めの会報みたいなのが見つかったわ。


『国家対抗戦結果(第16回)』


 これが最新版で去年の試合結果と共にルールが書かれていたわ。


 ルールは2対2の団体戦。


 2人のチームで団体戦を名乗っていいのかは悩むところだけど、元がリルティアの個別ルートのイベントだからね。


 あくまでも個別ルートに入った攻略対象とのラブラブなイベントでしかない。


 これが6人チームとかだったら、他の攻略対象まで参加してくる可能性もありカオスな状況になって面倒くさいことになってしまう。


 チームは2人で共闘して戦ってもいいし、敵と1対1で戦ってもいいそうで細かい決まりは特にないみたい。


 リルティア王国物語では攻略対象と一緒に戦う共闘2対2形式だったから、敵と1対1で戦う事も出来るとは意外ね。


 試合は剣でも魔法でもなんでも使ってもいいみたい。


 それならわたしはやっぱり魔法で参戦かな?


 剣じゃウィリアムの足手まといにしかならないものね。


 去年の試合を見た感じ勝ち抜き戦で3回勝利すれば優勝みたい。


 試合まではまだまだ時間があるからじっくりと練習を重ねればいいわね。


 わたしが図書室を後にしようとすると、女生徒の噂話が耳に入って来た。


「魔道塔のメンテナンスに動員された二年生の援軍が壊滅したそうよ」


 なにそれ……。


 そんなイベント、リルティマニアでも知らない。

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