ウィリアム vs アイ
アイとウィリアム王子の試合の番になった。
ウィリアムがわたしを叩きのめしたことにアイが激怒し、二人の関係は今や最悪。
二人とも思う所がある様だ。
ウィリアムがアイに言い放つ。
「アイにはどちらが上の存在かハッキリとわからせた方がいいようだな」
アイも負けてはいない。
「お前は敵。アイビス様の仇を討つ!」
とても仲間とは思えない仲の悪さだ。
わたしは頭に血がのぼる二人をなだめた。
「アイもウィリアムもそんなに興奮しないで落ち着いて!」
二人にはわたしの言葉なんて全く届いてなかった。
*
試合が始まった。
「仕留める!」
最初に動いたのはアイだった。
ウサギを狙う隼のような速度で襲い掛かる。
しかも、今までの直線的な動きとは違う、曲線的な動きだ。
これは一発で決まるんじゃないかと思ったけど、わたしはウィリアム王子を舐めていた。
アイの攻撃を楽々受け流す。
アイは不意打ちを失敗したとわかると直ぐに離脱するが、ウィリアム王子も負けてはいない。
離脱するアイの背後に追いついて襲い掛かる。
アイは速度そのままで体幹のひねりを生かした動きで振り向き、その攻撃を離脱しながら受け流す。
そして逆にウィリアム王子に反撃した。
それはまるで、夏休み前に見たマリエルとブラッドフォードの練習試合を達人レベルで昇華させたような動きだった。
わたしは思わず心の声が口から洩れる。
「アイもウィリアムもこんなに動けたの?」
わたしの横に立っていたラインハルトもこの動きには度肝を抜かされたようだ。
「こんな戦いは今まで見たことがない……」
観戦していたブラッドフォードもチャールズ王子もマリエルの3人ともあごが外れるほど口があんぐりだ。
試合は段々とヒートアップし、二人の姿を目で追うことが厳しくなってきた。
もうアイらしき影とウィリアムらしき影がしか見えない。
「なんなのよ、この戦いは?」
わたしもこんな戦いは見たことない。
なんで二人はこんなに速く動けるのよ?
この試合の前まで見せていた今までの二人の動きはなんだったのよ?
こんな動きをするウィリアム王子が試合相手だったら、わたしは1秒ももたなかったわ。
アイが見せたマリエルやブラッドフォード戦の素早い動きもあれは実力を隠した偽りの姿だったの?
わけがわからないというか、なにも信じられなくなってきた。
*
しばらく試合を観戦しているとブラッドフォードが怪訝な表情をした。
「動きが速すぎてよく見えないんだけど、王子の持っている剣は練習剣じゃ無いんじゃないか?」
たしかに言われてみると……練習剣じゃない様に見える。
練習剣みたいな無骨な感じじゃなく、多数の宝石を埋め込んだ煌びやかな感じがする。
でも、余りの速さで判別できないから断言できないわね。
チャールズ王子も眉を顰める。
「あれって宝物庫にあった宝剣なんじゃないか?」
宝剣と言えば様々な魔法石を剣に埋め込み無数の魔法の力を付与した魔法剣の最上位レアリティーの物だわ。
わたしもレイクシアのダンジョンで貰った魔法剣を持ってたりするんだけど、宝石は片手で数えられる程度しか埋め込まれていない。
「真剣を使っているだと!」
ブラッドフォードの話を聞いた審判役のラインハルトは驚き試合場に飛び込む。
「やめ! やめ! やめーい!」
すぐに二人の試合は中断されたわ。
ウィリアムの手にはチャールズ王子が指摘したとおり宝剣が下げられていた。
それはわたしにも見覚えのある剣だった。
乙女ゲーム『リルティア王国物語』の最強の剣『聖剣エクスカリバー』だ。
試合前は練習剣しか持ってなかったのに、そんなものどこから持ち出したのよ?
ましてや、アイの攻撃に押されたからって聖剣エクスカリバーを持ち出すなんてどうかしてる。
王子だからと言って卑怯じゃない?
少し言ってやらないと!
「なんで聖剣なんて持ち出すのよ!」
「真剣を持ち出したのはアイの方が先で、俺は――――」
「アイは真剣なんて使ってないわよ」
わたしがアイが手にしている模擬刀の短剣を指さすと王子は明らかに動揺している。
怒り心頭な者がもう一人いた。
ラインハルトだ。
ラインハルトは見たことないほど顔を真っ赤にして怒っている。
「練習試合なのに真剣を持ち出すバカがいるか!」
「練習剣が折れてしまったので仕方なしに……」
「折れたにしてもその時点で中断して新しい練習剣を変えればいいだけだろ。そんな物騒な物を持ちだして、アイにケガでもさせたらどうするつもりなんだ。俺の小屋を事故物件にする気かよ!」
「すいません」
「その剣は俺から王城に戻しておく」
ラインハルトはウィリアム王子からエクスカリバーを取り上げた。
ウィリアム王子が新しい練習剣を手にすると、ラインハルトが怒鳴りつける。
「なにをしてるんだ!」
「なにって、剣を取り換えて試合の続きをしようと……」
「試合は王子の反則負けで試合は終了だ!」
王子はそれを聞くと唇を噛み締め悔しがっている……。
結局、試合はアイの勝利となり試合は終了した。




