消化不良
放課後、わたしたちの剣の師匠的ポジションのラインハルトの小屋に集まったわ。
メンバーはウィリアム王子、チャールズ王子、ブラッドフォード、マリエルとアイとわたしでいつもと変わらないメンバーだわね。
お土産を渡したり、剣の上達を見て貰ったり、夏休み中に起こったことをほうこくしていたりしていた。
わたしは結構色々な事が起きたので、『そりゃ、なにかに呪われているレベルだわ』とラインハルトが驚いていた。
今日の測定を思い出してブラッドフォードがぼやく。
「今日の体力測定は夏休みの成果を披露しあって俺たちで戦えると思ったんだけど、試合をすることも無く終わって思いっきり肩透かしを食らった感じだったな」
チャールズ王子も頷く。
「だよなー。俺もパワーアップしたお前たちと全力で試合をしてみたかった」
すると、お菓子を配っていたラインハルトの奥さん『マリーさん』が呟いた。
「それなら、今からみんなで試合をしてみたらどうです?」
その言葉に驚く一同。
「えっ?」
「試合なんてやっていいのか?」
みんなの驚きの声がハモる。
試合は武闘会みたいな、なにかの行事が無いとやったらいけないものと思い込んでいたわ。
ラインハルトさんも頷いた。
「そうだな、日頃の剣の鍛錬の成果を確認する為にも、たまには練習試合もいいだろう」
「マジか?」
「うおお!」
それを聞いてブラッドフォードもチャールズ王子もテンション爆上がり。
「どうせなら総当たりでやって俺たちの中での序列をハッキリさせようぜ!」
「それいいね」
ブラッドフォードはチャールズ王子のリーグ戦の案にノリノリだ。
「じゃあ、さっそく始めるか!」
早速、小屋の壁に備え付けてあった練習刀を持ち出してやる気満々なチャールズ王子。
それをウィリアム王子が止めた。
「今から始めてもすぐに日没だろう。それにまだ重量挙げのダメージが癒えてないんじゃないか?」
「そう言われるとそうだな……」
ウィリアム王子が仕切り始める。
こういう所でリーダーシップを発揮するとこは将来の王様候補だけはあるのよね。
「じゃあ、試合は今度の日曜でどうだ?」
「それでいい」
「勝者が決まるまで試合を続ける。それでいいな?」
「おう!」
みんな盛り上がっていた。
そこにアイから提案が出される。
「どうせなら試合の優勝賞品を決めたい」
「商品かー。賞金でも出すか?」
「却下」
ウィリアム王子の提案はアイによって即蹴られた。
王子を全く敬ってないアイは恐るべし。
「優勝者は願いをなにか一つ叶える権利。お金は賭けないで敗者が奉仕する」
なに、その王様ゲームみたいな商品は……。
アイが狙っているのはわたしに関するなにかなのは丸わかりなので嫌な予感しかしない。
アイの提案を聞いたブラッドフォードは大喜びだ。
「いいね! じゃあ俺はマリエルと――――」
チャールズ王子から即ツッコミが入った。
「エッチなのはダメだぞ」
「ちがうわい!」
「じゃあ、どんな願いなんだよ?」
「そ、それは優勝するまで内緒だ」
「エッチなのしか考えてなかったな」
「ち、ちがうわい!」
こうしてラインハルトの小屋での憩いのひとときは過ぎてゆく。
*
そして迎えた日曜日。
みんな武闘会の時みたいに本気装備を着込んでいた。
ウィリアム王子、チャールズ王子はご自慢の重装備。
マリエル、ブラッドフォード、アイとわたしは素早さ重視の軽装備だ。
ラインハルトが審判をし、試合のルールを説明する。
「試合は一対一で行い、一試合3分で総当たり。武器は練習用の模擬刀を使う。騎士団の試合みたいなお行儀のいい有効打ごとのポイントルールみたいなのは無しで、弾き返せない状態で喉に練習刀を突きつけたり、相手を戦闘不能にさせたり、転倒させて馬乗りになって剣を突き付けた時点で勝ちだ。それでいいな?」
ウィリアム王子が眉を顰める。
「ずいぶんと乱暴なルールなんだな」
「小手先の小技で勝負がついたらお前らは絶対に納得しないだろう」
ブラッドフォードもチャールズ王子も頷いている。
ラインハルトは念を押す。
「それとケガをさせない為に俺が勝負がついたと判断したらそこで試合は終わりだからな」
「わかった」
皆、納得したようだった。
「要するに相手がぶっ倒れるぐらい力任せにぶちのめせばいいんだな」
極一部、ルールを理解しているのかいないのか不穏な事をつぶやいているブラッドフォードを除いて……。
「ポーションもこれだけ用意しているし、多少の怪我ならすぐにわたしが治すから安心して試合するのよ」
ポーションの山と、マリーさんの心強い言葉と主に試合が始まった。
*
まずはチャールズ王子とブラッドフォードの試合だ。
ブラッドフォードが叫ぶ!
