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ウィリアム王子との試合

 次の試合はわたしとウィリアムの番になった。


 ウィリアム王子を見るとすごく楽しそうだ。


「アイビスとは一度本気で戦ってみたかったんだ」


 そう言えばウィリアムとは今まで本気で剣を交えたことが無かったわね。


 ウィリアム王子って強いのかしら?


 どのぐらいの強さなのか興味が有るわ。


 乙女ゲームの『リルティア王国物語』でウィリアム王子と戦うと言えば断罪イベントしかなかったのよね。


 戦うと言ってもイベントイラストと文章で描かれていただけなので、強い事は強いんだろうけどその強さは今のわたしより強いのかはわからない。


 ゲームではアイビス(わたし)が剣で断罪に抗うけど、全く歯が立たなかったって描写しかなかったわ。


 元々アイビスって魔法が得意なのに、なんで剣で王子に立ち向かったのかもよくわからない。


 それに断罪イベントは学年末の春に起こるイベントだから、今よりずっと強くなっているはずなので今のウイリアム王子は遥かに弱いはず。


 今のウィリアム王子の強さを計るにはあんまり参考にならないわね。


 ウィリアム王子は青春物の漫画の登場人物みたいに清々(すがすが)しい顔をして声を掛けてくる。


「俺たちは正々堂々と戦おうな」


「はい!」


 正々堂々戦おうという提案を断る理由なんてない。


 姑息な手段を使ったらウィリアムに嫌われるのは確実で、愛相を尽かされて断罪ルートが復活するかもしれない。


 少しの準備時間を挟んで試合が始まった。


 ウィリアム王子はいきなり距離を詰めてくるような無茶なことはしない。


 あくまでも距離を取り慎重にわたしの隙を狙ってくる作戦だ。


 それならば、わたしから仕掛けて隙を見せた方がいいわね。


 わたしは踏み込みつつ突きを放つ。


 当然、隙が生まれるけどこれは作戦。


 ウィリアムが隙を狙って襲ってきたら逆に仕掛ける作戦よ。


 でもウィリアム王子はその攻撃を受け流しせずに、距離を取った。


 わたしの作戦はお見通しか。


 正面から打ち合ったブラッドフォードとチャールズ王子の脳筋二人組とは違うわね。


 そうとなれば取る手は二択。


 今まで通り攻めまくってウイリアム王子がミスをするのを期待して攻め続けるか、ウイリアム王子と同じく徹底的に避けまくって隙を突く作戦のどちらか。


 そしてわたしが取ったのは攻め続ける方よ。


 避けまくるのは動いていないと気が済まないわたしの(しょう)に合わない。


 わたしは休みなく切り込む。


 でもウィリアム王子はわたしの攻撃をいとも容易(たやす)く避けまくる。


 しかも攻撃すればするほど、鋭く避けた。


 ウィリアムを見ていて気が付いたわ。


 わたしは息が上がりまくっているのに王子は全く息が上がってない。


 わたしは全力で攻撃しているのにウィリアムは最小の動きしかしていないんだから疲労度に差がつくのも当然よ。


 これってスタミナ切れでわたしが負ける未来が見え始めたってこと?


 もしここでウィリアム王子に無様(ぶざま)に負けたらこれが引き金になって、王子に愛想を尽かされてバッドエンドルートに向かう可能性があるかも……。


 わたしはウィリアム王子に華麗に勝って、王子が憧れる存在じゃないといけないの。


 だから負けたくない。


 わたしはウィリアム王子の避けムーブを止めさせるために、汚いやり口とはわかっていても(あお)り始めた。


「これがあなたの言っていた正々堂々と戦うってことなの? 逃げてばっかりで卑怯(ひきょう)以外のなにものじゃないじゃない!」


「俺が卑怯だと?」


 効いてる効いてる!


 わたしの煽り文句が完璧に心に刺さったわ!


「逃げてばっかりでちっとも戦う気が無いじゃない」


 わたしはトドメを刺しにいく。


「せっかくウィリアムと本気で剣を交わせると思ったのに期待外れよ!」


 それを聞いたウィリアム王子はハッとした。


「こんな戦い方は俺の望んだものじゃない。マリエルに勝つことにこだわり過ぎてしまった」


「じゃあ、逃げずにかかって来なさいよ!」


「お、おう!」


 わたしの煽りに乗って来た!


 正面から切り合えば絶対にわたしは負けない!


 わたしに向かって飛び込んでくるウィリアム王子。


 わたしはほくそ笑む。


 勝ったわ!


 わたしは飛び込んで来るウィリアム王子のわき腹目掛けて渾身の一撃を放った。


 それは全力を込めた一撃!


 目にも止まらない速度でウィリアム王子を仕留めた!


 ウィリアム王子はわき腹を押さえ、ダンゴムシの様に丸まった!


 勝った!


 となるはずだったんだけど……。


 痛ったー!


 わたしのわき腹に激痛が走る!


 痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!


 わたしの剣が当たる前にウィリアムの模擬刀がわたしのわき腹にめり込んでいた。


 痛みでダンゴムシの様に丸まるのはわたしの方だった。


 ウィリアム王子は利き手と反対の左手で持った短剣でわたしの攻撃を受け流している。


 そしてわたしのわき腹にガツンと激しい一撃を放ったらしい。


 すぐにラインハルトの判定が出た。


「勝者ウィリアム!」


 ウィリアム王子は勝利を喜ぶことも無く、すぐにポーションを取りに行って抱き抱えてわたしに飲ませてくれた。


 痛みはすぐに消え去る。


 普通、試合に勝ったなら自分の勝利を喜んで相手のことなんて気にしないのにわたしの介抱を優先してくれた。


 こんなに気が利く男の人って……惚れるしかない。


「ごめんな、マリエル。マリエルが本気で戦いたかったみたいなので手加減抜きで攻撃してしまった」


 わたしは首を振る。


「いえ。本気で戦ってくれて感謝しかないです」


 わたしはウィリアム王子に抱きつき耳元で呟いた。


「わたしに本気で向き合ってくれたウィリアムが好きです」


 それを聞いた王子は顔を赤らめて恥ずかしがるのだった。

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