表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/88

夏休み後の実力測定③

 残る測定は牧草ロール切りだけだわ。


 巨大な牧草ロールを剣で斬って剣技を計るの。


 日本刀の居合切りを模したもので、畳表を丸めたのの代わりに巨大な牧草ロールで剣技を競う派手なイベントね。


 牧草ロール切りって懐かしいわ。


 乙女ゲームの『リルティア王国物語』でこの牧草切りイベントがマリエルの女騎士ルート突入の開始条件になるトリガークエストになるの。


 このクエストのクリア条件があり得ないぐらい厳しくて、完全に脳筋キャラに育てていても育成段階で剣技の練習をやり続けて剣技スキルの最高理論値を引きまくってないと突入できないぐらいバランスが悪かったのよね。


 おまけに『リルティア王国物語』ではこのクエが始まるのは武闘会前で他のキャラのルート突入条件が夏休み以降だったので誰も女騎士ルートに突入できず、ブラッドフォードが攻略キャラだったなんて発売後だいぶ経つまでわからなかったの。


 女騎士ルートのトリガークエと言っても実際に女騎士ルートが始まるのは2年生になってからなのでこの時点でルート分岐条件が発生してるなんてわかる訳ないわ。


 懐かしい思い出ね。


 この高難易度の原因はファンディスクで真相が語られていたわ。


 実は開発中の牧草ロール切りイベントのクリア難易度は2-3回剣の鍛錬をしていれば誰もがクリアできる程低かったらしいの。


 その結果、誰がテストプレイしてもブラッドフォードルートにしか突入できなかったそう。


 それが発覚したのがゲームの開発(マスター)終了(アップ)3日前。


 慌てて牧草ロール切りイベントのクリア難易度を上げたら、今度は逆に誰もクリア出来無ない程の鬼畜難易度になってしまったそうなのよ。


 単なる調整不足だったんだけど、今と違ってネットで修正パッチを配布とか出来ない時代だったからリルティアを代表する高難易度イベントになってしまったのよね……。


 『リルティア王国物語』ではクラスメイトの誰もが牧草ロールを切ることが出来ないなか、マリエルただ一人が牧草ロールを両断することが出来てそれを見てブラッドフォードがマリエルに興味を持つって流れだったわ。


 でも、今回の牧草ロール切りはゲームと違い夏休みの後に開かれるから結果がどうなるのか楽しみだわ。


 牧草ロールを両断したわたしにブラッドフォードが告白しだすかもしれない。


 さすがに、そんなことは起きないか。


 結果から言うと、これから牧草ロール切りに挑戦するわたしたちを除いてクラスメイトの誰もがクリア出来なかったわ。


 ウィリアム王子がわたしたちに聞く。


「誰から挑戦するか?」


「俺から行くわ」


 最初に手を上げたのはチャールズ王子だった。


 ウィリアム王子は心配そう。


「もう少し休んで回復してからの方がいいんじゃないか?」


「どうせ、5分や10分の休憩じゃ回復しないから先に行くわ」


「そうか」


「でやっ!」


 牧草ロールの前に立ち掛け声と共に剣を振り降ろすチャールズ王子。


 牧草ロールの半分ちょっとを切断したところで剣が止まった。


「こんなものか……」


 こんなものと言いつつ、クラスメイトの誰よりもいい結果だ。


「次は俺が行く」


 名乗りを上げたのはブラッドフォード。


 結果は……牧草ロールの8割ほど切断したところで剣が止まった。


「本調子なら切れたと思うんだけどな……」


 ブラッドフォードも重量挙げの疲労が残っていたみたい。


「次はマリエルでどうだ?」


 ウィリアム王子に促されて牧草ロールの前に立つマリエル。


「てや!」


 牧草ロールは全く切れてない?


 と、思ったら牧草ロールの上半分がずれはじめて崩れ落ちた。


 思わず感嘆の声を上げる先生。


「お見事!」


 さすがメインヒロインね。


 私も負けてられない。


「次はわたしがいくわ」


 悪役令嬢のわたしが牧草ロールを両断したらクラスメイトはどんな目で見るんだろう。


 そんなことを期待しつつ牧草ロールに切りかかる。


「てや!」


 牧草ロールは両断。


 と思いきや、剣がロールの8割の所で止まっていた。


「くー」


 あとちょっとだったのに、惜しかった。


 悔しがっているとアイが慰めてくる。


「アイがアイビス様の(かたき)を討ってきます」


 そう言うとアイは全力で剣を振り降ろす。


 その速度は凄まじく、衝撃で牧草ロールは爆散した。


 先生は驚きすぎて声も上げられない。


 アイは得意気に親指を上げていた。


「ぐっ!」


 「ぐっ」じゃないわよ。


 みんな牧草まみれじゃない。


「アイくん、魔法は使ったらいかん!」


 あまりの爆散ぷりに、アイは炸裂魔法を使ったんじゃないかと先生に怒られてたわ。


「アイが使ったのは魔法じゃない。アイビス様への愛」


 先生には思いっきりスルーされていた。


 最後はウィリアムの番だったけど、牧草ロールの7割ぐらいの所で止まっている。


 他のクラスメイトよりもいい成績だったけど、牧草ロールを爆散させたアイの後じゃ地味だったわね。


 結局、ゲームと同じく牧草ロールを綺麗に切れたのはマリエルだけだったの。


 他の人が牧草ロールを両断してブラッドフォードが新たなヒロインに恋をするなんてややこしいことにならず、ゲームと同じ結果になったことにホッとしたわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