「俺、この試合で優勝したらマリエルの手料理を食べさせて貰うんだ」
それを聞いてチャールズ王子が目を丸くする。
「その手が、あったのか! 俺はアイとのデートしか考えていなかったけど、手料理の方が断然いいな!」
不敵な笑みを浮かべるチャールズ王子。
「まあ、お前が俺に勝てることは無いから、考えるのは無駄だ」
「なんだと!」
それから二人の力と力がぶつかり合う試合が始まった。
剣と剣が激しくぶつかる。
二人ともパワー重視の両手剣を使っているがあくまでも練習刀。
刃を潰して中身に砂を入れている模擬刀なのに衝撃音は真剣としか思えない音でおかしい。
ガイン! ガイン! ガイン!
そして大量に飛び散る火花!
「どうだ? 俺の剣は!」
「なかなか重いな」
「お前の剣もな」
互いを認め合う二人。
認め合うというよりも驚きに近い。
ブラッドフォードは焦り始めていた。
「俺の渾身の攻撃で武器を弾き飛ばしてやろうと思ったら、全部の攻撃を受け止めるのかよ」
「これじゃ、いつまで経っても勝負がつきそうもねぇな」
「それじゃ、俺のとっておきで決めてやるか」
「なんだよ、それは? 必殺技か?」
「ああ」
「じゃあ、俺も!」
攻撃を止める二人。
ひりつく空気が二人を包む。
ブラッドフォードが声を上げる。
それも素っ頓狂な感じで。
「アイが魔物に襲われている!」
それを聞いたチャールズ王子はアイを助けるべく、辺り一帯に視線を向ける。
アイを見つけたが魔物なんていない。
アイビスの横に立ち、紅茶をカップに注いでいた。
「嘘かよ……」
嘘だと気が付いた時には手遅れだ。
ブラッドフォードが目の前に迫っている。
そして強烈な一発を横っ腹に貰っていた。
「ぐはぁぁ!」
大剣の攻撃を食らって吹き飛ばされるチャールズ王子。
倒れたチャールズ王子にブラッドフォードが剣を突きつける。
チャールズ王子は納得していないようだ。
「汚ねぇ~!」
「試合の最中に余所見をする方が悪い」
勝つ為にどんなこともする貪欲な姿勢は評価できるけど、やり口が汚すぎる。
そしてセコ過ぎた。
「アイビスの手料理の為ならば、俺は神にも抗う!」
どこかで聞いたようなカッコいいセリフだが、こんなセコい事をした後にいうセリフじゃない。
勝ちにこだわるその姿勢は素晴らしいかもしれないが、やっていることは酷過ぎた。
観戦していた他のメンバーもラインハルトもマリーさんもドン引きだ。
ラインハルトが判定を下す。
「色々あったけど、勝負はついたようだな。勝者ブラッドフォード」
判定を聞いたチャールズ王子が怒る。
「反則負けじゃないのかよ!」
ラインハルトは落ち着いた雰囲気で諭すように告げた。
「剣の試合としては確かに反則レベルの汚い手だったが、これが実戦だったら汚いことをされようが負けて死んだら文句も言えまい。これはそういう試合だ。そしてお前たちはそういう試合がしたかったんだろ?」
みんなその言葉を聞いて納得してしまった。




